今や月間アクティブユーザー数25億人を超え、世界の放送局となった「YouTube」。
HIKAKINをはじめとするYouTuberという職業を生み出し、エンタメから教育まであらゆる動画が集まるこのプラットフォームだが、創業当初の姿は現在とは似ても似つかないものだった。
それは、「動画で自己紹介する、男女のマッチングサイト(出会い系)」である。
「Tune In, Hook Up(チャンネルを合わせて、デートしよう)」という、今では考えられないスローガンを掲げていたYouTube。
なぜ彼らはそんな斜め上のスタートを切ったのか。そしてなぜ、そこから世界最大の動画サイトへと化けたのか。
本稿は、シリコンバレー最大の「怪我の功名」とも言える、YouTubeの創業秘話を紐解くレポートである。
第一章:証拠は「創業日」にあり──2月14日の登記
YouTubeが当初「デート目的」であったことを裏付ける決定的な証拠が、ドメインの登録日にある。
「youtube.com」が登録されたのは、2005年2月14日。そう、バレンタインデーである。

- 創業者の狙い
- 創業メンバーであるチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリム(元PayPal社員の3人)は、「バレンタインデーに独り身の男女が動画でアピールし合えば、爆発的に流行るはずだ」と本気で計算し、この日を選んで登記したとされる。

「ええーっ!YouTubeの誕生日はバレンタインだったんだブー!?ロマンチックというより、下心が透けて見えるブー…。」
第二章:早すぎたTinder──「Tune In, Hook Up」
当時のYouTubeの仕様は、現在の「Tinder」やマッチングアプリの動画版といえるものだった。

- スローガン
- “Tune In, Hook Up”
- 「Tune In(チャンネルを合わせる)」と「Hook Up(引っ掛ける/デートする/関係を持つ)」を掛けた、直球の出会い系キャッチコピーである。
- システム
- ユーザー(特に女性)が自分の魅力を語るビデオをアップロードする。
- それを閲覧したユーザーが「いいな」と思ったらコンタクトを取る。
2005年当時、まだ通信回線も遅く、顔出し動画をネットに上げるハードルが高かった時代に、彼らはあまりにも先進的すぎる「動画マッチング」を夢見ていたのである。

「2005年に顔出しで恋人募集なんて、ハードルが高すぎるブー!黒歴史確定だブー!」
第三章:まさかの「投稿ゼロ」事件──20ドルの懸賞金
サイトはオープンした。しかし、現実は残酷だった。
当時のインターネット文化において、自分の顔を晒して「デートしてください」と動画を上げるユーザーなど、どこにもいなかったのである。

- 苦肉の策
- 焦った創業者たちは、米国の有名掲示板「Craigslist」に広告を出した。
- 「動画を投稿してくれた女性には20ドルあげます」
- なりふり構わぬサクラ募集とも取れるキャンペーンだったが、結果は惨敗。投稿数はまさかのゼロ(あるいは創業者たちのテスト動画のみ)だったと言われている。

「お金を配っても誰も来なかったんだブー!?今のYouTubeからは考えられない過疎りっぷりだブー…。」
第四章:伝説のピボット──「動物園にて」が変えた未来
「出会い系としては完全に失敗した」。
そう悟った彼らは、ここで歴史的な方針転換(ピボット)を決断する。

「もうデートとか関係なくていい。旅行でもペットでも、何でもいいから動画を置ける場所にしよう」
トップページから「出会い系機能(性別や年齢の絞り込みなど)」を削除し、誰でも好きな動画をアップロードできるように開放した。
その直後の2005年4月23日、共同創業者のジョード・カリムによって一本の動画が投稿される。
- 『Me at the zoo(動物園にて)』
- 象の前で「鼻が長いね」と話すだけの、わずか18秒の動画。
- 色気も何もないこの動画こそが、YouTubeが「日常を切り取るメディア」へと生まれ変わった瞬間であった。
ここから、「ホームビデオ」や「面白いハプニング」が爆発的に投稿され始め、YouTubeは出会い系サイトの殻を破り、世界的な動画共有プラットフォームへと急成長を遂げることとなった。
終章:モテようとして失敗したから、今がある
もし2005年当時、女性たちが20ドル欲しさに動画を投稿しまくっていたらどうなっていただろうか。
YouTubeは今ごろ「世界最大の動画出会い系サイト」として君臨していたかもしれないが、そこにはHIKAKINも、教育系動画も、世界中のニュース映像も存在しなかっただろう。
「モテたい」という動機で始まり、それが大失敗したからこそ、世界を変えるインフラが誕生した。
YouTubeの歴史は、ビジネスにおいて「こだわりを捨てる勇気」がいかに重要かを教えてくれる、最高の教材と言えるかもしれない。


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