主演俳優が“作品の音”を作った日──舘ひろしが紡いだ『あぶない刑事』OPテーマの真相

音楽
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軽快なサックスが夜の横浜を切り裂く。
イントロのわずか数秒で“あぶない刑事”の世界に引き込まれる、あのテーマ。
実はその作曲者が、主演俳優・舘ひろし本人だと知る人は、意外と少ない。

今回は、俳優が自作のメロディで物語を走らせた、その裏側を追う。
──「偶然」ではなく、「必然」だった音の誕生を。




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■第一章:「あぶ刑事」と音の記憶

1986年、テレビドラマ『あぶない刑事』が放送開始。
都会的で軽妙なセリフ回し、ハードボイルドとコミカルの狭間を歩く演出。

その中で、冒頭を飾るオープニングテーマはまさに“作品の顔”だった。

軽やかなテンポ、金属質のサックス、そして少し漂う哀愁。
誰もが無意識に、あの音で“横浜”を思い出す。

その作曲者が舘ひろし──つまり、主役その人だったのである。


■第二章:きっかけは「専務の一言」

そもそも音楽の話が持ち上がったのは、制作陣の提案からだった。
黒澤満プロデューサー、石原プロの小林専務らがこう考えた。

「主題歌は舘に歌わせよう」

その流れで、小林専務から舘に対して

「曲も作れ」

と“指令”が出た。

こうして生まれたのが、エンディング曲「冷たい太陽」。
そして撮影が進む中で、現場から新たな声が上がる。

「オープニングも、舘さんの曲で行こう」

俳優が主演し、さらに主題歌とオープニングテーマを作曲する。

極めて異例の二重起用でありながら、プロデューサー陣はその一貫性に賭けた。


■第三章:サックスと囁きの狭間で

『ABUNAI DEKA opening theme』の特徴は、
サックスの主旋律と、それを包むように漂う“声”。

「woo she’s a one」
「woo one for me」

歌というより、呼吸のようなスキャット。
無機質なシンセとパーカッションの中に、
この“人の声”があることで、冷たい都会に温度が生まれる。

それはまるで、孤独を抱えながら笑うタカ(舘ひろし)そのもの。
クールでありながら、人間臭い。

このわずかな息づかいが、『あぶない刑事』の世界観を完成させている。


■第四章:「演技の外側」に広がる創造

「音楽家としては全くダメなんですよ」

と本人は笑う。
しかし、その“謙遜”の裏には確かな感覚があった。

彼は演技の延長として音を捉えていた。
セリフや動作の代わりに、音で“役の呼吸”を刻む。
それが、あのオープニングテーマの原動力だった。

スタッフによれば、デモを聴いた瞬間に
「これが“あぶない刑事”の音だ」と一致したという。

結果、映像と音が一体化した作品世界が完成した。


■第五章:音がつくった“舘ひろし”像

『あぶない刑事』の魅力は、アクションでも会話劇でもなく、
そのすべてを包み込む“空気感”にある。

その空気を音で支えているのが、舘自身のメロディ。
俳優が演じたキャラクター像と、作曲者としての感性が
見事に噛み合った稀有な例だ。

観客が無意識のうちに感じていた“タカ=音楽のリズム”は、
実際に彼自身の中から生まれていた。

まさに「演じること」と「作ること」が同義となった瞬間だった。


■第六章:その後に残った“余韻”

『あぶない刑事』は映画シリーズへと拡大し、
時代が変わってもテーマ曲はアレンジを変えながら受け継がれていった。

イントロを聴いた瞬間、観る者の脳裏に蘇る“タカとユージ”。
それはただの懐メロではなく、作品そのものを象徴する「音の遺伝子」だ。

また、興味深いのは、
その曲が2020年代の現在も現役で使われているということ。

フジテレビ系『ウワサのお客さま』などのバラエティで、
登場人物の「スタイリッシュな登場」や「ド派手なリアクション」のBGMとして、
まさに“カッコいい大人の象徴”のような文脈で再利用されている。

──つまり、ただの懐メロではなく、
「演出のシンボル」として現役なのである。

──主演俳優が作った“物語の音”が、
四十年近く経っても、いまなお生き続けている。


ブクブー
ブクブー

「つまり、
“あぶ刑事”の主役はタカでもユージでもなく…“音”そのものだったといっても過言じゃないブー!」


はじまりが制作陣からの「要請」だったとしても、それを引き受けて形にした時点で、もう立派な創作行為だ。

あのイントロは、演技でも演出でもなく、
主演俳優が自分の感性を丸ごと投影した“第二のセリフ”。
映像が始まる前に、彼はすでに物語を語っていたのだ。

──音楽が語る、もうひとつの“舘ひろし”。
その静かな余韻こそ、『あぶない刑事』最大の魅力かもしれない。

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