フルーツゼリーのカップを手に取った時、多くの人の視界にふっと入ってくる、ひらがな3文字のロゴ──
「たらみ」
どこか柔らかくて、ちょっと不思議で、一度見たら忘れにくいその響きは、スーパーマーケットやコンビニの冷蔵棚で、確かな存在感を放っている。
しかし、ふと考えてみると、不思議だ。「たらみ」とは一体何なのか。人名でもなければ、果物の名前でもない。その由来を知らないまま、食べ続けている人も少なくないだろう。
なぜ、この会社は「たらみ」と名乗ることにしたのか。
なぜ、ひらがな3文字なのか。
そして、長崎の一角から始まった小さな青果店が、どのようにして「ゼリーの王」と呼べるほどの存在へと成長していったのか。
本稿は、「たらみ」という社名の由来を起点に、その背後にある故郷への思いと、フルーツゼリー市場でトップブランドにのし上がるまでの成長の軌跡を、丁寧にたどるレポートである。
第一章:「たらみ」という名前はどこから来たのか──地名がそのまま社名になった会社
結論から言えば、「たらみ」という社名は、決して奇をてらった造語ではない。むしろ、とても素直で、ストレートな名付けだ。
- 創業の地:長崎県西彼杵郡多良見町(たらみちょう)(現・長崎県諫早市)
- 起源の社名:1969年創業の「多良見青果」
- 社名変更:全国ブランドとしての展開を見据え、1988年に「株式会社たらみ」へ改称
つまり、「たらみ」とは、創業の地である多良見町の名前を、そのまま、ひらがなで社名にしたもの。派手さよりも、原点への敬意と親しみやすさを優先した選択であった。
この「多良見」から「たらみ」への変換は、全国的に読みやすく、覚えてもらいやすいというだけでなく、結果として「丸っこく」「甘く」「やさしい」という、ゼリーのイメージと絶妙に重なる語感を生み出したのである。

「へぇ~!オシャレな造語かと思ったら、地元の町の名前だったんだブー!しかも、読みにくい漢字を、あえて“ひらがな”にしたおかげで、ゼリーっぽい優しいイメージになってるんだブーね!」
第二章:長崎の青果店から“ゼリー王国”へ──成長を決めた二つの転機
社名の由来はシンプルだが、その成長物語は決して平坦ではない。小さな青果店から始まった企業が、なぜここまで大きくなったのか。その背景には、時代の波を的確にとらえた二つの大きな転機があった。
- ① 「ナタデココ」ブームを射止めた感度
- 1990年代前半、日本中にナタデココブームが巻き起こる。たらみは、フルーツとゼリーのノウハウを活かし、いち早くナタデココ入りデザートを商品化。このヒットによって、単なる地方メーカーから、「ゼリーと言えば、たらみ」というイメージを全国に浸透させていく。
- ② ダイドーグループ入りで得た“背骨”
- その後、フルーツゼリー市場で存在感を高めたたらみは、飲料で知られるダイドーグループホールディングスの一員となる。スーパーマーケットやコンビニの流通網、ブランド戦略、安定した資本力。これらを背景に、ゼリー事業に腰を据えて取り組める体制が整い、たらみブランドは“日常の中の小さな贅沢”の象徴となっていった。

「ナタデココ懐かしいんだブー……!あのブームのとき、たらみのカップを何個も食べた人、多いはずだブー!あのタイミングでバシッと商品を出せたのは、“目利きの青果店”の感覚があったからなんだブーね!」
第三章:なぜ、たらみのゼリーは“ちゃんとしている”と感じるのか──素材と水へのこだわり
たらみのゼリーには、どこか「ちゃんとしている」という印象がある。その理由は、創業時からの青果店としての目線と、長崎という土地が育んだ「水」のストーリーにある。
- ① 「フルーツ屋」が選ぶ果物
- もともと青果店としてスタートしたたらみは、「どのフルーツが、どう熟したときに一番美味しいか」を知っている。ゼリーに入れる果物は、見た目・食感・甘み・酸味のバランスまで計算したうえで、産地や品種を選び分けているのだ。
- ② 名峰・多良岳の“水”が支えるゼリー
- たらみの工場は、名水でも知られる長崎県の名峰「多良岳(たらだけ)」の麓に位置する。ゼリーのベースとなる水には、この地域の清らかな水が使われており、そのすっきりとした飲み口が、後味の軽やかさにつながっている。
社名となった「多良見(たらみ)」という地名と、名水を生む「多良岳(たらだけ)」という山。社名と工場立地には、実は“水と土地”の物語が静かに潜んでいるのだ。

「“多良見”の“たらみ”で、“多良岳”の水で作ったゼリー……地名と山と水が、ちゃんと一本の線でつながってるんだブー!そう聞くと、カップの中に長崎の景色まで入ってるみたいに感じるんだブーね!」
終章:社名は「物語の入口」──たらみが教えてくれる、地方ブランドの可能性
「たらみ」という社名の由来をたどると、それは一見、とても控えめな答えに行き着く。
──創業した町、多良見町の名前を、そのままひらがなにしただけ。
しかし、その素朴な名付けの裏側には、長崎の一角で始まった青果店の挑戦、ナタデココブームを捉えた瞬発力、多良岳の水とフルーツへのこだわり、そして「日常に置けるご褒美」というブランド哲学──。数えきれないほどの物語が折り重なっている。
社名は、企業のすべてを語り尽くすことはできない。だが、「たらみ」という三文字は、この企業が決して原点を忘れず、故郷とともに歩んできたことを、静かに雄弁に物語っている。
次にコンビニやスーパーで「たらみ」のゼリーを手に取るとき、ラベルの隅にある、小さなひらがなロゴを、少しだけ意識して眺めてみてほしい。そこには、長崎の海と山と水、そして「フルーツで人を笑顔にしたい」という、創業の気持ちが、今も変わらず、ゆっくりと揺れている。



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