1996年、PUFFYが世に放った『これが私の生きる道』。
脱力系のキャッチーなメロディに乗せて、
語られるのは、力まず、肩肘張らず、でも堂々と生きるスタイル。
資生堂CMタイアップ曲として知られ、
「私生道(しせいどう)」という隠れた言葉遊び、
ビートルズへのオマージュ、あえてのモノラル音源──
一見、軽やかでユルいポップソングの裏側には、
驚くほど豊かなカルチャーへのリスペクトと、
時代へのカウンターが潜んでいた。
第1章:「これが私の生きる道」──その言葉が意味するもの
歌詞の中心にあるのは、この言葉。
近ごろ私達はいい感じ。
角度を変えればまたいい感じ。
深刻な悩みも、劇的な自己実現もない。
代わりにあるのは、
今この瞬間を、柔らかく肯定する知恵だ。
生きる道とは、
成功でも失敗でもなく、
ただ“いい感じ”を探し続けること。
そんな、軽やかで強い生き方が、そこにはある。
第2章:「私生道」──隠された言葉遊び?
当時この曲は、資生堂CMのタイアップ曲だった。そして『これが私の生きる道』をギュッと縮めると、
──偶然か? それとも仕掛けか?
プロデューサーの奥田民生は「偶然」と語っているが、
この重なりはあまりにも出来過ぎている。
資生堂が掲げる個性と生き方の多様性、
そしてPUFFYが歌う“私”の生き方。
両者のイメージは、不思議なシンクロを見せた。
第3章:90年代、PUFFYが変えたファッション観
当時のPUFFYは、
女性アーティスト像に革命を起こした存在だった。
- ダボダボのTシャツ
- ストレートデニム
- ローテクスニーカー
- ほぼノーメイクのようなナチュラルな表情
それまでの「可愛い」「綺麗」至上主義の芸能界に対して、
脱力系ファッションと素顔の魅力で対抗。
むしろそれが、若い女性たちの新しいロールモデルになっていった。
資生堂のCMでも、彼女たちの自然体は際立っていた。
それは「ありのままがいい」という、
90年代型ナチュラル志向の先駆けだった。
第4章:ビートルズへの深いリスペクト
楽曲は明らかにビートルズオマージュだ。
特に中期の『ドライブ・マイ・カー』『ペイパーバック・ライター』を思わせるリフとアレンジ。
ギターサウンド、コーラスワーク、リズム感。
すべてに60’sポップス愛が染み込んでいる。
なぜ今、90年代にビートルズなのか?
それは、ガレージロックリバイバルが台頭し始めたこの時代、
「本物のポップミュージックとは何か」を問い直す文脈に重なる。
新しいことをするのではなく、
良いものに立ち返る。
PUFFYは、時代の先端を走るのではなく、
時代を斜めに見るスタンスを選んだのだ。
第5章:あえてのモノラル収録
90年代、CDとデジタル録音が全盛だった時代に、
PUFFYはこの楽曲をモノラルで録った。
なぜか?
ビートルズのオリジナルレコードも、実はほとんどがモノラル盤。
当時の音楽をリスペクトするなら、
音質も当時に合わせる。
これは単なる懐古趣味ではない。
最新技術より、伝えたい空気感を優先するという、
逆説的な美学だ。
第6章:奥田民生、5分で生まれた名曲たち
プロデューサー・奥田民生によれば、
PUFFYの初期ヒット曲群は、
という。
力を抜いた音楽、イージーリスニングの極北。
それでいて、
キャッチーさもメロディの強度もズバ抜けている。
作り込まず、こだわり過ぎず、
“いい感じ”を自然に切り取る。
民生がPUFFYに託したのは、
「脱・自己主張型ポップス」だった。
終章:これが、私たちの生きる道
『これが私の生きる道』が示していたのは、
ただのヒット曲ではない。
成功や失敗にこだわらない。
最新でも最古でもない。
いい感じの真ん中を、
軽やかに、自然体で進んでいくこと。
それが、PUFFYが教えてくれた、
新しい時代の自由な生き方だった。

「つまりブー、
気合いもいらない、焦りもいらない。
“いい感じ”で歩く、それが“私生道”だブー!」
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