コンビニのおつまみコーナーや駄菓子屋で、数百円、あるいは数十円で売られている「ドライカルパス」。
袋を開けると漂うスパイシーな香り。噛めば噛むほどジュワッと染み出す脂。ビーフジャーキーのような「干し肉」とは明らかに違う、あの独特の食感と旨味。
あの中には一体、どんな肉が、どのような状態で詰まっているのか。
その正体は、単なる肉の塊ではない。コストと保存性を極限まで追求し、様々な肉と技術を再構築した「肉のパッチワーク(ミンチ)」であり、言うなれば「水分を抜き去ったハンバーグ」のような存在である。
本稿は、身近な嗜好品であるドライカルパスの「中身」と「製造の裏側」を、公平かつ科学的な視点から解き明かすレポートである。
第一章:肉の正体は「多国籍軍」
まず、ビーフジャーキーとの決定的な違いは「肉の形状」にある。ジャーキーが筋肉(赤身)をそのままスライスして干したものであるのに対し、カルパスは「挽肉(ミンチ)」を再構成したものだ。では、何の肉なのか?

- 主役は「鶏肉」
- 意外かもしれないが、日本で流通している安価なカルパス(特におやつ用)の主原料は、多くの場合「鶏肉(チキン)」である。
- 鶏肉は安価でクセがないためベースとして最適だ。そこにコクを出すための「豚肉(ポーク)」や「豚脂肪(ラード)」を混ぜ込むのが一般的である。商品によっては牛肉やマトン(羊)、かつては馬肉なども使用されていた。
- つなぎの魔法
- これら複数の肉をミンチにし、結着させるために「デンプン」や「大豆タンパク」がつなぎとして投入される。
- つまりカルパスとは、様々な肉の部位を混ぜ合わせ、スパイスと脂でドーピングし、一本の棒状に再構築した「ミックス肉の加工品」なのである。

「ええーっ!サラミみたいな見た目だから牛肉かと思ってたけど、メインは鶏肉だったんだブー!いろんなお肉が混ざってるから、あんなに複雑な味がするんだブーね!」
第二章:「カルパス」と「サラミ」の決定的な違い
よく混同される「サラミ」と「カルパス」。見た目は似ているが、そのルーツと製法には明確な違いがある。

- サラミ(Salami)=イタリアの発酵食品
- 発祥はイタリア。牛肉や豚肉を使用し、乳酸菌を加えて「発酵・熟成」させたもの。乳酸菌由来の酸味があり、水分が飛び、長期保存に適した硬さを持つ。
- カルパス(Kullbasa)=ロシアのドライソーセージ
- 発祥はロシア。名前の由来はロシア語の「コルバサ(ソーセージ)」。
- 日本では主に、発酵させずに「乾燥・加熱」だけで水分を抜いたもの(セミドライソーセージ)を指すことが多い。
- つまり、我々が食べているカルパスの多くは、「ロシア生まれ日本育ちの、発酵していないドライソーセージ」なのである。

「発酵してるかしてないかの違いだったんだブー!おやつカルパスは酸っぱくないから、発酵してない『カルパス』なんだブーね。」
第三章:なぜ常温で腐らないのか?──水分活性の制御
生肉はすぐに腐るが、カルパスは常温で棚に並んでいる。この保存技術の要は、徹底した「水分の除去」にある。

- 細菌兵糧攻め
- 食品が腐敗するのは、細菌が増殖するからだ。そして細菌が増えるには「水」が不可欠である。
- カルパスは、乾燥工程によって肉の中の水分を極限まで減らしている。さらに塩分を加えることで、残った水分も細菌が利用できない状態(水分活性が低い状態)にしている。
- 「加熱殺菌」+「乾燥」という二段構えにより、保存料だけに頼らずとも常温保存が可能となっているのだ。
第四章:あの「皮」は何でできている?
最後に、おやつカルパスなどで「皮ごと」食べているあの薄い膜について。
あれはビニールではない。「コラーゲンケーシング」と呼ばれる、食べられる人工の皮である。

- 牛の皮の再利用
- 牛の皮の内側などをドロドロに溶かし、薄い膜状に再構築して作られている。
- 天然の羊腸(ソーセージに使われるもの)よりもサイズや厚みが均一で、大量生産に適しているため、駄菓子系カルパスではほぼ100%このケーシングが採用されている。
終章:肉の旨味の濃縮体
結論として、ドライカルパスは「安い肉」という一言では片付けられない、高度な加工食品であった。
鶏や豚をミンチにして混ぜ合わせ、デンプンで繋ぎ、人工の皮に詰め、加熱して水分を飛ばす。
その工程は、「肉から水分だけを取り去り、旨味(アミノ酸)と脂質だけを残す」という、旨味の濃縮作業そのものである。
一本数十円の小さな棒の中には、保存技術の粋と、肉を美味しく手軽に食べるための知恵が、ぎっしりと詰まっているのである。


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