「ネコがアワビを食べると耳が落ちる」は本当?──科学が証明した“光と毒”の恐怖メカニズム

動物
この記事は約5分で読めます。

「ネコにアワビの内臓(トシロ)を食べさせてはいけない。耳が落ちてしまうから」

東北地方の漁村を中心に古くから伝わるこの言い伝え。一見すると、高級食材であるアワビをネコに取られないための、人間による身勝手な嘘(迷信)のように思える。
しかし、これは単なる脅し文句ではなかった。

昭和の時代、東北大学の木村修一教授らによって行われた実験により、この伝説は「科学的に正しい事実」であることが証明されたのである。

なぜ、アワビを食べただけで体の一部が欠損するような事態に陥るのか。

そこには、アワビの食性と太陽光が引き起こす、恐るべき「光化学反応」が関係していた。

本稿は、民間伝承の裏に隠された科学的根拠と、実は人間にとっても無関係ではないその毒性について解明するレポートである。


第一章:なぜ「耳」が落ちるのか?──犯人は“海藻”と“太陽”

アワビそのものに毒があるわけではない。問題は、アワビが食べた「エサ」と、それを食べた後の「環境」にある。

  • 毒の正体「フェオフォーバイド」
    • アワビは海藻(ワカメやコンブ)を主食としている。
    • 海藻に含まれる緑色色素「クロロフィル(葉緑素)」は、アワビの体内で消化される過程で「フェオフォーバイド」という物質に分解され、特に中腸腺(内臓/肝)に蓄積される。
    • このフェオフォーバイドこそが、今回の元凶である。
  • 光線過敏症のメカニズム
    • 実は、フェオフォーバイド単体ではそれほど強い毒性を持たない。しかし、この物質には「光(紫外線)に反応して活性酸素を出し、細胞を破壊する」という性質がある。
    • これを摂取した状態で日光に当たると、体内の血管内で光化学反応が起き、強烈な炎症(光線過敏症)を引き起こすのだ。
  • ネコの耳が狙われる理由
    • なぜ「耳」なのか。それはネコの体の構造上の弱点によるものだ。
    • 体の大部分は厚い毛皮で覆われており光を遮断できるが、耳介(耳)は毛が薄く、皮膚も薄いうえに、毛細血管が透けて見えるほど発達している。
    • その結果、耳の血管内で毒性反応が激化し、激しい皮膚炎とかゆみを引き起こす。ネコがそれを掻きむしることで組織が壊死し、最終的に「ポロリと落ちてしまう(脱落する)」という衝撃的な結末を迎えるのである。
ブクブー
ブクブー

「ひえぇ…!ただの炎症じゃなくて、本当にポロリと落ちちゃうんだブー!?美味しいごはんが太陽の光で毒に変わるなんて、罠すぎるブー!」

POINT

「光」で発動する毒の正体

  • 毒の源: アワビは海藻(ワカメやコンブ)を主食としている。その「葉緑素」が体内で分解されると、「フェオフォーバイド」という物質になり、特に内臓(肝)に蓄積される。
  • 発動条件: この物質は、「日光(紫外線)」に反応して活性酸素を出し、細胞を破壊する性質を持つ。つまり、食べただけでは無害だが、直後に日光を浴びると全身の血管で炎症(光線過敏症)が起きるのだ。

第二章:実験で証明された致死性──「5時間で死ぬ」猛毒

この毒性の強さは、実験データによっても裏付けられている。

  • ネズミによる実験データ
    • 東北大学の研究によれば、フェオフォーバイドをわずか5ミリグラム注射されたネズミに対し、1万ルクス(晴天の日陰〜曇りの屋外程度)の光を当て続けたところ、約5時間で死亡したという。
    • これは単なる皮膚炎にとどまらず、全身の血液内で炎症反応が起きれば死に至る可能性があることを示している。
  • 春先のアワビは特に危険
    • 海藻が繁茂し、アワビがそれを大量に食べる春先(2月〜5月頃)は、内臓に蓄積されるフェオフォーバイドの量が最大化する。
    • 同時に春は紫外線が強くなり始める時期でもあり、この「旬」と「日差し」のタイミングが重なることで、被害が発生しやすくなっていたのだ。
ブクブー
ブクブー

「耳が落ちるだけじゃなくて、最悪死んじゃうんだブー…。春の日向ぼっこが命取りになるなんて、ネコちゃんには酷な話だブー。」


第三章:人間は大丈夫なのか?──安全に食べるためのルール

この現象は、哺乳類である人間にとっても他人事ではない。
人間もアワビの内臓を大量に食べ、直後に日光浴をすれば、重篤な皮膚炎や火傷のような症状を起こすリスクがある。

しかし、我々が日常的にアワビを食べても耳が落ちないのには、明確な理由がある。

  • 代謝までの「6時間」
    • フェオフォーバイドは、摂取してから体外へ代謝・排出されるまでにおよそ6時間かかるとされる。
    • つまり、食べてから6時間は「日光に当たってはいけない」ということだ。
  • 「晩ごはん」なら安全
    • 現代人の食生活において、アワビの肝などを大量に食べるのは主に「夕食」の席である。
    • 食べてすぐに寝てしまえば、翌朝に太陽が昇る頃には毒素は代謝されているため、光化学反応は起こらない。
    • 逆に言えば、「春先のビーチでBBQをして、アワビを丸かじりし、そのまま肌を焼く」といった行為は、自殺行為に近い危険性を孕んでいると言える。
POINT

人間が助かる理由

  • 代謝時間: 毒素(フェオフォーバイド)が体外へ排出されるまでに約6時間かかる。
  • 食習慣: アワビの肝などの珍味を食べるのは、主に「夜(夕食)」だ。食べてすぐに寝てしまえば、翌朝に太陽が昇る頃には毒素は消えているため、光化学反応は起こらない。

終章:先人の知恵と科学の合致

「ネコにアワビを食わせるな」という言い伝えは、単なる迷信ではなく、数多くのネコが犠牲になった経験から導き出された、極めて正確な観察結果であった。

植物の恵みであるはずの「葉緑素」が、太陽の光と出会うことで「毒」に変わる。
自然界のメカニズムは時として人知を超えた牙を剥く。

もし春先に美味しいアワビが手に入ったら、ネコには身の部分だけを分け与え、人間もまた、太陽が沈んだ後にゆっくりと舌鼓を打つのが賢明だろう。

健康動物科学雑学
NEWS OFFをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました