第1章 スタートラインには立たないブー
むかしむかし、あるところに、
足の速いうさぎと、
歩みの遅いかめがいました。
ある日、二匹は言い争いを始めました。
🐰うさぎ:「おれは誰にも負けないスピードを持ってるんだ!」
🐢かめ:「でもコツコツ進めば、きっと最後には勝てるんだ!」
二匹はケンカの末、レースをすることになりました。
ゴールは、遠くの丘の上にある大きな木。
スタートラインには、たくさんの動物たちが集まってきます。
その中に、ちょっと変わったやつがいました。
背中には分厚い本、肩には小さな黄色いポシェット。
青い帽子をかぶった、まるまる太ったこぶたです。
そう、彼こそが──
🐷ブクブー:「……ブー……」
レースが始まろうというのに、ブクブーはひなたぼっこをして、
のんびりと寝転がっています。
🐰うさぎ:「ブクブー、レースしないのか?」
🐢かめ:「せっかくだし、みんなで走ろうよ!」
ブクブーはのんびりと目を開けて、にこっと笑いました。
🐷ブクブー:「走るのもいいけど、今日はいい天気だブー。
せっかくだから、のんびり歩いて、いろんなものを見ながら行きたいブー。」
🐰🐢「……???」
動物たちは、ブクブーのマイペースさに首をかしげました。
でも、うさぎとかめは気にせずレースに集中します。
ドン!
笛の音とともに、うさぎはビューン!とかめはトコトコトコ…。
一方、ブクブーは──
草の上に転がったまま、空を見上げていました。
🐷ブクブー:「空が青いブー。今日はいい旅日和だブー。」


「急がないと見えないもの、いっぱいあるブー。」
第2章 寄り道の天才、ブクブー
スタートラインから飛び出したうさぎと、
トコトコと進むかめ。
二匹はただゴールだけを目指して、
まっすぐな道を走っていきました。
そのずっと後ろで──
ブクブーは草むらにしゃがみこんでいました。
🐷ブクブー:「おお、ちいさな花が咲いてるブー。」
小さな白い花が、草の間から顔をのぞかせています。
ブクブーはポシェットからノートを取り出して、
花の絵を描き始めました。
🐦 そこへ、チュンチュンとスズメがやってきました。
🐷ブクブー:「こんにちはブー。
キミたちはどこに向かってるブー?」
🐦スズメ:「空の広場に行くんだよ。みんなでおしゃべりするんだ!」
ブクブーはスズメたちに手をふって、
またノートにペンを走らせます。

一方、うさぎはぴょんぴょんとジャンプしながら言いました。
🐰うさぎ:「あいつ、まだこんなとこにいるのかよ!のろまなやつだな!」
かめはかめで、必死に地面を見つめながら進み続けます。
🐢かめ:「油断しないでコツコツ行かないと、負けちゃうからね。」
でも、ブクブーは気にしません。
むしろ、一歩一歩を味わって歩いていました。
🐷ブクブー:「急がないと見えないもの、たくさんあるブー。」
ブクブーは花のスケッチを終えると、
またのんびり、ゴールの木を目指して歩きはじめました。
🐷ブクブー:「今日もいい一日になりそうブー。」

「よそ見しながら歩くと、面白いブー!」
第3章 うさぎ、かめ、そしてちいさな奇跡
うさぎはぴょんぴょん跳ねながら、どんどん進んでいました。
だけど、あまりにも自信満々で、途中で立ち止まってしまいます。
🐰うさぎ:「かめなんか、まだずっと後ろだろ?
ちょっと休憩しても、余裕で勝てるさ!」
大きな木の下で、うさぎは横になりました。
暖かい風にふかれて、うとうと…。
かめは、トコトコ、トコトコ。
一生懸命に足を動かして進み続けます。
遅いけれど、止まることはありません。
🐢かめ:「ゆっくりでもいい。あきらめなければ、きっと着ける。」
そのころ──
ブクブーは、野原の小道に座り込んでいました。
🐷ブクブー:「あれは、なんだブー?」
足元に、ちいさなちいさな虫がいました。
とっても小さなてんとう虫。
でも、ひっくり返って、バタバタしています。
🐷ブクブー:「ひっくり返ったままだと大変ブー。」
ブクブーはそっと、指先でてんとう虫を起こしてあげました。
てんとう虫は、しばらくじっとしていましたが、
やがて、パッと羽を広げて空へ飛び立ちました。
🐷ブクブー:「よかったブー。……うれしいブー。」

それを見ていたスズメたちが、ぱちぱちと羽をたたいて拍手します。
🐦スズメ:「ブクブー、すごいね!」
🐦スズメ:「誰も気づかなかった小さな命に気づいたんだね!」
ブクブーはにっこり笑いました。
🐷ブクブー:「急いでたら、見えなかったブー。
ゆっくりだと、大事なものに気づけるブー。」
そして、また背中の大きな本を背負い直して、
ブクブーはのんびり歩き出します。
花の匂いをかぎながら、
草の音を聞きながら、
ゆっくり、ゆっくり。
🐷ブクブー:「旅は、ゴールだけがすべてじゃないブー。
途中もぜんぶ、たいせつなんだブー。」

「ちいさな奇跡は、足もとの中にあるブー。」
第4章 最後の寄り道
かめは、一歩一歩、着実に進んでいました。
その目の前に、ゴールの大きな木が見えてきます。
🐢かめ:「もうすぐだ。がんばらなくちゃ。」
そのころ──
うさぎは木の下で、ぐうぐうと寝ていました。
どんなにかめが近づいても、うさぎは目を覚ましません。
そして、ブクブー。
ゴールとは別の小道へと、ふらふらと進んでいました。
🐷ブクブー:「あっちの道、なんか気になるブー。」
草むらをかきわけると、そこに小さな池がありました。
水面は鏡のように空を映していて、
まわりにはたくさんの花が咲きほこっています。
🐷ブクブー:「きれいだブー。」
ブクブーは池のほとりに腰をおろして、
静かに風にふかれながら、本をひらきました。
ページをめくるたびに、
鳥たちのさえずりや、花のゆれる音が聞こえてきます。
🐷ブクブー:「ゴールに急がないと、こんな景色、見逃すブー。」
ふと、空を見上げると、
真っ青なキャンバスに、ぽっかりと白い雲が浮かんでいました。
ブクブーは、そっと目を閉じて深呼吸します。
胸いっぱいに、花のにおいと風の音を吸いこんで。
🐷ブクブー:「生きてるって、気持ちいいブー。」

かめはとうとう、ゴールの木にたどり着きました。
うさぎはまだ寝ています。
動物たちが歓声をあげる中、
かめはうさぎを起こさずに、ゴールの前に座りました。
🐢かめ:「勝ったとか、負けたとか、そんなことより──
がんばってここまで来たことがうれしいな。」
かめもまた、空を見上げて、にっこり笑いました。
どこか離れた場所で、ブクブーも、同じ空を見上げていました。

「ゴールは一つじゃないブー。 それぞれのゴールがあるブー。」
第5章 それぞれのゴール
かめは、静かにゴールの木の下で座っていました。
目を閉じて、心地よい風を感じながら。
やがて、うさぎが目を覚ましました。
🐰うさぎ:「あれ?かめ、もうゴールしてる!?」
うさぎはあわてて立ち上がりますが、
かめはにっこり笑って言いました。
🐢かめ:「勝ち負けなんか、どうでもいいよ。
大事なのは、自分のペースで来られたことだから。」
うさぎは、かめの言葉にしばらく考え込んで、
それからふっと力を抜きました。
🐰うさぎ:「そうだな。急ぐことばっかり考えてたな、オレ。」
二匹は、木の下で並んで座りました。
空は相変わらず、青く広がっています。
そのころ、ブクブーは──
池のほとりに本を置いて、立ち上がっていました。
背中の大きな本を背負いなおし、
ポシェットの中のノートも閉じて。
🐷ブクブー:「そろそろボクも、行くブー。」
けれどブクブーは、ゴールの木に向かいませんでした。
代わりに、別の道へ、ふらりふらりと歩き出します。
どこへ向かうのか、誰も知りません。
でもブクブーは、にこにこと笑って、
楽しそうに歩いていきました。
🐷ブクブー:「ボクのゴールは、まだまだ先ブー。 旅の途中が、いちばん楽しいブー。」
空を見上げると、
雲はゆっくりと流れ、
太陽はあたたかく、
草の匂いが風に乗って流れていきます。
うさぎも、かめも、ブクブーも。
それぞれのペースで、
それぞれの道を歩いていきました。
🐢かめ:「焦らなくてもいい。」
🐰うさぎ:「休んだって、いい。」
🐷ブクブー:「寄り道したって、いいブー。」
そして、みんなが同じ空を見上げながら──
小さな旅を続けるのでした。


「いちばんたいせつなのは、どこに行くかより、 どうやって歩くかだブー。」
ー おしまい ー
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