カラカラと軽やかな音を立てる小さなプラスチックのケース。その透明な窓から愛らしい小さなチョコレートの粒がこちらを覗いている。1965年(昭和40年)11月5日に明治製菓(現・株式会社 明治)から発売された「チョコベビー」。
今やお菓子のパッケージが透明であることは何ら珍しいことではない。しかし半世紀以上前、このチョコベビーこそが日本のお菓子史上初めて本格的な「透明パッケージ」を採用した革命的な商品であったことを知る人は少ない。
なぜ当時の全てのお菓子が紙や不透明なフィルムに包まれていた時代に、チョコベビーだけがその中身をあえて「見せる」という選択をしたのか。
その答えは、このチョコレートのあまりにもユニークな“小ささ”と、それを手にする子供たちの繊細な心理を深く読み解いた開発者たちの優しい眼差しの中にあった。
第一章:問題は“小さすぎた”こと──1960年代の常識と、チョコベビーの“異質さ”
チョコベビーが透明パッケージを採用せざるを得なかったその根本的な理由は、この商品の最大の特徴である「極小サイズ」にあった。

- 当時の“常識”:「親指サイズ」のチョコレート
- 1960年代当時、日本で売られていたチョコレート菓子はどんなに小さなものでも、少なくとも親指程度の大きさがあるのが当たり前だった。
- 常識を覆す極小チョコレートの誕生
- そんな中登場したチョコベビーの一粒の小ささ。それは当時の子供たちの常識を覆すものだった。
- この前例のない小ささは、しかし開発者たちに一つの大きな心理的な懸念を抱かせることになった。
- 懸念:「いきなり出てきたら、怪しいのでは?」
- もしこの極小サイズのチョコレートが中身の見えない不透明な箱から、いきなりザラザラと出てきたらどうだろうか。
- 当時の子供たちはそれをお菓子として認識できず、「何かよく分からない、怪しい粒」だと感じてしまうかもしれない。
- この「子供たちに不信感を抱かせるかもしれない」というリスク。それこそが従来のパッケージ戦略を根底から見直すきっかけとなったのだ。

「ええーっ!?小さくてかわいいのが魅力なのに、それが逆に『怪しい』って思われる可能性があったんだブー!?言われてみれば確かに、知らない箱から急に黒いツブツブが出てきたらびっくりしちゃうかもだブー…!」
第二章:解決策は“見せる”こと──安心感を生んだ、日本初の透明パッケージ
この心理的な課題を解決するために、明治の開発チームが辿り着いた画期的な答え。それが「最初から中身を全部見せてしまえば良い」という逆転の発想だった。

- 「安心感」のための透明性
- 外から中身の可愛らしい小さな粒がはっきりと見えること。
- これにより子供たちは箱を開ける前に、これから自分たちが何を手にすることになるのかを理解し、安心して商品を選ぶことができる。
- 日本初の斬新なデザイン
- こうしてチョコベビーは、日本のお菓子史上初めて本格的な透明プラスチックケースを採用した商品となった。
- この斬新なパッケージデザインは子供たちの不信感を払拭しただけでなく、その目新しさと中身の可愛らしさで多くの人々の心を魅了した。
日本初の“クリア戦略”
- 課題: 前例のない「極小サイズ」が、子供に「不信感」を抱かせる可能性があった。
- 解決策: パッケージを「透明」にし、中身を最初から見せることで「安心感」を与えた。
第三章:透明パッケージの遺伝子──未来的な“アポロ”への継承
このチョコベビーの大成功によって証明された「透明パッケージ」という革新的なデザイン戦略。その遺伝子は同じ明治の別の歴史的な大ヒット商品へと受け継がれていく。

- 1969年発売、「アポロ」の初代パッケージ
- 1969年に発売され今なお絶大な人気を誇るチョコレート「アポロ」。
- 実はその発売当時の初代パッケージもまた、中身のチョコレートが外から見える透明なデザインを採用していた。
- デザインとコンセプトの完璧な融合
- アポロ宇宙船をモチーフにしたあの未来的な円錐形のチョコレート。
- その先進的なデザインと中身が見える透明パッケージのモダンなイメージが、完璧にマッチした結果であったと言えるだろう。
- チョコベビーが「安心感」のために透明性を選んだとすれば、アポロは「先進性」を表現するためにその戦略を継承したのだ。

「なるほどだブー!チョコベビーの成功があったから、あのアポロのカッコいいパッケージが生まれたんだブーね!お兄ちゃんと弟分みたいな関係なんだブー!」
終章:パッケージは、最も雄弁なプレゼンテーション
結論として、チョコベビーが日本で初めて透明パッケージを採用したのは単なる奇をてらったデザインではなかった。
それは「極小サイズ」という製品の革新的な特徴が生み出す、子供たちの「不信感」という心理的な壁を乗り越えるための、極めて論理的でそして優しい解決策だったのである。
一つの小さなチョコレートのパッケージの歴史。
しかしその中には作り手がいかに深く使い手の心を洞察し、そしてその製品の価値を誠実に伝えようとしたか、その静かなしかし熱い物語が確かに刻み込まれている。
我々が日々何気なく手に取る商品のパッケージ。
その一つ一つが実は作り手から我々への、最も雄弁なプレゼンテーションなのかもしれない。



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