冬の朝、目が覚めると喉が焼けるように痛い。唾を飲み込むことすら恐怖に感じるあの不快な感覚。
そんな時、欧米では古くから「喉が痛いなら、マシュマロをいくつか食べなさい」という「おばあちゃんの知恵袋」が語り継がれてきた。
一見すると、「甘いもので気を紛らわせるだけの気休めではないか?」と疑いたくなるこの言い伝え。
しかしその歴史を遡り、現代科学の目でその成分を分析すると、そこには単なる迷信では片付けられない、驚くべき「二重の根拠」が隠されていた。
第一章:現代マシュマロが効く理由──正体は「ゼラチン」の物理的なコーティング
結論から言えば、スーパーやコンビニエンスストアで売られているごく普通のマシュマロでも、喉の痛みを一時的に和らげる効果は期待できる。その秘密はマシュマロの主成分である「ゼラチン」にある。

- ゼラチンが作る「保護膜」
- マシュマロを口に含むと体温でゆっくりと溶け、粘り気のあるどろりとした液状になる。このゼラチン液が炎症を起こして荒れてしまった喉の粘膜を物理的にコーティングしてくれるのだ。
- 痛みを和らげるメカニズム
- このゼラチンが作った薄い膜は、いわば喉の粘膜に貼る「絆創膏」のような役割を果たす。
- この保護膜がクッションとなり、唾液や食べ物、飲み物が炎症部分を通過する際の直接的な刺激や摩擦を軽減する。これにより「飲み込む時の激しい痛み(嚥下痛)」を一時的に緩和してくれるのである。

「ええーっ!?そうだったんだブー!?マシュマロが、喉に、絆創膏を貼ってくれる、みたいなことだったんだブーか!ただ、美味しいだけじゃなかったんだブーね!すごいんだブー!」
第二章:名前の秘密──かつては「本物の薬草」だった、という歴史の真実
しかし話はここで終わらない。なぜ数あるお菓子の中でピンポイントで「マシュマロ」が喉の痛みに効くと語り継がれてきたのか。そのより根源的な答えは、このお菓子の「名前」そのものに隠されていた。

- 「Marsh Mallow」という植物
- マシュマロ(Marshmallow)とは本来、湿地(Marsh)に生えるアオイ科の植物「ウスベニタチアオイ(Althaea officinalis)」の英名である。
- 古代から伝わる「喉の薬」
- 古代エジプトやギリシャ、ローマの時代から、この「マシュマロ・プラント」の根から採れるネバネバとした粘液は、喉の痛みや咳を鎮めるための極めて効果的な薬として重宝されていた。
- 古代エジプトではファラオなど王族や貴族だけが口にすることを許された、高貴な医薬品であったとも伝えられている。
- 言い伝えの本当の起源
- つまり「喉が痛い時にマシュマロ」という言い伝えの大元は、「かつてのオリジナルの“マシュマロ”には、本当に薬効成分のある植物エキスが入っていたから」という歴史的な事実に、基づいていたのである。

「うわーっ!もともとは、本物の『薬』だったんだブーか!しかも、古代エジプトの、ファラオとかが、使ってたなんて…!すごい、歴史ロマンだブー!」
終章:薬局から、お菓子売り場へ──“薬効”を失い、“効能”を残した、奇跡のスイーツ
時代は下り19世紀のフランス。菓子職人たちは抽出に手間のかかる「マシュマロ・プラント」の樹液の代わりに、泡立てた卵白と安価で扱いやすいゼラチンを用いることで、現代のふわふわとした美味しいマシュマロを発明した。
マシュマロ、奇跡の“継承”
- 古代のマシュマロ(薬): 「マシュマロ・プラント」の粘液が持つ、薬理的な「薬効」で、喉を癒した。
- 現代のマシュマロ(菓子): 主成分の「ゼラチン」が、粘膜をコーティングする、物理的な「効能」で、喉を癒す。
こうしてマシュマロは薬としての「薬効成分」を失い、お菓子として生まれ変わった。
しかしその主成分となったゼラチンが、奇しくもオリジナルの薬草が持っていたのと同じ「喉の粘膜を物理的に保護する」という物理的な「効能」だけは、偶然にも受け継ぐことになったのだ。
もちろん現在のマシュマロは医薬品ではない。根本的な治療効果はなく、食べ過ぎれば糖分の過剰摂取にも繋がる。
しかし、どうしても喉が痛くて眠れない夜。
かつて王族の喉を癒した薬草の名を持つその白い甘い塊は、数千年の時を超え、今もなおささやかな優しさであなたの喉を守ってくれるのかもしれない。



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