積み上げられた木の塔から、一本ずつブロックを抜き取っていくスリル満点のゲーム「ジェンガ」。
遊んでいる最中、「このブロックはガチガチに動かないのに、隣のブロックはスカスカで簡単に抜ける」という経験をしたことはないだろうか。
多くの人はそれを「積み方のバランスのせい」だと思っている。しかし、真実はもっと物理的で、ある意味で衝撃的だ。
実は、ジェンガのブロックはすべて微妙に大きさが違うのである。
もし、日本の精巧な金型技術を用いて、ミクロン単位で完璧に同じサイズのブロックを作ったらどうなるか。
結論から言えば、そのジェンガは「遊べない」か、あるいは「極めてつまらない」ものになる。
本稿は、ジェンガに隠された「計算された不均一さ」と、それが生み出すゲームのメカニズムについて分析するレポートである。
第一章:なぜ「同じ大きさ」ではダメなのか?
ジェンガの公式サイズ(幅2.5cm、高さ1.5cm、長さ7.5cm)は決まっているが、実際には意図的なバラつき(公差)が含まれている。
もし、これらが寸分の狂いもなく完璧に同じサイズだった場合、物理学的に以下の2つの致命的な問題が発生する。

- 「リンギング現象」による密着
- 表面が極めて平滑で、サイズが完全に一致するブロック同士を重ねると、接触面の空気が追い出され、まるで真空パックされたかのようにピッタリと張り付いてしまう。これを「リンギング(吸着)」と呼ぶ。
- こうなると、摩擦力が極大化し、ブロックを引き抜くことは不可能になる。
- 荷重の「完全分散」による膠着
- 全てのブロックの高さがミクロン単位で同じであれば、上からの重さが全ブロックに均等にかかることになる。
- つまり、「重さがかかっていない(=抜きやすい)ブロック」が存在しなくなる。どれを抜こうとしてもタワー全体の重量と摩擦と戦うことになり、一本抜いた瞬間にバランスが崩壊してゲームが終了する。

「ええーっ!完璧に作っちゃダメなんだブー!?『いい加減』に作らないとゲームにならないなんて、逆転の発想だブー!」
第二章:「サボっているブロック」を探すゲーム
私たちがジェンガで遊んでいる時、実際に何をしているのかを物理的に翻訳すると、「仕事をしていない(荷重を支えていない)ブロックを探す作業」と言える。

- バラつきが生む隙間
- ブロックの厚みにわずかなバラつきがあるため、タワーの重さは「背の高い(厚い)ブロック」が優先的に支えている。
- その隣にある「ほんの少し背の低い(薄い)ブロック」は、上からの圧力がかかっておらず、摩擦が少ない状態にある。これがいわゆる「スッと抜ける当たり」である。
- ランダム性の創出
- 製造上の誤差(100分の1ミリ〜数ミリ単位)や、木材の湿度による収縮を許容・活用することで、タワー内の「荷重の道筋」は毎回ランダムに変化する。
- 「どれかはキツくて、どれかは緩い」。この不公平さこそが、ジェンガをパズルゲームとして成立させている最大の要因なのである。

「なるほどだブー!スッと抜けるブロックは、塔を支える仕事を『サボってる』ブロックだったんだブーね!サボり魔を見つけるゲームだったとは…!」
第三章:サイコロとの対比──「公平」と「遊び」の哲学
この「意図的な不揃い」は、他のゲーム用具と比較するとその特異性が際立つ。

- カジノのサイコロ(ダイス)
- カジノで使われるダイスは、「完全な公平性」を担保するため、ミリ単位の狂いもなく、重心がど真ん中に来るように精密加工されている。ここには「ゆらぎ」は許されない。
- ジェンガのブロック
- 対照的にジェンガは、「不公平であること(不均一であること)」を前提としている。
- 「世の中は公平であるべきだが、遊びには不公平(ゆらぎ)が必要だ」。ジェンガの設計思想には、そんな哲学すら感じられる。
終章:不完全さが生む面白さ
結論として、ジェンガのブロックの大きさが違うのは、手抜きでも不良品でもない。
それは、プレイヤーに「正解(抜きやすい石)」を用意し、ゲームをドラマチックにするための必須機能であった。
次にジェンガを遊ぶ時、スッと抜けるブロックを見つけたら思い出してほしい。
それは、そのブロックが周囲よりわずかに小さく、タワーを支える仕事を「サボっている」からこそ、あなたの手の中で自由に動くことができたのだと。



コメント