【馬肉だけOK】豚や牛はダメなのにナゼ?──馬刺しだけが“生”で食べられる本当の理由

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焼肉屋で豚トロはしっかり焼く。ユッケを食べるなら、厳しい基準をクリアした専門店で。私たちは、食肉の生食には危険が伴うことを、経験と知識で知っています。豚肉や鶏肉はもちろん、牛肉でさえ、その扱いは非常にデリケートです。

…しかし、ここで一つの大きな疑問が浮かび上がります。

なぜ、「馬刺し」だけは、当たり前のように“生”で食べられているのでしょうか?

魚の刺身とはわけが違う。家畜として育てられる環境は、牛や豚と大きくは変わらないはず。それなのに、なぜ馬だけが特別扱いなのでしょうか。

その答えは、「新鮮だから」という単純な理由だけでは説明がつきません。実は、馬刺しの安全性を支えているのは、馬という動物が生まれながらに持つ“奇跡的な身体の特性”と、それを守り抜く“人間の徹底した取り組み”という、二つの強固な理由が存在するのです。

今回は、この知られざる馬刺しの安全神話の裏側を、深く、そして分かりやすく解き明かしていきましょう。


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第一章:天然の要塞か? 馬が持つ「食中毒を寄せ付けない身体」

まず驚くべきは、馬という動物そのものが、食中毒菌に対して非常に“強い”という事実です。他の家畜とは一線を画す、その身体的なアドバンテージを見ていきましょう。


その①:高体温という名のバリア

意外と知られていませんが、馬の平均体温は約38.5~39.0℃と高く、牛や豚よりも高い傾向にあります。これが、食中毒菌にとって非常に住みにくい環境を作り出しているのです。

  • O-157
  • サルモネラ菌
  • カンピロバクター

これらの食中毒を引き起こす代表的な細菌は、馬の高い体温の中では増殖しづらいことがわかっています。

厚生労働省の長年の調査でも、市販の馬刺しからこれらの菌が検出された例はないとされており、その“防御力”は折り紙付きです。


その②:“反芻しない”という消化スタイルの優位性

牛は4つの胃を持ち、一度飲み込んだ食べ物を口に戻して再び噛む「反芻(はんすう)」を行います。

この複雑な消化プロセスが、実はO-157(腸管出血性大腸菌)を保菌するリスクを高める一因とされています。

一方、馬は私たち人間と同じ「単胃動物」。反芻をしないため、そもそもO-157を保菌しているリスクが牛に比べて格段に低いのです。

ブクブー
ブクブー

「へぇ〜!馬さんって、体温も高いし、胃のカタチも違うのかブー! まるで歩く無菌室みたいだブーね!すごいんだブー!」


もう一つ注目すべきが「蹄(ひづめ)」の違い。
牛や豚は“偶蹄類”で、口蹄疫の感染リスクを共有しますが、
馬は“奇蹄類”。この構造の違いが特定疾病にも強い防波堤となっているのです。


第二章:人間の執念が築いた「絶対安全」への道筋

馬が持つ優れた特性。しかし、私たちはその“天然の恵み”にあぐらをかいているわけではありません。私たちが安心して馬刺しを口にできる裏側には、法律と科学に裏打ちされた、人間の徹底した努力が存在します。


切り札は「冷凍処理」という名の最終防衛ライン

馬肉には、ごく稀に「ザルコシスティス・フェアリー」という寄生虫が存在する可能性がゼロではありません。

これは人体に寄生するものではなく、万が一口にしても軽度の一時的な症状で済むとされていますが、リスクは徹底的に排除しなければなりません。

そこで国が定めたのが、生食用馬肉に対する冷凍処理の義務化です。

POINT

「中心温度-20℃で48時間以上冷凍する」
この極低温での処理により、寄生虫は完全に死滅します。つまり、私たちが口にする馬刺しは、一度この厳格なルールに則って冷凍・解凍された、いわば“安全性が保証された肉”なのです。


ミクロの敵も見逃さない、徹底された衛生管理

もちろん、安全対策は冷凍処理だけではありません。
生食用の馬肉を扱う加工施設では、まるで精密機械工場のような厳しい衛生管理が敷かれています。

  • 専用器具の使用、作業ごとの洗浄・消毒の徹底
  • 肉の塊の表面を削ぎ落とす「トリミング」という衛生処理
  • 作業員の健康状態や身だしなみに至るまでの厳格なチェック

生産から加工、流通、そして私たちの食卓に届くまで。その全工程で張り巡らされた衛生管理のネットワークが、馬刺しの安全を支えています。

ブクブー
ブクブー

「ただ新鮮なだけじゃなくて、一度カッチカチに凍らせてたんだブー! 人間の知恵と努力も、お肉の安全を守ってるんだブーね!」


第三章:【比較解説】なぜ豚と牛の“生食”は厳しく制限されるのか?

馬刺しの安全性をより深く理解するために、他の食肉の生食がなぜ危険とされるのかを見てみましょう。


【絶対NG】豚肉に潜む“見えざる脅威”

豚肉の生食が法律で固く禁じられているのには、明確な理由があります。豚の肉や内臓には、少量でも人体に深刻なダメージを与える病原体が存在するリスクがあるからです。

  • E型肝炎ウイルス:重篤な肝炎を引き起こす。
  • 有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう):脳にまで寄生し、深刻な後遺症を残すことがある寄生虫。

これらのリスクは加熱によって完全に防げるため、豚肉は中心部までしっかり火を通すことが絶対のルールとされています。


【厳戒態勢】牛肉の生食が“特別なもの”である理由

牛肉、特にその内臓には、O-157などの食中毒菌が存在するリスクが常に付きまといます。そのため、牛肉を生食用として提供するには、食品衛生法で定められた極めて厳しい規格基準をクリアし、保健所の認可を得なければなりません。

表面の加熱殺菌やトリミングなど、その工程は非常に複雑で、だからこそ生食用の牛肉は特別な存在なのです。

こうして比較すると、馬肉がいかに生食に適した特性を持っているかが、より鮮明に浮かび上がってきます。


終章:馬刺しという食文化は「奇跡」と「努力」の結晶である

結論として、私たちが馬刺しを安心して生で食べられるのは、

  1. 高体温や単胃構造といった、馬自身が持つ“食中毒への耐性”という奇跡(自然の恵み)
  2. 冷凍処理の義務化や徹底した衛生管理という、“人間の執念”とも言える安全対策(人間の努力)

この二つが噛み合って、初めて成立しているのが「馬刺し」という食文化です。

一枚の馬刺しを口に運ぶとき。その舌の上でとろける美味しさの裏には、馬という動物が進化の過程で手に入れた奇跡のボディと、食の安全を追求し続けてきた人々の、長く、そして真摯な戦いの歴史が隠されています。

次に馬刺しを食べる機会があれば、ぜひこの物語を思い出してみてください。きっと、いつもより深く、滋味豊かな味わいを感じられるはずです。

ブクブー
ブクブー

「これからは馬刺しを食べるたびに、馬さんと、安全を守ってくれる人たちに『ありがとう』って感謝の気持ちでいっぱいになるブー! いただきますだブー!」

グルメ動物教養雑学
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