スーパーマーケットの乳製品コーナー。コーヒー牛乳やフルーツ牛乳といった、色とりどりの「乳飲料」のパッケージを、ふと手に取ってみる。その原材料名の一番最初に、しばしば誇らしげに記されている二文字がある。
「生乳」。
しかし我々が普段、白い液体そのものを指して使う言葉は「牛乳」だ。この二つの言葉は一体何が、そしてどう違うのだろうか。乳飲料は「牛乳」を使ってはいないのだろうか。
本稿は、この多くの人が一度は抱いたであろう素朴な疑問の答えを、厚生労働省が定める厳格な法律の定義に基づき、解き明かすレポートである。
その違いを知ることは、我々が日々口にする乳製品の本当の姿を理解するための、第一歩となる。
第一章:「生乳」とは何か?──全ての始まり、ありのままの“牛の乳”
まず、全ての基本となる「生乳(せいにゅう)」の法律上の定義から見ていこう。

- 法律の定義
- 厚生労働省が定める「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」において、「生乳」とは「搾取したままの牛の乳」と明確に定義されている。
- つまり、牧場で牛から搾った一切の加工を施していない、ありのままの状態の乳。それが「生乳」の正体である。
- 決して、そのまま飲まれることはない
- 重要なのは、この「生乳」がそのまま我々の口に入ることは基本的にないという点だ。
- 流通する全ての乳製品は、品質検査の後、体に有害な細菌や微生物を取り除くための「殺菌処理」が法律で義務付けられている。

「ええーっ!?『生乳』って、しぼったまんまの、原料のことだったんだブー!?僕たちが、直接飲むことはないんだブーか!てっきり、『新鮮な牛乳』みたいな意味だと思ってたんだブー!」
第二章:「牛乳」とは何か?── “生乳100%”だけに許された、特別な称号
では、我々が最も馴染み深い「牛乳」とは一体何なのか。

- 法律の定義
- 乳等省令において、「牛乳」と表示できるのは前述の「生乳」を100パーセント原材料として使用したものだけである。
- 水や他の成分を一滴たりとも加えることは許されていない。
- もちろん、生乳を殺菌処理した上で製品化されている。
- 「牛乳」は、“純粋さ”の証
- つまり、「牛乳」という名称は「原材料は、生乳のみである」という、その“純粋さ”を保証するための特別な称号なのだ。
- これに対し、生乳から乳脂肪分の一部を取り除いたものは「低脂肪牛乳」や「無脂肪牛乳」、生乳に乳製品(バターや脱脂粉乳など)を加えたものは「加工乳」として明確に区別される。
第三章:「乳飲料」と「生乳」の、少し不思議な関係
では、いよいよ本題である。コーヒーや果汁、ビタミンなどが加えられた「乳飲料」のパッケージに「生乳」と書かれているのはなぜなのか。

- 「乳飲料」に、生乳使用の義務はない
- 法律上、「乳飲料」は牛乳や乳製品を主原料とする飲料である。
- しかしその原材料として「生乳」を使用するという義務は一切ない。
- 例えば、脱脂粉乳を水で溶かしたものにコーヒーなどを加えても、「乳飲料」として販売することは可能である。
- では、なぜ「生乳使用」を、アピールするのか?
- にもかかわらず、多くの乳飲料がパッケージの目立つ場所に「生乳使用」と表示している。
- その背景には、「新鮮さ」や「本物感」といった製品イメージへの、メーカー側の「こだわり」を示す意味合いが大きいと考えられる。
- 粉乳から作るよりも生乳から作った方が風味が良いという品質面での優位性。そして、その品質を消費者にアピールしたいというマーケティング上の狙い。
- その二つの側面から、多くのメーカーがあえて「生乳」を使用し、そしてその事実をパッケージで謳っているのである。

「なるほどだブー!コーヒー牛乳は、粉からでも作れるのに、わざわざ『生乳』から作ってるのは、『うちは、味にこだわってますよ!』っていう、メーカーさんの、自信の表れだったんだブーね!」
終章:言葉の違いが、品質の“意思表示”を、浮かび上がらせる
結論として、「生乳」と「牛乳」、そして「乳飲料」の関係は、法律によって以下のように明確に定義されていた。
- 生乳: 搾ったままの、加工前の牛の乳。(=原料)
- 牛乳: 生乳100%を殺菌したもの。(=純粋さの証)
- 乳飲料: 牛乳や乳製品が主原料の飲料。(=生乳の使用は、義務ではない)
乳飲料のパッケージに書かれた「生乳」という二文字。
それは、法律上の義務を超えて「我々は、より新鮮で、より風味の良い製品作りにこだわっています」という、メーカーからの静かな、しかし明確な意思表示だったのである。
この小さな言葉の違いを知ることで、我々は次に乳製品を選ぶ時、そのパッケージの裏側に隠された作り手の「こだわり」を、少しだけ深く読み解くことができるのかもしれない。



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