2026年1月7日、ドナルド・トランプ米大統領は、66に及ぶ国際機関や条約からの脱退、および資金拠出の停止を指示する大統領覚書に署名した。
この決定は単なる孤立主義への回帰や特定の政策への不満表明といった、一過性の政治的ジェスチャーではない。それは1945年以降、米国自身が主導して築き上げてきたリベラルな国際秩序、とりわけ国連を中心とする多国間協力の枠組みに対する、構造的かつ不可逆的な解体を意図した戦略的転換である。
本稿は、この政策決定の背景にあるイデオロギー、対象となった組織の選定論理、そしてこの行動が招くであろう地政学的な波及効果について、詳細に分析を行うものである。
第一章:政策の起源──「プロジェクト2025」と、保守派の長年の“不満”
今回の大量脱退の直接的な根拠は、トランプ大統領が再任直後の2025年2月に署名した大統領令にある。この大統領令は、米国が加盟する全ての国際組織が米国の国益に寄与しているか否かを基準とした、包括的なレビューを命じたものだった。

- 知的支柱「プロジェクト2025」
- この政策の知的・理論的支柱となっているのが、保守系シンクタンクであるヘリテージ財団が主導した「プロジェクト2025」である。同プロジェクトは連邦政府の行政機構、いわゆる「行政国家」の解体を掲げており、その射程は国際機関における「リベラルな国際官僚機構」の無力化にも及んでいる。
- 文化戦争の、国際舞台への輸出
- ヘリテージ財団は1980年代から、国連貿易開発会議(UNCTAD)などの機関が市場原理に反し富の再分配を目指す「世界的な社会主義プロジェクト」であるとして批判を展開してきた。
- トランプ政権の今回の行動はこうした長年にわたる保守派の不満と、現代の「文化戦争」—ジェンダー、気候変動、リプロダクティブ・ライツをめぐる対立—が融合した結果である。マルコ・ルビオ国務長官が述べたように、これらの機関は米国の主権を制約する「グローバリストのプロジェクト」とみなされているのだ。

「うわー…。ただのトランプさんの思いつきじゃなくて、ちゃんと裏には何十年も前から国連とかを敵視してきた人たちの思想があったんだブーか…。根が深い問題なんだブーね…。」
第二章:脱退対象の構造分析──4つの“戦略的ターゲット”
今回対象となった66の組織は無作為に選ばれたものではなく、トランプ政権が敵視する特定の政策領域に集中している。これらは大きく四つのカテゴリーに分類可能だ。

| クラスター | 主要な対象機関(例) | 撤退の主な論理的根拠(政権・保守派の主張) |
|---|---|---|
| 気候・環境 | UNFCCC, IPCC, 緑の気候基金 | 「気候正統主義」への反発、エネルギー主権の侵害 |
| 社会・ジェンダー | 国連人口基金(UNFPA), UN Women | 「覚醒した(Woke)イデオロギー」、中絶支援への反対 |
| 経済・開発 | 国連貿易開発会議(UNCTAD), UNIDO | 富の再分配への反対、「グローバル社会主義」への警戒 |
| 知識・規範 | UNESCO, 国連大学(UNU) | 反米・反イスラエル偏向、組織の非効率性への批判 |
- 気候・環境クラスター:パリ協定体制の無力化
- 最も影響が大きいのが気候変動対策関連機関からの離脱だ。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)からの脱退は、米国が気候変動に関する「科学的合意」と「国際的な交渉プロセス」そのものを否定することを意味する。
- 社会・ジェンダークラスター:「文化戦争」の最前線
- 第二のターゲットはジェンダー平等や人権を扱う機関群である。特に国連人口基金(UNFPA)への資金停止と脱退は、米国内の保守層が強く反対するリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)への攻撃という側面が強い。
トランプ政権が狙い撃ちにする四つのターゲット
- 気候・環境クラスター(UNFCCC, IPCCなど): パリ協定体制の無力化。
- 社会・ジェンダークラスター(UNFPA, UN Womenなど): 「文化戦争」の最前線。ジェンダー平等やリプロダクティブ・ライツへの攻撃。
- 経済・開発クラスター(UNCTADなど): 富の再分配への反対。「グローバル社会主義」への警戒。
- 知識・規範クラスター(UNESCO, 国連大学など): 反米・反イスラエル偏向への批判。
第三章:地政学的な波及効果──“力の空白”と、中国の台頭
米国の撤退は国際社会に巨大な力の空白(パワー・バキューム)を生み出す。通説ではこの空白を中国が埋め覇権を握るとされるが、現実はより複雑な様相を呈している。

- 中国の機会と限界
- 米国が去った後の国際機関において中国は間違いなく影響力を拡大させる。特に人権の定義の変更や、AI監視技術といった分野で、中国式のモデルを国際標準として推進することが容易になる。
- しかし一方で中国が米国の抜けた財政的な穴をすべて埋める可能性は低い。中国の対外支援は国連を通じた多国間援助よりも、「一帯一路」構想などの二国間融資を優先する傾向がある。
- 同盟国の苦境
- 日本や欧州などの米国の同盟国は深刻なジレンマに直面する。米国が拠出していた巨額の資金の穴埋めを期待されるが、各国の財政状況も厳しく完全な代替は不可能だ。
- また従来、西側諸国は米国と連携して中国やロシアに対抗してきたが、最大のパートナーである米国がテーブルから去ることで多国間交渉における影響力を失うことになる。

「そっか…。アメリカが抜けたらその穴を全部中国が埋めるってわけでもないんだブーね。でも日本やヨーロッパは、お金の負担も増えるし中国への交渉力も弱くなるしで、大変なことになるんだブー…。」
米国の“不在”がもたらす世界の変化
- 中国: 国際機関での影響力は拡大するが、米国ほどの財政的な貢献はしない可能性が高い。
- 日本や欧州などの同盟国: 巨額の資金の穴埋めを期待されるが財政的に困難。米国という最大のパートナーを失い、多国間交渉での影響力を失う。
終章:分断された世界と、「米国のいない」未来
トランプ大統領による66の国際機関からの脱退・資金停止指示は、単なるコスト削減策ではなく第二次世界大戦後の国際秩序に対する意図的な解体作業である。
「アメリカ・ファースト」の名の下に行われるこの撤退は短期的には米国の財政負担を軽減し、一部の保守層の留飲を下げるかもしれない。しかし長期的には米国が自ら作ったルールの番人の座を放棄し、競争相手である中国に「秩序の書き換え」というまたとない好機を与える戦略的失策となる可能性が高い。
我々は今、法の支配に基づく多国間主義が終焉し、力と取引がすべてを決定する新しいそしてより不安定な時代の入り口に立っている。



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