カメレオンは「隠れるため」に色を変える、は“大嘘”だった?──最新科学が暴く本当の理由

動物
この記事は約5分で読めます。

私たちは子供の頃から漫画やアニメでこんなシーンを何度も目にしてきた。
木の枝に止まったカメレオンが瞬時にその色と模様を完璧にコピーし、背景に溶け込んで姿を消すあの光景を。

「カメレオン=変幻自在の忍者」。
このイメージはあまりにも強烈で、多くの人が今なお「カメレオンは周囲の景色に合わせて色を変え、天敵から身を隠している(擬態している)」と信じて疑わない。

しかし最新の生物学において、その長年の常識は「ほぼ間違いである」と断定されている。

彼らがその美しい皮膚の色を変える目的は、「コソコソと隠れるため」ではない。むしろその真逆。「俺を見ろ!」と自らを主張するため、あるいは「快適に過ごすため」という極めて自己中心的な理由のために行われていたのだ。


第一章:なぜ色を変えるのか?──隠れるのではなく「叫んでいる」のだ

カメレオンが体色を変化させる主な理由は大きく分けて二つある。それは「コミュニケーション(感情表現)」「体温調節」である。

  • 理由①:感情の爆発(ソーシャル・シグナリング)
    • カメレオンにとって体の色は「言葉」そのものである。
    • 特にオス同士が縄張りを争う時やメスに求愛する際、彼らは興奮すると普段の緑色から鮮やかな赤や黄色、オレンジ色へと劇的に変化する。
    • これは「俺は強いぞ!」「怒っているぞ!」という強烈な自己主張であり、隠れるどころか「最大限に目立つこと」が目的だ。
    • 逆に争いに負けた時や服従を示す時、あるいはリラックスしている時は地味な茶色や暗い色に変化する。彼らは色を巧みに使い分けることで、声なきしかし雄弁な会話をしているのである。
  • 理由②:生きるためのエアコン(体温調節)
    • カメレオンは我々哺乳類とは異なり、自力で体温を一定に保つことができない「変温動物」である。そこで彼らが利用するのが「色」による太陽熱のコントロールだ。
    • 寒い時: 体を「暗い色(黒っぽい色)」に変化させ、太陽光の熱を効率よく吸収し体を温める。
    • 暑い時: 体を「明るい色(白っぽい色)」に変化させ、熱を反射しオーバーヒートを防ぐ。
    • つまり朝目覚めた時のカメレオンが黒っぽい色をしているのは、「寒いから暖房のスイッチを入れている状態」であり、決して「黒い岩に擬態している」わけではないのである。
ブクブー
ブクブー

「ええーっ!?そうだったんだブー!?隠れるためじゃなくて、ケンカしたりプロポーズしたりするために派手な色になってたんだブーか!全然イメージと違ったんだブー!実はすごく情熱的なやつだったんだブーね!」


第二章:どうやって変えているのか?──それは“色素”ではなく、「ナノ結晶」の魔術

長年カメレオンの変色のメカニズムは、「皮膚の中にある様々な色の色素(インク)が広がったり縮んだりして混ざり合っている」と考えられてきた。しかし2015年、スイスのジュネーブ大学の研究チームがその100年以上にわたる定説を覆す画期的な発見を、科学誌『Nature Communications』に発表した。

彼らが巧みに操っていたのはインクのような化学物質ではなく、「光の物理法則(構造色)」そのものだったのだ。

  • 皮膚の下に隠された“鏡”の層
    • カメレオンの皮膚には通常の色素細胞のさらに下層に「虹色素胞(イリドフォア)」と呼ばれる特殊な細胞の層が存在する。
    • この細胞の中には「グアニン」という物質でできたナノサイズ(1ナノメートル=10億分の1メートル)の極めて小さな結晶が、格子状に規則正しくびっしりと並んでいる。
  • 結晶の“間隔”を変えることで光を操る
    • このナノ結晶の格子はプリズムやCDの裏面のように、特定の波長の光を強く反射する性質を持つ。そしてカメレオンは、この結晶と結晶の「間隔」を自在に広げたり狭めたりすることができるのだ。
      • リラックス時(緑色に見える): ナノ結晶の格子は密に詰まった状態にある。この狭い間隔では波長の短い「青い光」が強く反射される。この反射した青い光がその上にある黄色い色素の層を透過することで、我々の目には「緑色」として認識される。
      • 興奮時(黄色や赤色に見える): 興奮したカメレオンが皮膚の筋肉を弛緩させると、ナノ結晶の格子はその間隔を広げる。間隔が広がると反射する光の波長も長くなり、「黄色」や「オレンジ色」、そして「赤色」といったより波長の長い光を反射するようになるのだ。

つまりカメレオンは絵の具を混ぜているのではない。彼らは自らの皮膚の構造をナノレベルで微調整(チューニング)することによって、反射する光の色そのものを物理的に書き換えているのである。

これは最新の光学迷彩や電子ペーパーにも通じる極めて高度なナノテクノロジーなのだ。

ブクブー
ブクブー

「うわーっ!皮膚の中の小さなツブツブの間隔を変えるだけで色を変えてたんだブーか!インクじゃないなんてすごすぎるんだブー!カメレオンって実はハイテクなエンジニアだったんだブーね!」

POINT

カメレオンの驚異の“ナノテク”変色システム

  1. 皮膚の下に「ナノサイズ」の極めて小さな「結晶」が格子状にびっしり並んでいる特殊な細胞層が存在する。
  2. カメレオンはこの結晶と結晶の「間隔」を自在に広げたり狭めたりすることができる。
  3. この「間隔」の変化によって反射する光の波長が変わり、我々の目には色が変化したように見える

終章:森の中のハイテク・エンジニア

「周囲の景色に溶け込む臆病なトカゲ」。
我々が長年抱いてきたそのイメージは、今日この瞬間から捨て去るべきだろう。

彼らは体温という生命維持の根幹を自らの色でコントロールし、ここ一番の勝負所では誰よりも派手な衣装をまとって自己主張する情熱的なコミュニケーターだ。
そしてその小さな体の皮膚の下には、人間がようやく模倣し始めたばかりの「光を自在に操るナノマシン」が標準装備されている。

もしあなたが次に動物園でカメレオンが鮮やかな色をしていたら、それは決して「隠れている」のではない。
「俺を見ろ!」「俺は怒っているぞ!」とあなたに何かを必死に訴えかけている、その魂の叫びなのかもしれない。

動物科学雑学
NEWS OFFをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました