スーパーのスナック菓子売り場を歩いていて、「あれ?」と足を止めたことはないだろうか。
カルビーが販売する成形ポテトチップス「クリスプ」。かつてはプリングルズやチップスターと同じく、整然とした円筒形の容器(キャニスター)に入って棚に鎮座していた。
しかし2024年3月のリニューアル以降、その姿は一変し、通常のポテトチップスと同じ「袋(パウチ)」に入って陳列されている。
成形ポテトチップスといえば、あの筒こそがアイデンティティであり、割れを防ぐ要塞であり、少し高級なイメージの象徴だったはずだ。
なぜカルビーは、業界のスタンダードである「筒」を捨て、あえて安っぽくも見える「袋」を選んだのか。
本稿は、このパッケージ変更の裏にある、「SDGsという大義名分」と「コストという切実な本音」、そして「2強(プリングルズ・チップスター)との差別化」という3つの戦略的理由を解き明かすレポートである。
第一章:表向きの理由──「捨てるのが面倒」という顧客不満の解消
カルビーが公式に掲げている理由は、消費者と環境への配慮である。これは決して建前だけではなく、筒型容器が長年抱えていた構造的な欠陥への回答でもある。

- 分別ゴミのストレス解消
- 筒型容器の廃棄は、現代の消費者にとって小さくないストレスだった。「底のスチール缶」「側面の紙」「プラスチックの蓋」を分別するために、カッターや専用の道具で解体しなければならない。
- 袋パッケージへの変更は、食べ終わったら「クルッと丸めてゴミ箱へ」という、究極のユーザビリティを実現した。
- 「最後の一枚」問題の解決
- 筒型あるあるの「手を突っ込むと抜けなくなる」「逆さにして粉まみれになる」という悲劇も、袋なら起きない。袋を広げれば、最後の一枚までストレスなく指で摘むことができる。
- 環境への配慮
- 包装資材の重量を削減することで、プラスチック使用量やCO2排出量を減らすという、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも合理的な判断であった。

「確かに筒を捨てるのは面倒くさいんだブー!底の鉄の部分を外すのにいつも苦労してたブー…。袋ならポイっと捨てられるから楽ちんだブー!」
筒型容器の「三大ストレス」
- 分別の地獄: 「底のスチール缶」「側面の紙」「蓋のプラ」。これらを捨てる際、カッターや専用器具で解体・分別する作業は、現代人にとって苦行でしかなかった。
- 最後の一枚問題: 手を突っ込むと抜けなくなる、逆さにして粉まみれになる。誰もが経験するあの悲劇も、袋なら起きない。
- 環境負荷: 包装資材の重量を削減し、プラスチックやCO2を減らす。これはSDGsの観点からも正しい。
第二章:裏にある切実な理由──「空気」を運ぶコストの限界
しかし、ビジネスの視点で見れば、より切実な理由が見えてくる。それは「コスト」と「売り場」の問題だ。

- 容器コストの高騰
- 近年の原材料費高騰は深刻だ。底に金属、蓋にプラを使う複雑な構造の「筒」を作り続けるコストは、スナック菓子としての利益率を圧迫する。
- 一方、カルビーは袋ポテトチップスの製造において世界トップクラスのノウハウと生産ラインを持つ。自社の得意な「袋」に統一することで、製造コストを劇的に圧縮できる。
- 輸送効率の悪化(空気を運ばない)
- 筒型容器は頑丈だが、中身が減っても体積が変わらない。トラックで運ぶ際、隙間だらけの筒(と中の空気)を運んでいるようなもので、輸送効率が悪い。
- 袋ならば、段ボールにより高密度に詰め込むことができ、物流コストの削減に直結する。
- 売り場での「嫌われ者」からの脱却
- 筒型は棚で「横に置く」しかなく、デッドスペースが生まれやすい。コンビニなどの狭い店舗では、場所を取る割に陳列数が稼げないため敬遠されがちだった。
- 袋になれば、フックに吊るすことも、重ねて置くことも可能になる。小売店側にとっても、袋の方が扱いやすい「正義」の形状なのである。

「空気運んでるだけでお金がかかるなんて勿体ないブー!お店の人にとっても、袋の方が並べやすくてありがたいんだブーね。」
第三章:戦略的転換──「プリングルズの偽物」からの卒業
そして最も重要なのが、マーケティング戦略におけるポジショニングの変更だ。

- 「筒の王者」との戦いを避ける
- 発売当初、クリスプは「プリングルズやチップスターの対抗馬」として筒型を採用し、同じ土俵に立った。
- しかし、先行する2強のブランド力(独自の世界観や贈答用需要)は強固であり、後発のカルビーが同じ「筒」で勝負しても「2番手、3番手」の域を出ない。
- 日常への「民主化」
- そこでカルビーは、「筒に入っている=特別なおやつ」という高級感をあえて捨てた。
- 袋にすることで、「いつものポテトチップス」と同じ棚に並び、「毎日気軽に買える成形ポテト」という新たな市場を開拓したのである。
- これは敗北ではなく、「高級路線の2強」とは別の土俵(日常消費)へ戦場を移す、高度なゲリラ戦術と言える。
終章:袋こそがカルビーの「正装」
結論として、クリスプが筒を捨てたのは、単なるコストダウンの結果ではない。
それは、「分別が面倒」「かさばる」という消費者の潜在的な不満を解消しつつ、自社の最強領域である「袋パッケージ」で勝負するという、合理的かつ攻撃的な戦略転換であった。
中身の食感も、ザクザクした硬めから、口溶けの良いソフトな食感へとリニューアルされている。
スーパーの棚で袋入りのクリスプを見かけたら、それは「安っぽくなった」のではない。「プリングルズの呪縛」から解き放たれ、カルビー本来の姿(袋)に戻った姿なのだと思って手に取ってみてはいかがだろうか。



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