それは、赤ちゃんの成長を伝える“命の記録”だった──はずだった。
しかし、その写真は今、金銭をだまし取るための道具に使われている。
2025年8月、フリマアプリ・メルカリは「胎児のエコー写真」の出品を正式に禁止。
一見すると無害に見えるこのアイテムが、なぜ「詐欺」の温床と化したのか?
そしてなぜ、それが数年間も放置されていたのか──。
第一章:なぜ“エコー写真”が売られていたのか?
フリマアプリ「メルカリ」では、「妊娠4カ月」「エコー写真セット」などのキーワードとともに、
胎児の超音波写真が堂々と販売されていた。1枚数百円〜数千円。
まとめ売りや“時系列付き”といった形式すら存在していた。
一見すると「記念保存」や「ハンドメイド作品への利用」ともとれるが、
多くのユーザーが疑問を抱いたのは──「これ、何に使うの?」という素朴な問い。
第二章:妊娠詐欺の“証拠”として利用される実態
SNS上では2025年8月13日、
「妊娠詐欺以外の何に使うんだ」と指摘する投稿が8万以上のいいねを集め、拡散。
背景にあるのは、こうしたエコー写真を“証拠”として悪用する巧妙な詐欺手口だ。
- マッチングアプリ等で男性と親密になる
- 数週間後、「妊娠した」と告げる
- メルカリで買ったエコー写真を提示
- 堕胎費用や支援金を要求
- 数十万〜百万円単位で搾取するケースも
妊娠検査薬や母子手帳の出品も過去に問題視されており、
エコー写真も“同じ流通圏”にあった可能性が高い。
第三章:メルカリの対応と“遅すぎた禁止”の背景
メルカリは8月25日、ついに「エコー写真」を“不適切な出品物”として明確に禁止。
9月1日以降は、該当する出品を削除すると発表した。
「定期的にガイドラインを見直しており、その一環である」と説明
とはいえ、胎児エコー写真の出品がX上で問題視されたのは2018年ごろから複数回にわたる。
問題が表面化するまでに6〜7年かかったことは、“倫理の後回し”という印象を与えた。
過去にも、メルカリでは妊娠検査薬(陽性のもの)が大量に出品されていた。
名目は「ドッキリグッズ」「サプライズ用アイテム」だったが、実際には同様の詐欺に悪用されていたケースが報告されている。
- アプリで知り合った男性に陽性検査薬を提示
- 「妊娠した」と主張し、金銭の支援を要求
- 複数人から高額の“堕胎費用”を得ていたという証言も
この事件を受けて、メルカリは妊娠検査薬を禁止出品物に追加したが、
その後も“用途が限定されない”他のアイテム(エコー写真など)が販売され続けていたのだ。
第四章:匿名性・画像信頼・感情操作──詐欺を可能にするネット構造
この問題を単なる“悪質ユーザー”の話として片付けるのは簡単だ。
だが実は、ここにはネット社会に特有の「構造的な盲点」がある。
◆ なぜこの詐欺は成立したのか?
- 匿名性:フリマ・マッチングアプリの両方で個人が特定されにくい
- 画像の“証拠化”:本物に見えるエコー写真が相手の罪悪感を強く刺激
- 感情操作:生命・妊娠・命の重みという“倫理的トラップ”を逆手に取る
この構造は、エコー写真に限らず“他人の感情を支配するあらゆる詐欺”に応用されうる。
第五章:メルカリとネットプラットフォームが抱えるジレンマ
メルカリをはじめとするCtoCプラットフォームは、
「自由な出品=多様性」と「安全性・倫理」の間で常に揺れている。
過去にも──
- 妊娠検査薬の出品→禁止
- 大学のレポート販売→禁止
- 骨・臍の緒などの出品→倫理的議論から削除
しかし、そのたびに「別名で出品する」「カテゴリ偽装する」など、
“イタチごっこ”が繰り返されてきた。
今回のエコー写真も例外ではない。

「命の記録が、お金の道具になってしまうなんて…かなしいブー。
プラットフォーム側も、もう“見ないふり”はできない時代ブーね。」
まとめ
胎児のエコー写真──
それは本来、「新しい命に出会うための希望」だった。
しかし、ネットと金銭と匿名性が交差する場所で、それは“疑似的な証拠”へと変貌した。
今回のメルカリの対応は、確かに一歩前進ではある。
だがそれ以上に問われているのは、私たち一人ひとりが
「その出品は何に使われるのか?」という想像力を持てるかどうか──である。
「見えない他者への責任」が、これからのネット社会の土台となる。
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