【なぜ大阪はアニメに強いのか?】──在阪5局の“熱狂戦略”とクリエイティブ魂の全記録

アニメ
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「呪術廻戦」「名探偵コナン」「プリキュア」──
いずれも日本中を熱狂させたアニメだが、そのクレジットをよく見ると、“大阪”の名前が刻まれていることに気づくだろう。

東京が日本のメディアの中心であることは疑いない。
だが、アニメというカルチャーに限って言えば、関西の放送局たちは単なる“地方局”ではない。

在阪準キー局――毎日放送(MBS)、朝日放送テレビ(ABC)、読売テレビ(ytv)、関西テレビ(カンテレ)、テレビ大阪(TVO)。
彼らは黎明期からアニメという表現に挑み、数々の名作を全国へ、そして世界へ送り出してきた。

なぜ大阪は、これほどまでにアニメに強いのか?

本稿は、在阪局のアニメ戦略を「歴史」「ビジネス」「未来」の三部構成でひもときながら、
東京一極集中に抗い続けた“西のテレビ局”の情熱と構想力のすべてに迫る。

次にバズるアニメのクレジットに「MBS」や「ytv」の文字を見たとき、きっとあなたもこう思うだろう。

「さすが、大阪やな」と。


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第1部:歴史編──在阪局に刻まれた「アニメDNA」の源流

アニメ制作における大阪の強さは、偶然でも、一時的なブームでもない。
そこには、テレビアニメの黎明期から受け継がれる「アニメDNA」が、各局の中にしっかりと刻み込まれている。


■1-1:黎明期と関西の挑戦者たち

1960年代、テレビアニメが文化としてまだ根付く前――
その萌芽にいち早く反応したのが、

毎日放送(MBS)だった。
1966年には赤塚不二夫原作の『おそ松くん』を在阪局初の自社制作アニメとして全国に送り出し、
子ども向けギャグ作品でありながら、独自の作風とテンポ感で全国の視聴者を魅了した。
「東京に頼らず、関西から面白いものを作る」というMBSの気概は、この時代からすでに芽吹いていたのだ。

同時期、読売テレビ(ytv)も、

  • 1968年『巨人の星』で“スポ根”という新ジャンルを創出
  • 1971年『ルパン三世(PART1)』で“大人向けアニメ”という市場を開拓

読売テレビは、アニメを単なる子供向けコンテンツではなく、全年齢に向けた映像作品として捉えていた。
これは当時としては画期的な姿勢だった。


この時代の在阪局は、アニメという未知のジャンルに「地方局」という枠を超えて挑み、
“自分たちで面白いものを作って世に出す”という、関西流の気質を体現していたのだ。


■1-2:全国ネット枠の確立──「大阪発」をブランドにした黄金時代

1970年代から90年代にかけて、在阪局のアニメ戦略は“ネット受け身”から“自発的発信”へとシフトしていく。
彼らは自社制作のアニメを全国に届けるための「枠」を確立し、
「大阪発アニメ」というブランドを創出することに成功した。


毎日放送(MBS)──「土6」→「日5」へ、王道アニメの旗手

1990年代後半、MBSが開設した土曜夕方6時のアニメ枠「土6」は、
のちのアニメ界に多大な影響を与える伝説的フォーマットとなった。

  • 2002年『機動戦士ガンダムSEED』が超ヒット
  • 続く『鋼の錬金術師』『BLOOD+』などで人気爆発
  • この成功が、後に「日曜5時」=日5枠へと受け継がれる

“土6→日5”の進化の背後には、「アニメをファミリーで観る文化」を育てる意識があった。
ライト層から熱心なファン層までを巻き込むことで、アニメ=MBSのブランドは不動のものとなっていく。


読売テレビ(ytv)──「月7」→「土夕」へ、コナンという怪物IP

読売テレビは長らく月曜19時台をアニメ枠としてキープしていたが、2000年代後半から土曜夕方に主軸を移動。

  • 1996年:『名探偵コナン』放送開始
  • 1997年:『金田一少年の事件簿』が若年層にヒット

中でも『コナン』は、30年近くにわたってシリーズが続く日本屈指の長寿作品に成長。
キャラクター、映画、グッズ、イベント展開すべてを内包するメガIPとして、ytvの経営の柱になっていく。


朝日放送テレビ(ABC)──日曜朝に咲く「プリキュア帝国」

ABCの輝きは、日曜朝にある。

  • 『おジャ魔女どれみ』『明日のナージャ』などで基盤形成
  • 2004年スタートの『ふたりはプリキュア』で大爆発
  • 以降、「プリキュアシリーズ」が20年以上続く女児向けアニメの王道

この時間帯に女児向け作品を連打するという戦略は、
「関西から日曜の朝を変えた」ともいえる社会現象を生んだ。


テレビ大阪(TVO)──サンリオとタカラトミー、ホビーアニメの発信基地

テレビ東京系列ながら、TVOは独自の戦略で全国枠を創出。

  • サンリオ系:『おねがいマイメロディ』『ジュエルペット』
  • ホビー系:『トミカ』『リカちゃん』『バトルスピリッツ』など

玩具メーカーと密接に連携し、「売れるアニメ」=「動くIP」として、
明確なターゲットを意識した戦略で成功を収めた。


これらの成功体験が、後に各局のIPビジネス戦略へと結実していく。
大阪発のアニメ枠は、「放送」以上の意味を持ち始めていた。


第2部:戦略編──なぜ在阪局はアニメに「投資」し続けるのか?

アニメに強い「歴史的DNA」だけで、今の時代を勝ち抜けるわけではない。
在阪局が現在も第一線でアニメ制作に積極投資し続けるのは、
IP(知的財産)ビジネスという“次なる勝負の土俵”に、早い段階から適応してきたからに他ならない。


■2-1:ビジネスモデルの大転換──「放送」から「IPビジネス」へ

かつてテレビ局のビジネスは、視聴率と広告収入が全てだった。
しかし、ネット配信・サブスク・SNS時代の今、番組を持つだけでは稼げない時代に突入している。

そこで登場するのが、「IP戦略」という新たな考え方だ。

  • アニメ=一度放送して終わりではない
  • キャラクターや世界観は、グッズ・映画・ゲーム・海外展開で生き続ける
  • 放送はあくまで“スタート地点”にすぎない

アニメは「映像作品」から「総合資産」へと進化した。

この“アニメ=IP”というビジネスモデルへの感度が高かったのが、在阪局だった。


■2-2:在阪局の“個性戦略”──各局のポジションと狙い

在阪5局のアニメ投資は、どれも同じに見えて、じつは明確に“差別化”されている。
ここでは、それぞれの戦略を簡潔に比較する。


毎日放送(MBS)──「日5」と「深夜イズム」の両輪展開

  • 王道:日曜夕方の「日5枠」でガンダムなどの大型IPを育成
  • 尖鋭:金曜深夜→木曜深夜「スーパーアニメイズム」で『呪術廻戦』のようなエッジ作品を発信
  • 若者〜オタク層、全年齢ターゲットを“縦に刺す”二重戦略

朝日放送テレビ(ABC)──「プリキュア」から“アニメ事業会社”へ

  • 安定:日曜朝の「女児向け王道IP」=プリキュア帝国
  • 革新:2016年、アニメ制作部門を分社化=ABCアニメーション設立
  • 自社企画・製作・海外販売も可能な“アニメ専業会社”化へと進化
  • 深夜枠「ANiMAZiNG!!!」も、この戦略の一翼を担う重要な実験場となっている

読売テレビ(ytv)──「コナン帝国」と“次の柱”づくり

  • 絶対王者:『名探偵コナン』の圧倒的収益・安定力
  • 挑戦枠:『ヒロアカ』など新IPに継続的に出資
  • 伝統と革新を両立する“ハイブリッド戦略”

テレビ大阪(TVO)──一点突破の「ホビーアニメ戦略」

  • サンリオやタカラトミーなどメーカーと密な連携
  • 日曜朝の自社枠で「商品と連動するアニメ」に特化
  • 現在は制作休止中も、製作委員会参加などで再起の兆し

関西テレビ(カンテレ)──あえて「ドラマ」主戦場に集中

  • フジ系の強力アニメをネット受け
  • 自社はアニメよりドラマ制作に注力
  • 製作委員会参加で戦略的リスク分散型

在阪5局は、それぞれの“得意領域”に軸足を置きつつも、
どの局も「放送」から「IP運用」へと、確実に舵を切っている。


第3部:未来編──大阪はアニメの未来をどう描くのか?

過去の栄光にすがるだけでは、生き残れない。
2020年代以降、在阪局を取り巻くアニメ業界は、これまでにないスピードとスケールで変化している。


■3-1:追撃者と黒船──“地上波外”との熾烈な戦い

近年、東京キー局もアニメ事業に本腰を入れ始めた。

  • TBS:アニメ事業部の新設、日曜夕方や木曜24時台に新枠を設置するなど攻勢強化
  • 日本テレビ:新アニメ枠「フラアニ」などを展開し、サブカル層を狙う
  • フジテレビ:ノイタミナ枠の全国ネット化
  • テレビ朝日:「IMAnimation W」の新設

さらに脅威となるのが、Netflix・Amazon・Disney+ などのグローバルプラットフォーム(通称:黒船)である。

  • 自社オリジナルアニメに多額投資
  • 配信タイミングを“全世界同時”に設定し、視聴習慣そのものを変えてくる
  • 「放送枠」という概念そのものが、脅かされている

こうした中で在阪局が生き残るには、もはや「地元に強い」「実績がある」だけでは不十分だ。


■3-2:「大阪発」であることの意味──ローカルからグローバルへ

では、それでも大阪が挑み続ける理由とは何か。

それは、関西が持つ“もう一つの創造拠点”としての誇りと可能性である。

  • 関西には任天堂・カプコン・サイゲームス大阪など、世界的なIP創出企業が集積
  • 京都には京アニや映像研といった強力な制作拠点もある
  • USJをはじめとする体験型IPビジネスとの連携も視野に入る

在阪局がこれらと組み、放送局の枠を超えた“クロスメディア型クリエイティブ都市・大阪”を形作っていく未来は、すぐそこまで来ている。


アニメは「放送コンテンツ」から、「文化の基幹インフラ」へと変貌している。
大阪がその中核を担う未来は、決して夢物語ではない。


終章:アニメの魂は、西に宿る

在阪局がアニメに強い──それは、単なる視聴率やヒット作の話ではない。

黎明期から挑戦を恐れなかった“関西気質”
東京とは異なる価値基準で文化を育ててきた“多様性の土壌”
作り手と向き合い、面白さに賭けてきた“人間臭いプロデュース”

これらすべてが混ざり合って、
“東京とは違う面白さ”が、大阪から生まれてきた。


在阪局が生み出すアニメには、「空気」がある。
東京にはない、「熱」がある。
地方局では終わらない、「物語」がある。


この物語は、今も続いている。
君の好きなアニメのエンディングに、ふと「MBS」「ytv」「ABC」のロゴを見かけたとき──
それはきっと偶然じゃない。

むしろ、こう言うべきなのだ。

「さすが、大阪やな」と。


ブクブー
ブクブー

「アニメって、東京だけのものじゃなかったんだブー!」
「大阪発の作品には、人と熱と“なんかええやん”が詰まってたブー…!」

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