お盆や年末年始、日本の大動脈である東海道新幹線はその姿を一変させる。通路やデッキまで人で溢れかえり、まるで都会の満員電車のような様相を呈する帰省ラッシュ。
その息苦しいほどの混雑の中で多くの人がこう思ったことはないだろうか。
「これだけ混んでいるのなら、あと数両、車両を増結すればいいのに」と。
しかし日本の大動脈である東海道・山陽新幹線は、どれほど乗車率が高くともその編成は最長で16両と決まっている。なぜ我々の新幹線は決して「17両編成」にはならないのだろうか。
その答えは法律による規制ではなく、日本の鉄道インフラが抱える巨大でそして動かしがたい物理的な「壁」にあった。
第一章:法律上の制約は“ない”
まず明確にしておかなければならないのは、新幹線の車両数について法律で「16両まで」と定められているわけではないという点だ。
JR各社によれば何両編成にするかは、あくまで利用者の需要と地上設備の能力との兼ね合いで決められている。
つまり理論上は17両、あるいは20両編成の新幹線を走らせること自体は可能なのである。
ではなぜそれが現実には行われないのか。
第二章:最大の壁──プラットホームという「400メートルの器」
新幹線の車両数を制限する最大かつ最も根本的な物理的制約。
それがプラットホームの長さである。

- 16両編成 = 400メートル
- 現在運行されている新幹線の車両は1両あたりの長さが約25メートルである。
- これを16両連結するとその全長はちょうど400メートルにも達する。
- 全国の駅が「16両」を基準に作られている
- 東海道新幹線が開業した1964年当初、ひかり号は12両編成であった。しかしその後の需要の急増を見越し、将来的に16両編成まで対応できるよう主要な駅のホームは400メートルの長さを確保して建設された。
- そしてその後に建設された山陽新幹線なども、この「16両=400メートル」という規格を基準として駅のホームが設計されている。
- 増結がもたらす天文学的なコスト
- もし仮に17両編成の新幹線を走らせようとすればその全長は425メートルとなる。
- そのためには乗り入れ先の全ての駅のプラットホームを25メートル延伸するという大規模な改修工事が必要となる。駅によってはホームの前後にトンネルや鉄橋が迫っており物理的に延伸が不可能なケースも少なくない。
- 全ての地上設備を作り直すのにかかるコストは、単純な工事費だけでなく信号システムや変電所の改修、車両基地の拡張まで含めると数兆円規模に達する可能性も指摘されている。車両を1両増やすという選択肢は事実上「不可能」なのである。

「ええーっ!?そういうことだったんだブー!?法律で決まってるんじゃなくて、駅のホームの長さが足りないから長くできなかったんだブーか!知らなかったんだブー!」
第三章:「例外」としての17両編成
しかしここで一つの鋭い疑問が浮かび上がる。「東北新幹線では17両編成の列車が走っているではないか」と。
この「例外」の存在こそが「16両の壁」の本質をより鮮明に浮かび上がらせる。

- 「はやぶさ」+「こまち」という“合体ロボ”
- 確かに東北新幹線ではE5系「はやぶさ」(10両)とE6系「こまち」(7両)が連結した17両編成の列車が日常的に運行されている。
- しかしこれは厳密には「17両編成の一本の列車」ではない。二つの独立した列車が一時的に連結して走っている状態なのだ。
- そして最も重要な点は、この17両編成は盛岡駅で必ず「分割」されるということだ。「はやぶさ」は新函館北斗へ、「こまち」は秋田へとそれぞれの目的地に向かう。
- なぜ東北新幹線だけが可能なのか
- なぜこのような芸当が可能なのか。それは東北新幹線の主要駅のホームが、建設当初からこの17両編成に対応できる十分な長さを確保して設計されているからである。
- さらにそこには車両の規格の違いという巧妙な工夫も隠されている。東海道新幹線を走る車両の長さが全て約25mであるのに対し、在来線区間も走行する「ミニ新幹線」である『こまち』の車両長は約20mと短く設計されている。そのため、E5系『はやぶさ』(10両・約250m)とE6系『こまち』(7両・約148m)が連結した17両編成の全長は合計約400mとなり、実は東海道新幹線の16両編成(400m)とほぼ変わらないのだ。
- つまり東北新幹線は「例外」なのではなく「17両での運行を前提とした別の規格」なのだ。歴史の古い東海道・山陽新幹線にはこの“余裕”がないのである。

「なるほどだブー!『はやぶさ』と『こまち』の合体ロボはちゃんと計算されたマジックだったんだブーね!東海道新幹線は昔に作られたから、そのマジックが使えないんだブーか…。」
なぜ東北新幹線だけが「17両」を許されるのか
- ホームの長さ: 東北新幹線の主要駅のホームは、建設当初からこの17両編成に対応できる長さを確保して設計されている。
- 車両の規格: 「こまち」の車両長は在来線も走るため約20mと短く設計されている。そのため17両編成の全長(約400m)は、実は東海道新幹線の16両編成(400m)とほぼ変わらない。
第四章:その他の技術的な課題
ホームの長さ以外にも車両数を増やすことには、いくつかの技術的な課題が存在する。

- 変電所の容量問題
- 車両数を増やせば当然走行に必要な電力も増える。現在の沿線の変電所の供給能力がそれに対応できるのかという問題。
- 信号システムの問題
- 新幹線の安全運行を支えるATC(自動列車制御装置)は列車の長さを前提に制御システムが組まれている。編成が長くなればそのシステム全体の改修が必要となる。
- 車両基地の問題
- 日々の点検や清掃を行う車両基地の線路の長さも、当然「16両」を基準に作られている。
これらの課題もまた「16両の壁」をより強固なものにしている。
終章:長さではなく“密度”と“速さ”で戦う
結論として新幹線が16両より長くならないのは、日本の特に東海道・山陽新幹線の主要な駅のプラットホームが、「全長400メートル」という物理的な器として設計されているからであった。
この動かしがたい制約の中でJR各社はこれまで、「長さ」を増やすのではなく別の方法で輸送力の向上に挑んできた。
二階建て車両(E4系Maxなど)の導入による「密度」の向上。
そして「のぞみ」の登場に象徴される「速さ(所要時間の短縮)」による運行本数の増加。
我々が次に帰省ラッシュの混雑の中でため息をつく時。
その400メートルという物理的な限界の中で、それでも我々を安全にそして少しでも速く目的地へと届けようとする日本の鉄道技術の見えざる努力に、少しだけ思いを馳せてみるのも良いかもしれない。



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