CHAGE and ASKA(チャゲ&飛鳥)。
「SAY YES」や「YAH YAH YAH」といった国民的ヒット曲を連発し、日本の音楽シーンに巨大な足跡を残したスーパーデュオである。
世間一般的なイメージでは、圧倒的な歌唱力を持ち、主要なヒット曲の作詞作曲を手掛けたASKAが「主役」であり、Chageはそれを支える「脇役」と見られがちである。
しかし、その認識は音楽的な構造を理解すると180度覆る。彼らが伝説となり得た最大の要因は、ASKAのカリスマ性以上に、Chageという稀代の「No.2」が遂行した、高度に計算された“引き立ての美学”にあったからだ。
本稿は、Chageが担っていた役割を「声」「演出」「楽曲」の3点から解剖し、なぜ彼が必要不可欠だったのかを解き明かすレポートである。
第一章:声の建築学──「上」を舞うハイトーンの魔術
まず、Chageの最大の功績は、そのヴォーカル・ワークにある。彼は単に「ハモっている」だけではない。

- 主旋律を包み込む「ツインボーカル」
- 一般的なデュオのハモリは、主旋律の「下」を支えることが多い。しかし、ChageはASKAの太く粘り気のある声の「上」の音域を突き抜けるように歌い、時には主旋律と交差しながら複雑に絡み合う。
- これにより、ASKAの重厚な声に「艶」と「広がり」が付加され、「二人の声で一つの巨大な楽器」を鳴らすような独自のサウンド(チャゲアス・トーン)が完成する。
- 阿吽の呼吸
- 「ここでASKAが吠えるなら、自分は引く」「ASKAがブレス(息継ぎ)をする隙間を、自分の声で埋める」。
- ChageはASKAの声を誰よりも理解し、その魅力を殺さず、かつ自分の存在も消さない絶妙なバランスで並走していた。これは伴奏ではなく、高度な「対位法」に近い技術である。

「ええっ!ただのコーラスじゃなかったんだブー!?ASKAさんの声を包み込んで、もっと輝かせてたなんて…職人技すぎるブー!」
第二章:ステージの心理学──「静と動」の完全な分業
ライブパフォーマンスにおいて、二人の役割は明確に、そして残酷なまでにコントラストが付けられていた。

- 「孤高」と「親愛」のバランス
- ASKA(静・影): 眉間に皺を寄せ、哲学的な歌詞を魂で歌い上げる「カリスマ」。観客とはあえて距離を置き、崇高なアーティスト性を保つ。
- Chage(動・光): トレードマークの帽子とサングラスでステージを走り回り、笑顔でMCをこなし、観客を煽る「エンターテイナー」。
- 観客の救済
- もし二人ともASKAのようにシリアスであれば、観客は息が詰まってしまう。Chageが陽気な兄貴分として会場の空気を緩和(アイスブレイク)するからこそ、ASKAがどれだけ内省的な世界に入り込んでも、エンターテイメントとして成立したのである。

「Chageさんが盛り上げてくれるから、安心してASKAさんの歌に没頭できたんだブーね。お客さんの心のケアまでしてたなんて優しいブー!」
第三章:楽曲の多様性──天才を飽きさせない「スパイス」
そして忘れてはならないのが、Chage自身のソングライティング能力である。

- 重厚さを中和する「異物感」
- ASKAの楽曲が「壮大でドラマチックなバラード(メインディッシュ)」だとすれば、Chageの楽曲は「ビートの効いたロック」や『ふたりの愛ランド』に代表される「キャッチーなポップス(スパイス)」である。
- アルバムの中に全く毛色の違うChage曲が挟まることで、リスナーはASKAの濃密な世界観に胃もたれすることなく、デュオとしての音楽性を何倍にも拡張して楽しむことができた。
終章:「前に出ない」という最強の自己主張
Chageの美学とは、「主役の光量を計算し、自分の明るさを調整する能力」に他ならない。
もし彼が自我を押し通し、ASKAと同じ土俵で勝負していたら、個性は衝突し、ユニットは早々に破綻していただろう。
しかし彼は、一歩引くことで全体を俯瞰し、ASKAという才能を最大化させるための「最強の触媒」となる道を選んだ。
Chageは「ASKAに引き立てられた」のではない。
「Chageがいたからこそ、ASKAはASKAになれた」のである。
CHAGE and ASKAの成功の歴史は、主役の才能の物語であると同時に、それを完璧にコントロールし、輝かせた、もう一人の天才の物語でもあるのだ。



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