子供のインフルエンザ「異常行動」原因は「ウイルス」か「薬」か──“タミフル問題”の真相

突然、興奮して部屋を飛び出そうとする。ベランダの窓を開け、飛び降りようとする。あるいは、いるはずのない友人がいると言い、自分の指を「ハムだ」と言ってかじり始める――。

これらは、決して、ホラー映画の脚本ではない。インフルエンザに罹患（りかん）した子供が、突然示す可能性のある「異常行動」の、実際に報告されている事例である。

2025年11月、全国で猛威をふるうインフルエンザ。その中で、東京・杉並区のマンションから、インフルエンザで発熱していた小学1年生の男の子が転落するという、痛ましい事故も発生した。

多くの親が、かつて「タミフル」などの抗インフルエンザ薬の副作用として、この「異常行動」を記憶しているかもしれない。しかし、最新の医学的知見と厚生労働省の公式な呼びかけは、我々が信じてきた“常識”に、警鐘を鳴らしている。

本稿は、この恐ろしい「異常行動」が、なぜ、そして、どのようにして起きるのか、その原因は本当に「薬」なのか、それとも「ウイルス」そのものなのか、という長年の疑問の真相に迫り、そして、愛する我が子の命を守るために、親が知っておくべき、具体的な対策を解き明かすレポートである。

第一章：異常行動の具体的な症例──「ハムだ」と言い、指をかじる

厚生労働省などが報告している「異常行動」の事例は、我々の想像を絶する、多岐にわたるものである。

• 突発的な行動・運動
  • 突然立ち上がって部屋から出ようとする。
  • 興奮して窓を開けてベランダに出て飛び降りようとする。
  • 突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする。
• 幻覚・幻聴・妄想
  • 人に襲われるという感覚を覚え、恐怖で外に走り出す。
  • いるはずのない家族や友人などがいる、と話す。
  • 夜間に、母親を包丁を持って襲おうとした、という過去の調査報告もある。
• 意味不明な言動
  • 自宅から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない。
  • 突然、「〜でございます」といった、普段使わない丁寧な言葉を使いだす。
  • 奇声をあげたり、おかしな歌のうたい方をする。
  • そして、過去の患者家族への調査では、「自分の指を『ハムだ』と言いかじった」という、衝撃的なケースも報告されている。

これらの行動は、就学後の小児や、未成年者での報告が多く、特に、発熱から2日間は、注意が必要であるとされている。

ブクブー

「自分の指を『ハムだ』と言ってかじる…！？ただの熱せん妄とは、レベルが違うんだブー…。これが自分の子供に起きたらって考えると、本当に怖いんだブー…。」

第二章：原因は「ウイルス」か、「薬」か──“タミフル問題”の真相

2000年代、抗インフルエンザ薬「タミフル」の服用と、異常行動・突然死との関連が、社会的な大問題となったことは、多くの人々の記憶に残っているだろう。しかし、その後の、長年にわたる、大規模な調査と研究の結果、我々は、新たな事実に直面することになる。

• 厚生労働省の、現在の公式見解
  • 厚生労働省は、現在、「抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザにかかった時には、異常行動が報告されている」と、明確に結論づけている。 つまり、異常行動は、特定の薬の副作用として起きるのではなく、インフルエンザという病気そのものの症状として、現れる可能性がある、というのが、現在の公式な見解である。
• では、なぜ起きるのか？ ウイルスの「中枢神経への親和性」
  • 専門の医師によれば、インフルエンザウイルスは、他の多くの風邪ウイルスと比較して、「中枢神経（脳や脊髄）に対する親和性が高い」という特徴を持つ。
  • ウイルスが脳に影響を及ぼすことで、高熱に伴う「熱せん妄」とは異なる、より深刻な神経症状を引き起こすことがある。これが、異常な言動や、けいれん、そして、最も重篤な場合には「急性脳症」といった、命に関わる状態に繋がる可能性があるのだ。
  • 特に、免疫系が未熟な、幼稚園児や小学生といった、低年齢の子供で、その傾向が顕著に見られると指摘されている。

ブクブー

「そうだったんだブー！ずっとタミフルのせいだと思ってたけど、インフルエンザのウイルス自体が、脳に影響することがあるんだブーか…。原因を正しく知らないと、対策も間違えちゃうんだブーね。」

第三章：親が、命を守るためにすべきこと──具体的な予防策と、受診の目安

異常行動が、インフルエンザウイルス自体によって引き起こされる以上、全ての親は、薬の服用の有無にかかわらず、万が一の事態に備える必要がある。

• 最重要：物理的な転落・飛び出し事故の防止
  • 厚生労働省が、最も強く呼びかけているのが、異常行動による事故を防ぐための、物理的な対策である。
    • 玄関や、全ての部屋の窓を、確実に施錠する。（補助錠の活用も有効）
    • ベランダに面していない部屋で、子供を寝かせる。
    • 集合住宅の場合、できる限り、1階の部屋で寝かせる。
    • 一戸建ての場合でも、窓の外に足場になるようなものを置かない。
• 発熱から2日間は、子供を一人にしない
  • 異常行動は、発熱から2日以内に現れることが多いため、この期間は、保護者は、たとえ短い時間であっても、子供を一人にしないよう、最大限の注意を払う必要がある。
• 緊急受診を考慮すべき「危険なサイン」
  • ほとんどの異常行動は、一時的な症状であり、しばらく様子を見ることで、自然に収まることが多い。
  • しかし、医師は「2時間以上続くような異常行動」は、単なる一時的な症状ではなく、より重篤な「急性脳症」へと移行している可能性を示す、危険なサインであると警告している。 そのような場合には、ためらわずに、夜間であっても、救急受診を考慮すべきである。

終章：正しい知識が、最悪の事態を防ぐ

結論として、子供のインフルエンザに伴う「異常行動」は、かつて信じられていたような、特定の薬の副作用ではない。それは、インフルエンザウイルスそのものが、子供の脳に影響を及ぼすことで引き起こされる、恐ろしい症状なのである。

この事実は、我々に、二つの重要な教訓を教えてくれる。

一つは、抗インフルエンザ薬を、過度に恐れる必要はない、ということだ。医師の判断のもと、適切に処方された薬は、ウイルスの増殖を抑え、重症化を防ぐための、有効な武器である。

そして、もう一つ、より重要なことは、薬を飲んでいようといまいと、「インフルエンザにかかった子供は、発熱から2日間、異常行動を起こす可能性がある」という事実を、全ての親が、自らの知識として、備えておく必要がある、ということだ。

玄関の鍵を、一つ、余計にかける。ベランダのない部屋で、一緒に寝る。その、ほんの少しの、しかし、正しい知識に基づいた注意こそが、悪夢のような事故から、我が子の命を守る、最も確実な方法なのである。