「ピーマンのにおいがイヤで…」なんていうレベルじゃない。
世界には、“爆発するほどに臭い”とすら言われる食品が、堂々と「高級グルメ」として愛されている──そんな事実をご存じだろうか?
納豆、くさや、チーズ、そして臭豆腐に、シュールストレミング。
共通するキーワードは「発酵」。
発酵とは腐敗か?それとも文化か?
においは忌避すべきものか? それとも、うまみの深層か?
今回、強烈な臭気を放つ食べ物の中から代表的な事例を取り上げ、“くさいのに愛される”メカニズムと文化的構造に迫る。
第1章:「爆発するほどくさい」ってどういうこと?
においの強い食べ物は数あれど、「爆発するほどくさい」という異次元の表現が許されるのは、ほんの一握り。
その代表格が──
- スウェーデンのシュールストレミング(発酵ニシン)
- ニュージーランドのエプキアチーズ(缶詰チーズ)
いずれも発酵が缶の中で止まらず、ガス圧が高まって破裂の危険すらある。
■ においと圧力の因果関係?
- 発酵食品は微生物が分解を進め、ガスや臭気成分を放出する
- 密閉された空間ではガスが逃げ場を失い、内部圧力が上昇
- 開けた瞬間、“爆発”的に噴き出す(物理的にも臭気的にも)
「缶が爆発するほどくさい」という比喩は、
単なる言い回しではなく、実際に起こる現象なのだ。
第2章:「くささ」を数値化すると見えてくる世界
においの強さは、アラバスター値という機械測定で数値化されることがある。
以下は、代表的な「臭気強烈食材」の数値比較である。
順位 | 食品名 | 国・地域 | アラバスター値 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
1位 | シュールストレミング | スウェーデン | 3800 | 爆発注意の発酵魚缶。凶悪なアンモニア臭 |
2位 | ホンオフェ | 韓国 | 3200 | ガンギエイの刺身。強烈なアンモニア成分 |
3位 | エプキアチーズ | ニュージーランド | 3000 | 羊/牛乳のチーズ缶詰。発酵で缶が膨張することも |
4位 | 臭豆腐 | 台湾・中国など | 270〜400 | 揚げた瞬間、屋台周辺に“下水臭”が充満 |
5位 | くさや | 日本(伊豆諸島) | 250 | 青魚をくさや液に浸して干す伝統の発酵干物 |
6位 | 納豆 | 日本 | 200前後 | イソ吉草酸の酸っぱい発酵臭 |
※アラバスター値はあくまで一部研究機関等の参考測定による推定値です。
この表から見えてくるのは、日本の“くさい代表”であるくさや・納豆すらも、世界規模では“まだまだ甘い”という現実である。
第3章:なぜ「くさいのに美味い」と言われるのか?
くさい=マズいではない。
むしろ、「くさい=クセになる」「くさい=深いうま味」と感じる人も多い。
ではなぜ、人は“鼻が拒否するもの”を、舌で歓迎するようになるのか?
■ カギは「発酵」にあり
- 発酵は、微生物がタンパク質などを分解し、アミノ酸やうま味成分を増やす過程
- 同時に、揮発性の臭気成分(アンモニア、イソ吉草酸、硫化水素など)も発生
- においは強くなるが、味わいはまろやかに、深くなる
つまり「くさいけど美味い」は、“うま味と臭気が同時に育つ”現象なのだ。
■ 文化が「くささ」を決める
同じにおいでも、ある国では「ごちそうの香り」、別の国では「ゴミのにおい」とされる例は無数にある。
たとえば…
食品 | においの印象(日本) | においの印象(現地) |
---|---|---|
納豆 | 好き嫌い分かれる | ソウルフード |
くさや | 悪臭/罰ゲーム | 郷土料理としての誇り |
臭豆腐 | 下水臭レベル | 屋台グルメの花形 |
ホンオフェ | 食べられない人続出 | 韓国では高級な伝統料理 |
シュールストレミング | 開封即退避レベル | 祝いの場で食べる名物 |
つまり「においの強さ=不快さ」ではなく、
「経験」+「文化」+「慣れ」が“臭い”を“香り”に変える鍵なのだ。
第4章:「くさや」と「シュールストレミング」は何が違うのか?
どちらも“くさい魚の発酵食品”だが、実はプロセスも香りも大きく異なる。
項目 | くさや | シュールストレミング |
---|---|---|
発祥 | 日本・伊豆諸島 | スウェーデン |
原料 | アジ・トビウオなど青魚 | イワシ類 |
加工方法 | 特製「くさや液」に漬けて干す | 塩水+発酵→缶詰 |
発酵環境 | 開放型(干す) | 密閉型(缶の中で続発酵) |
においの質 | 魚の発酵臭+塩辛い香り | 腐敗臭+ガス圧+強烈なアンモニアと硫化物 |
食べ方 | 焼いて香ばしく(焼くとにおい拡散) | パンに塗る・冷凍して開ける |
くさやはあくまで“加工食品”として制御されているのに対し、
シュールストレミングは“進行中の生き物”のような不安定さを持っている。
この違いが「爆発するほどくさい」と言われる要因だ。
第5章:「例えずにはいられない」──シュールストレミングのにおいの正体とは
「世界で最もくさい食べ物」として知られるスウェーデンのシュールストレミング。
そのにおいは、ただの魚臭や発酵臭では説明できないレベルにある。
では、実際どんなにおいなのか?
■ 伝説の“例え”がコチラ
「鮒寿司とくさやと納豆に、ウンチのにおいが加わったようなにおい」
──東京農業大学 小泉武夫教授
この表現、においの構成要素としては的確すぎる。
- 鮒寿司(乳酸菌系のすえた発酵臭)
- くさや(魚の熟成香+乾物臭)
- 納豆(イソ吉草酸の汗臭)
- そして…ウンチ(硫化水素、アンモニア臭)
つまり、“においのラスボスたち”が勢ぞろいしたような匂いのカクテルなのだ。
■ なぜそんなに臭くなる?
- イワシを塩水で低塩発酵 → 常温で缶詰 → 発酵が進む
- ガス発生(主に硫化水素・アンモニア)で内圧上昇
- 蓋を開けた瞬間、噴き出しとともに臭気が解放
- 部屋中に残り、“開けたら最後”状態に…
実食者によれば、「においを嗅ぐ」ではなく「においを浴びる」体験なのだという。

「例えの破壊力がすごすぎて、想像するだけで鼻が痛いブー…」
「でも、味は意外とうまいって…ホントなのかブー⁉」
第6章:「くさや」も「臭豆腐」も──臭気が文化になった瞬間
世界のくさい食べ物たちは、単なる“奇食”ではない。
それぞれの地域で何世代にもわたって愛され、誇られてきた歴史と背景がある。
では、なぜ「臭さ」は文化になり得たのか?
くさや(日本・伊豆諸島)
- 起源は江戸時代
- 魚を「くさや汁」と呼ばれる発酵液に漬けて干す
- 独特の発酵臭が広がるが、焼けば旨み倍増
- 島民にとっては「香りが帰ってきた」合図
島外の人が顔をしかめる中で、島民は笑顔で焼き始める──
この対比が「くさや=誇り」の象徴でもある。
臭豆腐(台湾・中国)
- 豆腐を発酵液に漬けて寝かせる
- 揚げる・煮る・炒めるなど調理法多数
- 屋台で揚げたてを頬張るのが現地スタイル
- においは強烈でも、地元の人々にとっては“幼少期の記憶”
「食べ物のにおいは、ふるさとのにおい」──
臭豆腐は、においを通じて“郷愁”に変わる。
■ 文化=臭気の耐性ではない
重要なのは、これらの食品が
- においが強いから価値がある
- 他人には理解されないからこそ、誇りになる
- 「くさくても美味い」ではなく「くさいからこそうまい」への転換
──という価値観を形成している点。
くさい食べ物は、味覚を超えて“アイデンティティ”になる。
第7章:「くさいは、終わりじゃない」──においの先にある、うま味と物語
現代の食文化は、どんどん「無臭化」している。
- デオドラント社会
- 匂いの少ない調理
- 無臭冷蔵庫
- “くさい”を避ける食育
でもその一方で──
- 発酵食品ブーム
- ナチュラル志向の回帰
- 世界各国のローカル食の再発見
- 臭豆腐専門店やシュールストレミングの輸入動画バズ
“くささ”は、いま再び「知的好奇心の対象」として注目されている。
■ におい=生きている証
においがするということは、
- 微生物が働いている証拠であり
- 食材が変化している動的な状態であり
- 単なる保存食ではなく、“進化する味”を持っているということ
そして、
「においがある」=「記憶に残る」
臭いは消えるが、においの記憶は残る。
まとめ:くさい食べ物が教えてくれること

「くさくてイヤ…って思ったその先に、世界の深さがあるブー!」
「においの向こう側で、人と文化が発酵してるんだブー!」
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