極寒の地を駆け抜ける、誇り高きイヌぞりの姿──。
かつて南極でも活躍したその移動手段が、現在は一切使えなくなっていることをご存じだろうか?
その背後には、1959年に締結された“ある国際条約”が関係していた。
しかも、この条約が成立する以前には、あの名作映画『南極物語』の元となる実話が起きていたのである。
かつての南極では、雪上車と並んで活躍していた“犬たち”。
なぜ彼らは南極から姿を消したのか?
そして、今もなお北極圏では活躍している理由とは──。
第1章:イヌぞりは極地探検の英雄だった
- 19世紀末〜20世紀初頭、南極・北極は“人類最後のフロンティア”として、各国がこぞって探検を行っていた
- 極寒でエンジンが止まるような環境では、犬の力に頼るのがもっとも確実な方法だった
- ノルウェーのロアール・アムンセンも、1911年の南極点到達でイヌぞりを駆使し、イギリス隊に競り勝った
氷点下でも確実に走り、危険察知能力も持つ犬たち──
極地探検の真の“相棒”だった。
第2章:「イヌは入るな」南極条約が定めた生態系保護
- 1959年、冷戦下の協調的成果として「南極条約」が誕生
- この条約は南極を非軍事・科学研究のための“中立地帯”とする目的で制定
- 中でも注目すべきは「外来生物の持ち込み禁止」の条項
条約のねらい
- 外部から強い繁殖力を持つ動物が入ると、
→ 南極の微生物・植物・鳥類などの固有生態系に壊滅的影響を及ぼす恐れ - 犬も例外ではなく、「繁殖し野犬化する危険がある」として全面持ち込み禁止に
POINT
南緯60度以南の地域に犬を持ち込むことは国際的に“禁止事項”となっている。
第3章:『南極物語』のタロとジロは、条約前の生存者だった
- 1983年に公開された日本映画『南極物語』は、興行収入50億円超の大ヒット作品
- 主人公は、1958年の南極越冬隊の犬たち(カラフト犬)
- 昭和基地に置き去りにされたイヌ18頭のうち、1年後に生きて再会できたのはタロとジロの2頭
「感動の実話」として語り継がれるこの物語は、南極条約が制定される以前の話だった。
- その後、2006年にはディズニー制作による映画『南極物語(Eight Below)』として再映画化
- 日本の実話をベースに、設定をアメリカの南極探検に置き換えて再構築
第4章:北極では今も現役──イヌぞりの文化は生きている
- 一方、北極圏(カナダ・グリーンランド・ロシア北部など)ではイヌぞりは今も健在
- 特にロシア北極圏の先住民族は、アザラシ猟や物資運搬にイヌぞりを使用
なぜ北極では禁止されない?
- 北極には南極のような国際条約は存在せず、各国の国内法が適用される
- もともとイヌぞりが暮らしの一部として根付いており、
→ 文化保護の観点からも重視されている
第5章:犬か、マシンか──移動手段に託された“危機察知”能力
- 日本の南極観測隊が最初にイヌぞりを採用したのは、「機械よりも犬の方が危険を察知できる」という判断から
- クレバス(氷の割れ目)や異常音に敏感で、命を救う場面も多かった
- しかし、雪上車やGPS技術の進化により、犬の代替が可能に
とはいえ、「心で通じ合う相棒」としての犬の信頼感は、今も根強い評価を受けている。
総まとめ:氷の大地に残る“犬たちの足跡”
一度は極地探検の最前線を支え、
人類の知的冒険を陰で支えた犬たち。
だが、地球環境と条約の時代が変わり、
彼らの活躍の舞台は北極に限られるようになった。
「生態系を守ること」と「文化を残すこと」
両立のむずかしさと、静かに変化する極地の風景が、そこにはあった。

ブクブー
「犬たちの忠誠と冒険心が、南極の氷に刻まれてるブー…
でも今は守ることも、冒険なんだブー…」
コメント