コンビニやスーパーの棚に鎮座する、白いパッケージに四角い容器。まるか食品(群馬県)の「ペヤングソースやきそば」は、1975年の発売以来、熱狂的なファンを持つロングセラー商品だ。
業界で初めて導入された「四角い容器」は、縁日の屋台で売られる焼きそばのパックを模したものであることは有名だが、その商品名「ペヤング」の由来については、意外と知られていない。
実はその名前には、現在の「激辛」や「超超超大盛り」といったエクストリームな芸風からは想像もつかない、昭和ならではの甘酸っぱいロマンが込められていた。
本稿は、ペヤングというブランドが辿った「名前の由来」と、中堅メーカーが生き残るために選んだ「狂気の生存戦略」について分析するレポートである。
第一章:ペヤング=「ペア」+「ヤング」
結論から言えば、「ペヤング」という言葉は二つの英単語を合成した造語である。
- Pair(ペア) = 2人で
- Young(ヤング) = 若者が
合わせて「ペアでヤングなソースやきそば」。
つまり、「若いカップルに2人で仲良く食べてもらいたい」という願いが込められているのである。

- 「シェア」の先駆け
- 発売当時の1975年、カップ麺はまだ「個食」が基本だった。
- しかし、開発者である二代目社長・丸橋善一氏は、当時高価だったカップ麺を「若い恋人同士で分け合って食べてほしい」と考え、あえて他社製品より少し多めの麺量(90g)に設定した。(※当時は60g前後が主流)
- 「ペアのヤングは熱々、焼きそばも熱々」。そんな昭和のキャッチコピー通りの、デートの軽食としてのコンセプトだったのだ。

「ええーっ!カップル向けの焼きそばだったんだブー!?リア充のための食べ物だったなんて知らなかったブー!今の激辛路線とは真逆だブー…。」
第二章:ロマンから「孤独な戦い」へ──コンセプトの乖離
しかし、発売から半世紀が経った現在、ペヤングが纏うイメージは劇的に変化した。
「若い2人で仲良く」という当初のコンセプトは消え失せ、現在は「一人で限界に挑む」という修羅の様相を呈している。

- サイズのエスカレーション
- 「超大盛り(2倍)」「超超超大盛り(4倍)」、そして「ペタマックス(7.3倍・4184kcal)」。
- これらはカップルでシェアする量を超えており、YouTuberや大食い自慢が一人で立ち向かうための「壁」となっている。
- 味の暴走
- 「チョコレート味」「アップルパイ味」などの奇食系に加え、「獄激辛」シリーズのような兵器級の辛さ。
- そこには「美味しい食事」という前提すら怪しい、エンターテインメントとしての刺激が追求されている。

「4000キロカロリーなんて、カップルでも食べきれないブー!完全に『戦い』のための食料になってるブー…。」
第三章:なぜ「狂気」に走ったのか?──中堅メーカーの生存戦略
なぜ、昭和のロマンを掲げたブランドは、ここまで過激な路線変更を行ったのか。
その背景には、まるか食品という「地方の中堅メーカー」ならではの切実な生存戦略があった。

- 広告費ゼロで勝つ方法
- まるか食品は、日清食品や東洋水産といった巨大資本のナショナルブランドではない。正攻法のテレビCMや全国キャンペーンでは勝てない。
- そこで選んだのが、「商品そのものを広告塔にする(話題で勝つ)」というゲリラ戦術だった。
- 2014年の転機
- 大きな転換点となったのは、2014年の異物混入による一時販売停止事件である。
- ブランド存続の危機に瀕した同社は、復帰にあたり「単に戻るだけでは埋もれる」と判断。「決して忘れられないインパクトを残す」という方向へ大きく舵を切ったとされる。
第四章:食品から「コンテンツ」へ
この戦略は、SNS時代の空気と完璧に合致した。
現代において、拡散されるのは「美味しいもの」よりも「語りたくなるもの(ネタ)」である。

- ベンチャー型商品開発
- 大手メーカーはブランド毀損を恐れて「失敗作」を出せないが、中堅メーカーには「1つでもバズれば勝ち」というフットワークがある。
- 「食べきれない」「辛すぎる」「まずい(かもしれない)」。これらのネガティブすらも内包した感想は、SNSにおける格好の「口コミの燃料」となった。
- 体験型食品としての地位
- 現在のペヤングは、空腹を満たすための「食品」ではなく、SNSに投稿するための「コンテンツ(体験)」として消費されている。
- 「ペヤング」という名前は変わらないが、その中身は「ペアのヤング(恋人)」向けから、「SNSのヤング(ネットユーザー)」向けへと、ターゲットを再定義することに成功したのである。
終章:名前は体を表す
「ペヤング」=「ペア+ヤング」。
かつては「恋人同士の共有体験」を目指したその名前は、形こそ変われど、今は「ネット上の無数の他者との共有体験(バズ)」を生み出すツールとして機能している。
昭和のロマンと、令和の狂気。
その両方を飲み込んで、ペヤングは今日も四角い顔で売り場に並んでいる。
次にあのパッケージを見たときは、それが単なる焼きそばではなく、時代を生き抜くための「企業の知恵」の塊であることを思い出してほしい。


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