刑事ドラマやアクション映画のクライマックス。
時限爆弾のタイマーが残り数秒を刻む中、主役の刑事がペンチを握りしめ、脂汗を流しながら叫ぶ。
「赤か、青か……どっちだ!?」
そして一か八かでコードを切断し、タイマーが止まって安堵する──。
誰もが一度は目にしたことのあるこのシーンだが、現実の爆発物処理において、このような「運試し」が行われることはまずあり得ない。
実際の爆弾は、コード一本で止まるほど単純ではなく、そもそも刑事が素手で触れること自体が許されない。
本稿は、エンターテインメントが作り上げた虚構と、専門部隊が行う「冷凍処理」や「遠隔操作」といった冷徹な現実とのギャップを解き明かすレポートである。
第一章:なぜ「コード切断」は不可能なのか?──複雑化する起爆回路
ドラマでは「正しい線を切れば止まる」が定石だが、現実の爆弾、特にテロリストや専門的な知識を持つ犯人が作ったIED(即席爆発装置)は、解除者を殺傷するための罠(ブービートラップ)が張り巡らされている。

- スパゲッティのような配線
- 実際の内部は、赤や青といった分かりやすい2本の線ではなく、同色の線が複雑に絡み合っていたり、ダミーの配線が無数に存在したりすることが多い。
- コラプシング回路(崩壊回路)の恐怖
- 最も恐ろしいのは、「線を切った(電流が途切れた)瞬間に起爆する」仕組みだ。
- これを「コラプシング回路」と呼ぶ。電磁リレーなどを使い、通電している間はスイッチがOFFになっているが、線を切って電気が止まるとスイッチがONになり、起爆する構造である。
- つまり、ドラマのように「電源コードを切れば止まる」と思って切断した瞬間、それが引き金となって爆発するのである。

「ええーっ!切ったら止まるんじゃなくて、切ったら爆発するんだブー!?そんな罠が仕掛けられてたら、怖くてハサミなんて入れられないブー!」
第二章:誰が処理するのか?──刑事ではなく「ロボット」の仕事
「刑事が現場で処理する」というのも大きな誤解である。爆発物処理は、警察組織の中でも極めて高度な専門教育を受けた部隊のみに許された任務である。

- 爆発物処理班(EOD)の出動
- 日本では、機動隊の中に設置された「爆発物処理班」が出動する。捜査一課の刑事が爆弾に触れることは、二次被害を防ぐ観点からもあり得ない。
- 人間は近づかない
- 現代の処理における鉄則は「遠隔操作」である。
- まずは爆発物処理用ロボットが接近し、カメラでの確認や、X線撮影による内部構造の透視を行う。人間が直接アプローチするのは、どうしてもロボットでは対処できない最終手段に限られる。
- その際も、ドラマのようなスーツ姿ではなく、重さ40kg以上ある防爆スーツを着込んで作業にあたる。

「やっぱりロボットにお任せするんだブー。生身の人間が近づくなんて、今の時代じゃありえないんだブーね。」
第三章:現代の主流は「切る」のではなく「凍らせる」
では、実際にどうやって爆弾を無力化するのか。
かつては信管を抜くなどの物理的接触が必要だったが、現在は科学的なアプローチが主流となっている。その代表例が「冷凍法」だ。

- 液体窒素による無力化
- 爆弾を解体するのではなく、「丸ごと凍らせて機能を停止させる」手法である。
- 電池の停止: 電池は化学反応で電気を生み出している。極低温に冷やすことで化学反応を止め、電圧をゼロにして起爆装置への電力供給を断つ。
- 火薬の不活性化: 多くの爆薬や起爆剤は、極低温下では化学的安定性が変わり、起爆しにくくなる。
- 水流による粉砕(ディスラプター)
- もう一つの主流は、高圧の水流(ウォーターカノン)を撃ち込み、電気信号が信管に伝わるよりも速いスピードで、起爆装置そのものを物理的に吹き飛ばす・回路を切断する方法である。
- いずれにせよ、「赤か青か」を選んでパチンと切るような繊細かつギャンブル的な作業は、現実の処理現場には存在しない。
終章:ロマンの終わりと安全の確立
結論として、時限爆弾処理における「赤と青のコード」は、サスペンスを盛り上げるための優れた演出に過ぎなかった。
現実は、複雑怪奇な回路を読み解くパズルではなく、「いかに人命を危険に晒さず、物理的・化学的に無力化するか」という、冷徹なサイエンスとプロトコルの世界である。
ドラマのような「残り1秒での逆転劇」は起きない。なぜなら、プロの仕事は、残り時間が1秒になる遥か手前で、液体窒素やロボットを用いてリスクを「ゼロ」にすることだからである。



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