いまや日本全国どこでも目にする存在となったドラッグストア。
処方箋の受付カウンター、風邪薬、サプリメント、化粧品──まではわかる。
だが、その奥に「インスタントラーメン」「冷凍チャーハン」「豆腐」「菓子パン」まで並んでいるのを見て、
ふと、こんな疑問を持ったことはないだろうか。
「ここ、薬局じゃなかったっけ?」
そう、もはや“薬屋”の枠を超えて、ドラッグストアは「なんでも屋」へと進化している。
では一体、なぜここまで“食品売場”が拡大したのか?
そこには医薬品業界の戦略・流通構造の変化・生活者の購買心理が複雑に絡み合っていた。
本記事では、この身近な風景に潜む“境界線の喪失”を読み解いていく──
ドラッグストアが、なぜここまで“日常”に侵食してきたのか?
第1章:「え、ここ薬局だよね?」──ドラッグストアに溢れる“食”の風景
コンビニかと思って入ったら、風邪薬と湿布がずらり。
薬局かと思って立ち寄ったら、牛乳とおにぎりが棚一面に並んでいる。
それが、いまのドラッグストアの“日常風景”である。
■ パン、冷凍食品、飲料、弁当まで
店内をよく観察すると、こんな商品群がある。
- 冷蔵庫には牛乳、ヨーグルト、納豆、豆腐
- 冷凍コーナーにピラフ、唐揚げ、冷凍うどん
- 棚にはインスタント味噌汁、レトルトカレー、缶詰
- パンコーナー、焼き菓子、スナック、アイスクリーム
- 飲料棚にはお茶、スポーツドリンク、ペットボトルコーヒー…
もはや、「軽く1食分、ここだけで成立する」レベルだ。

「最近はドラッグストアで“食料調達”が普通になってきてるブー!」
■ 本当に薬局なのか?何がどうなってこうなった?
かつて、ドラッグストアは「薬や日用品を買う場所」だった。
- 処方箋が必要な薬
- サプリや栄養ドリンク
- 生理用品や洗剤・シャンプー類
だが現在では、“医療・日用品・食”の境界が完全に溶け合っている。
しかも驚くべきは、ドラッグストアの食品コーナーは“利益が薄い”と言われながらも拡大し続けているという事実だ。
では、なぜあえて食品を置くのか?
その理由には、売上戦略の転換点、ライバル業態への対抗、そして「ついで買い」の設計思想が関係していた。
第2章:「薬が売れない」時代の売上戦略──“ついで買い”という魔法の構造
ドラッグストアは“薬屋”だ。
その原点に立ち返れば、本来の主力商品は医薬品・処方箋・健康関連商品である。
だが、いま業界は静かにこう呟いている。
「薬だけじゃ、やっていけない。」
■ 医薬品だけでは、もう稼げない
- 処方箋薬は利益率が高いが価格は保険制度により厳しく制限
- 一般用医薬品(市販薬)は競合店が多く、価格競争が激化
- サプリや健康食品も市場飽和・価格下落の波
つまり、「薬だけ売っていても利益が伸びにくい」構造に突入しているのだ。
その一方で、店を開けるには人件費・光熱費・物流コストがかかる。
ならば、“毎日売れるもの”を増やすしかない。
■ 食品は“来店頻度”を上げる装置
- 医薬品は「体調悪いときしか買わない」=月1〜2回
- だが食品(牛乳・パン・カップ麺)は「毎日でも買う」=週3〜5回
つまり、食品を置くことで“生活圏の常連客”を確保できるのだ。
食品は“利益より頻度”──「あそこに行けば何かしら買える」という動機付けが重要。
■ “ついで買い”が最大の武器
そして何より、ドラッグストア最大の狙いはコレ。
「牛乳ついでに風邪薬」/「お菓子ついでにサプリ」/「ティッシュついでに目薬」
この“ついで買い”によって、
利益率の高い医薬品・化粧品などへ誘導する動線が自然に設計されているのだ。
食品売場は“フック”、
高単価医薬品が“本丸”という構図。
■ 「薬局なのに食品だらけ」の正体
それは、「薬を売るために食品が置かれている」のではない。
「食品が“人を呼ぶ媒体”として活用されている」のである。
つまり、食品は“商品”であると同時に、“広告”でもある。
第3章:「コンビニとスーパーを喰う」──“日常品すべて置く”戦略の正体
なぜドラッグストアが、ここまで食品・日用品・飲料・冷凍食品まで並べるようになったのか──
その答えは単純だ。
「ライバルが“薬局”じゃないから」である。
■ 対抗すべき相手は“薬局”ではなく“コンビニ”
現代のドラッグストアが本当に意識しているのは、
- セブン-イレブン、ローソン、ファミマといったコンビニ勢
- イオン、イトーヨーカドー、西友などの総合スーパー
- さらには業務スーパー、ドン・キホーテといった価格破壊型ディスカウント店
つまり、“ドラッグストア=薬局”ではなく、“日常小売の一大業態”として戦っているのだ。
■ コンビニにはない強み:価格と広さ
ドラッグストアが勝てる理由はここにある。
| 比較項目 | コンビニ | ドラッグストア |
|---|---|---|
| 商品単価 | 高め | 安め(セール常時) |
| 売場の広さ | コンパクト | 広い・通路広々 |
| 医薬品 | 原則ナシ | 市販薬・健康食品充実 |
| 美容・衛生用品 | 限定的 | 豊富・フルライン |
| 会員割引 | ほぼなし | ポイント・アプリ多用 |
| レジ混雑度 | 混みやすい | 分散傾向 |
価格重視の主婦層や子育て世代にとって、
「ちょっと寄って全部揃う場所」がコンビニからドラッグストアへ移行しつつあるのが現状だ。
■ スーパーに勝つために「惣菜」「冷凍」も強化
- 生鮮品が扱えない代わりに、冷凍食品と総菜ラインナップが異様に豊富
- “1人暮らし”や“忙しい共働き家庭”に向けた設計
- 「スーパーに行くまでもないときに選ばれる」存在へ
つまり、ドラッグストアは“薬局”を捨て、コンビニを超え、スーパーを喰う戦いに踏み出している。

「「ドラッグ」じゃなくて、もう「デイリー」だブー!」
第4章:「“ついで買い”が“主役買い”になる瞬間」──買い物動線の設計図
「今日は目薬だけ買おうと思ってたのに、
気づいたら冷凍チャーハンとお菓子もカゴに入ってた──」
それ、ドラッグストア側の“思うツボ”です。
■ 店内は「買わせる順路」でできている
現代のドラッグストアは、“品揃えの豊富さ”ではなく、“買わせる順番”をデザインしている”。
- 「牛乳だけ買おう」「冷凍ピラフだけ買おう」→目的は食品
- でも店のレイアウト上、医薬品ゾーンを必ず通過
- 化粧品・サプリ・シャンプー・トクホ飲料…
→ “何かしら視界に入る”=思い出させる/欲しくさせる
つまり──
「食品を奥に置く=ついで買いを逆に誘発する構造」をしている。
この導線によって、“目的商品”へ辿り着く前に複数の売場を横切る構造ができている。
■ 医薬品の「存在感」をキープするための戦略配置
医薬品や化粧品は、
- 単価が高い
- 利益率も高い
- でもニーズが限定的(=来店動機になりにくい)
だからこそ、「導線の途中=最も視界を奪える場所」に置かれているのです。

「つまり“食品目当て”の人が“薬の前を通る構造”をわざと作ってるブー!」
■ “人は目的のついでに、無関係なものを買う”
これには心理学的な裏付けもある。
- 「目的買い」よりも「寄り道買い」の方が財布のヒモは緩む
- 無意識の「カゴに余白がある=まだ買っていい」という錯覚
- “目的が達成された安心感”のあとの自分へのご褒美(アイス、スナック)
このように、ドラッグストアの店内は
「消費者が“ついで”に何かを欲しがるように、意図的に誘導された空間」なのだ。
■ 「目的」より「ついで」の方が売上になる逆転現象
驚くべきことに、いまや多くのドラッグストアでは、
- 医薬品の来店目的よりも
- 食品・飲料・雑貨の“ついで買い”のほうが、売上構成比が上回る事例も出てきている。
つまり、“ついで”だったはずの購買行動が、
もはや“主役”にすり替わってしまっているのである。

「ちょっと買う」が「いろいろ買う」になる場所、それがドラッグストアだブー!」
第5章:「薬と食が並ぶ場所」──日常と医療の境界が溶けるとき
本来、“薬”と“食べ物”は、違う場所に置かれているべきものだったはずだ。
- 薬=体調不良のときに使う、慎重な存在
- 食品=日常のエネルギー源、生活の一部
にもかかわらず、今のドラッグストアでは
“のど飴”の隣に“グミ”があり、解熱剤の隣に“栄養ドリンク”がある。
■ 「予防と治療」と「生活の快楽」が混ざる売場
- ビタミン剤とスナック菓子が同列で陳列
- カップラーメンのすぐ近くに胃薬コーナー
- ダイエットサプリの横に揚げ煎餅
このような配置は、私たちに「健康と快楽が両立できる幻想」を与える。
つまり、「好きに食べても薬でなんとかなる」という、
セルフメディケーション的思考の暴走を後押ししてしまう可能性もある。

「体にいいのか悪いのか…もうわからないブー…。」
■ 境界が溶けることで、“日常の医学化”が進行する
いま、私たちは「具合が悪いときに行く薬局」ではなく、
「体調が悪くなる前に立ち寄る“日常の基地”」としてのドラッグストアを利用している。
- 健康食品・プロテイン・機能性おやつ
- 美容液や栄養補助食品
- メディカル系コスメやエナジー飲料
これらは「病気ではないけど、健康になりたい」という欲望の具現化であり、
つまりはドラッグストアが“生活の中に医療的思考を溶かし込んでいる”空間とも言える。
■ 便利な世の中は、“境界のない世界”である
- 医療と食品
- 体調管理とご褒美
- 自己責任と消費社会
そのすべてが、ドラッグストアという売場で無言のうちに混ぜ合わされている。
我々は、その便利さの中で、
どこまでが“ケア”で、どこからが“浪費”なのか、区別がつかなくなっている。
最終章:「ドラッグストアはどこへ向かうのか」──“なんでも屋”が突き進む先にある未来
かつて“薬局”と呼ばれていた場所が、
今や冷凍食品を扱い、弁当を売り、生活用品を網羅する空間へと変貌した。
だが、それは終点ではない。むしろ始まりにすぎない。
■ 次に来るのは「サービスの統合」か
一部の大手ドラッグストアでは、すでにこうした機能を試験導入している。
- ネット注文→店舗受取(Click & Collect)
- 予防接種・健康相談窓口の常設化
- 高齢者見守り機能(地域密着型サポート)
- 保険・金融系サービスとの連携
- アプリ連動によるポイント・栄養アドバイス提供
つまり、ドラッグストアが“生活の中枢”になりつつある。

「薬も食も生活も…もう「ドラッグストア」という名前じゃないブー!」
■ 未来像:町に“ミニ社会”が点在する時代へ
ドラッグストアは、すでにこうなり始めている。
- 小さな総合スーパー
- 生活相談窓口
- 地域の医療連携拠点
- 行きつけの「かかりつけ商店」
その結果、コンビニ・スーパー・薬局・ディスカウント店の役割が“1つに統合”されていく未来がある。
■ 「境界がない社会」の中で、自分の“線引き”を持てるか?
あまりにも便利で、あまりにも何でも手に入る空間。
だがその中で、私たちは問われている。
- どこまでが“健康”のため?
- どこからが“消費依存”なのか?
- 自分は「なぜここに来たのか?」
ドラッグストアは、あなたの生活の鏡である。
そこには、
「必要だから」買う自分もいれば、
「なんとなく」手に取る自分もいる。
おわりに:そのレジは、“健康”か“誘惑”か?
次にあなたがドラッグストアに足を踏み入れたとき──
ぜひ、レジに並ぶその瞬間に自分のカゴを見てみてほしい。
そこにあるのは「生活必需品」かもしれないし、
「気づかぬうちに買わされた何か」かもしれない。
その曖昧さごと、私たちは“便利さ”と呼んでいる。

「昔は“風邪をひいたときに行く場所”だったのに、
今は“晩ごはんとおやつを買いに行く場所”になってるドラッグストア。
でも気づけば、薬も、食べ物も、栄養も、美容も、
「自分をちょっと整えるもの」って意味では、みんな似てるブー。
ドラッグストアは、便利な“ごちゃまぜの棚”のようで、
ぼくらの欲望と健康が交差する交差点なのかもしれないブーねぇ…」



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