2026年2月3日、日本の労働市場において「辞められない労働者の駆け込み寺」として称賛されていた企業が、皮肉にも警察権力によって強制的に“退場”させられた。
警視庁保安課は、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの代表取締役・谷本慎二容疑者(37)および、妻で従業員の谷本志織容疑者(31)を、弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕した。
累計4万人以上の退職を支援し、メディアでも「正義の味方」として持て囃されてきた同社。しかしその実態は、違法な紹介料ビジネス(事件屋稼業)と、社員を精神的に追い詰める過酷な労働環境という、二重の闇を抱えていた。
本稿は、労働者の味方を自称した企業がいかにして法の網を潜り抜け、そしてなぜ自らが批判していた「ブラック企業」そのものに変貌してしまったのか、その構造的矛盾を解明するレポートである。
第一章:「事件屋」としてのビジネスモデル──1件1万6500円の人身売買
逮捕容疑の核心は、同社が特定の弁護士と癒着し、顧客を組織的に横流しすることで対価を得ていた点にある。これは弁護士法で厳しく禁じられた「非弁提携」に該当する。

- キックバックの構造
- モームリは、自社で対応できない法的交渉が必要な案件(残業代請求や損害賠償など)が発生した際、特定の提携弁護士に顧客を紹介していた。
- その見返りとして、顧客1人につき約1万6500円の紹介料を弁護士側から受け取っていたとされる。
- 同社のアルバイト向け代行料金が1万2000円であることを踏まえると、自社で処理するよりも「トラブル案件として弁護士に丸投げ」した方が利益率が高いという、極めて歪んだ収益構造が出来上がっていた。
- 名目の偽装と口止め
- この違法な金銭授受は、「広告宣伝費」や「賛助金」といった名目で処理され、隠蔽されていた。
- 元従業員の証言によれば、社内では「非弁提携は違法だから絶対に外では言うな」と箝口令が敷かれており、谷本容疑者自身が違法性を明確に認識していた(確信犯であった)可能性が高い。

「ええーっ!悩んでるお客さんをお金で売ってたってことだブー!?『助けたい』んじゃなくて『売り飛ばしたい』だったなんて…ショックだブー!」
闇のキックバック構造
- 顧客の横流し: モームリは、残業代請求などの法的交渉が必要な案件が発生した際、特定の提携弁護士に顧客を紹介していた。
- 裏金(紹介料): その見返りとして、弁護士側から「広告宣伝費」や「賛助金」といった名目で、顧客1人につき約1万6500円を受け取っていたとされる。
- 利益優先: 自社の代行料金(1.2万円)よりも、トラブル案件として弁護士に丸投げした方が儲かるという、極めて歪んだ収益構造が出来上がっていた。
第二章:恐怖の内部統制──「赤文字」による公開処刑
対外的には「退職の自由」を説きながら、社内では従業員をがんじがらめにする恐怖政治が行われていた。その主導者は、代表の妻である志織容疑者であったとされる。

- 夫婦による役割分担
- 夫(慎二容疑者)がメディアで理想を語る「表の顔」である一方、妻(志織容疑者)は社内の監視と管理を行う「裏の顔」として君臨していた。
- 些細なミスや業務の遅れに対し、チャットログや日報を監視して執拗に追及するマイクロマネジメントが常態化していた。
- 「赤文字」の晒し上げ
- 特に悪質だったのが、ミスをした従業員の氏名や内容を「赤文字」で強調した資料を全社員に配布・共有するシステムである。
- これは業務改善のためというよりは、羞恥心を与えて萎縮させるための「見せしめ(公開処刑)」であり、明白なパワーハラスメントに該当する。日々パワハラに悩む顧客を救っていた社員たちが、自らもパワハラに晒されるという地獄がそこにはあった。

「赤文字で晒し上げなんて、学校のいじめみたいだブー!『ブラック企業を許さない』って言ってた人たちが、一番ブラックなことをしてたなんて…許せないブー!」
第三章:究極の皮肉──「モームリで働くのがモームリ」
この企業の崩壊を象徴する最もアイロニックな事象が、「自社の社員が、競合他社の退職代行を使って辞めていく」という現実である。

- ライバル企業へのSOS
- 過酷な監視社会に耐えきれなくなった従業員たちは、直属の上司である谷本夫妻に辞意を伝えることすらできず、競合する他の退職代行業者に依頼して退職していった。
- すでに5人以上の社員がこの方法で離職したとされ、モームリのオフィスには競合他社から「御社のAさんが退職します」という電話が入る屈辱的な事態が頻発していた。
- ブラック企業の再生産
- 「ブラック企業から逃げる手助けをする」はずの企業が、社員にとっては「逃げ出したくなるブラック企業」そのものであった。
- この矛盾こそが、理念なき利益追求の末路であり、同社が抱えていた最大の構造的欠陥であったと言える。
終章:浄化される市場
谷本夫妻は「弁護士法違反になるとは思っていなかった」と容疑を否認しているが、組織的な隠蔽工作や口止めの事実が、その弁明の脆弱さを物語っている。
今回の事件は、急速に膨張した退職代行市場における「膿」を出し切る転換点となるだろう。
労働者を食い物にする「貧困ビジネス」や「事件屋」が淘汰され、真に法と倫理を守る適正なサービスだけが生き残る。
そうでなければ、勇気を出して助けを求めた4万人の「辞めたい人々」の信頼は、二度と回復されることはないだろう。


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