「アナログ時代を含め63年、島根を見つめ共に歩んだ──」
2025年10月4日、NHK松江放送局の公式X(旧Twitter)アカウントがそうつぶやいた。
松江局のEテレコールサイン「JOTB-DTV」は、この翌日をもって“見納め”。
6日から、全国すべての教育テレビが東京の「JOAB-DTV」へ統一される。
放送マニアの間では「鳥取との統合か?」との観測もあったが、
ふたを開けてみれば、もっと大きな“制度の地殻変動”だった。
それは──NHK教育テレビの全国中継局化。
Eテレの独自コールサインが消えるということは、単なる名称変更ではない。
日本の放送制度そのものが、ひとつの転換点を迎えているのだ。
第1章:Eテレが「東京の中継局」になった日
2025年10月、全国すべてのEテレ局が東京のコールサイン「JOAB-DTV」へ統一された。
これにより、札幌も大阪も松江も──形式上は“東京の中継局”という扱いに。

「つまり、全国どこでも“東京Eテレ”を観てるってことになるブー!」
これは、放送マニアにとって驚くべき出来事だ。
従来、Eテレには「NHK大阪教育テレビジョン」「NHK福岡教育テレビジョン」など、地域ごとに固有のコールサインが存在した。
だが、教育テレビは長らく全国同一編成で運用されてきた。
つまり“地域ごとに免許を分ける意味”が、すでにほぼ消えていたのである。
制度上も、2024年の放送法改正で「複数地域で同一番組を放送する場合、単一免許で可」と明文化。
NHKはこの法改正を機に、全国を一つの教育ネットワークとして再構築したのだ。
第2章:「JOTB-DTV」が語る地方局の誇りと終幕
松江放送局のポストには、歴代のEテレロゴが並んでいた。
“NHK松江教育テレビジョン”という文字と共に、地域の空と共にあった63年の歩みが映し出されている。
「島根を見つめ共に歩んだ」
その言葉の奥には、“教育電波の誇り”が宿っていた。
地方局のEテレコールサインは、単なる符号ではない。
災害時の情報伝達・地域教材の放送・学校行事の中継など、
地域社会と教育を結ぶ「もう一つの教室」として機能していたのだ。
しかし制度統一により、それらの“自主放送権限”は原則消滅。
各局は今後、東京の送信を中継するだけの技術拠点となる。
第3章:なぜ今、“全国一体化”なのか
Eテレの全国統一には三つの背景がある。
- 経営合理化と免許削減
各地域局が持っていた基幹免許を一本化し、事務・法務コストを圧縮。
免許更新や報告業務の削減による、年間数千万円単位の効率化も見込まれる。 - 放送法改正による制度的後押し
「全国同一番組であれば一局免許で可」という新ルールにより、
技術的にも“東京親局+全国中継”方式が合法的に整理された。 - ラジオ第2の廃止との連動
ラジオ第2放送(JOAB)は2026年3月末で終了予定。
Eテレの“JOAB-DTV”という符号はラジオ第2を継承しており、
教育系チャンネルの整理として、コールサイン返上が行われた。

「つまり、ラジオとテレビの“教育ペア”がまとめて卒業するブー!」
第4章:「うちなーであそぼ」が映した制度の影
沖縄の人気教育番組「うちなーであそぼ」は、これまでEテレ沖縄で放送されてきた。
だがこの秋、その放送枠が総合テレビに移動した。
「全国的にも珍しかったEテレのローカル番組が、総合に移っている」
──というSNSの投稿が象徴するように、
Eテレでは地方番組が放送できない制度環境が生まれている。
中継局化されたEテレでは、地方ごとに番組を差し替える機能が制度上消滅。
「教育テレビの地域版」は、今後存在しなくなる。
結果として、教育・文化の発信は総合テレビやネット配信(NHKプラス)へ移る流れに。
教育チャンネルが“教育そのものの多様性”を失う paradox──それが、いま起きている。
第5章:Nコンと高校野球、“地域放送”の行方
Eテレが地域番組を扱えなくなる影響は、教育コンテンツ以外にも及ぶ。
代表例が次の二つだ。
- 全国学校音楽コンクール(Nコン)地方大会
- 高校野球地方大会の決勝中継
これらはEテレで地域差し替え放送されることが多かったが、
中継局化後は「独自放送」がおそらく不可能に。
NHKは次のような方針転換を進める可能性がある。
従来 | 今後の想定 |
---|---|
地上波Eテレで地方差し替え中継 | NHKプラスでのネット配信や総合テレビでのローカル枠に移行 |
各局独自編成 | 東京親局からの中継信号を全国統一で送出 |

「“地域の声”は地上波からネットへ移る時代だブー…!」
第6章:コストは“浮く”のか?
コールサイン返上でNHKの負担は軽減される。
免許管理・法務手続・地域差し替えの制作管理など、
数十局分の事務・システム・人件費を統合できるためだ。
ただし、放送設備の維持コストはそのまま残る。
中継局の電力・保守・通信回線などは、全国網として稼働を続けるからだ。
つまり、劇的に経費が浮くわけではない。
むしろ当面は統合処理や制度変更の初期コストがかかり、
本格的な効率化効果が出るのは中長期と見られる。
第7章:それでも“見納め”に涙する理由
コールサインとは、単なる記号ではない。
それは地域の放送史そのものだ。
松江の「JOTB-DTV」も、北海道の「JOIQ-DTV」も、
地方教育局のエンジニアや職員にとっては、
“自分たちの電波”を誇る旗印だった。
「63年間、島根を見つめた」
──その言葉には、地方の教育放送が果たしてきた使命が宿っている。
それが、東京の一つのコールサインに吸収されていく現実。
そこには、効率化と引き換えに失われる“文化の声”がある。

「制度は進化しても、“地域を見つめる目”は消してほしくないブー」
◆まとめ:JOAB-DTVが問う、“教育の首都化”
Eテレ全国統一──それは、電波の整理であり、文化の節目でもある。
これまで各地の空を流れていた“JOTB-DTV”“JOIQ-DTV”という符号が消え、
全国が「JOAB-DTV」に収束する。
だがその一方で、
「うちなーであそぼ」や「Nコン地方大会」といった地域教育文化の表現の場は縮小している。
公共放送の合理化が、
地域の学びを置き去りにしていないか──。
「教育の首都化」
それは、時代の要請であると同時に、
私たちの社会が“どこで、誰と学ぶのか”を問い直すシグナルでもある。
- 2025年10月:Eテレ全国で「JOAB-DTV」へ統一
- 地方Eテレ(例:JOTB-DTV松江)は免許返上・中継局化
- ラジオ第2放送(2026年3月末終了予定)と連動
- 「うちなーであそぼ」などローカル番組は総合テレビへ
- Nコン・高校野球地方大会なども今後はネットor総合枠に移行
- コストは中長期で圧縮可能だが、地域文化の発信力は縮小傾向
Eテレは、戦後日本の“もう一つの教科書”だった。
地域に根ざし、学校と家庭をつなぎ、子どもたちに夢と知を与えてきた。
そして今、
その電波が一本の「JOAB-DTV」という線に束ねられようとしている。
便利さの裏で失われる「声なき地域性」。
それをどう守るかは、もはやNHKだけの課題ではない。

「“教育を一極化しない”っていう学びこそ、今の時代に必要だブー!」
コメント