冥王星はなぜ惑星をクビになった?──太陽系揺るがしたリストラ真相、実はロシア並みの大きさ

科学
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「水金地火木土天海冥(すいきんちかもくどってんかいめい)」。
かつて我々が呪文のように唱えた太陽系の惑星のリズム。その最後の一文字「冥」が教科書から消えてから、早くも20年近い歳月が流れようとしている。

2006年8月、国際天文学連合(IAU)の総会で、冥王星は76年間にわたり君臨し続けた「第9惑星」の座を剥奪され、「準惑星」へと格下げされた。

当時多くの人々がこのニュースに「かわいそう」「仲間外れだ」と同情を寄せた。

しかしこの天文学史上最も有名な“リストラ”劇の裏には、単に「体が小さいから」という理由だけでは語り尽くせない、科学者たちの苦渋の決断と「あまりにも増えすぎた惑星候補者たち」の存在があったのだ。


第一章:衝撃の事実──彼は、惑星というより「ロシア」だった

まず冥王星の名誉のために言っておくと、彼が発見後に縮んだわけではない。1930年にクライド・トンボーによって発見されて以来、彼は変わらずそこにいた。変わったのは我々の観測技術と認識の精度だった。

  • 広大な宇宙にぽつんと浮かぶ“一国家”
    • NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」による最新の計測データによれば、冥王星の直径は約2,370km。これは地球の約5分の1、月の約3分の2しかない。
    • その表面積は約1,770万平方キロメートル。この数字は地球上で最大の国土面積を持つ国「ロシア連邦」の約1,710万平方キロメートルとほぼ同等である。
  • 76年間の“誤解”
    • 「惑星」という壮大な響きから我々は勝手に、木星や土星に匹敵するような巨大な天体を想像していた。しかしその実態は月よりも遥かに小さく、広大な太陽系の辺境に「ロシアがぽつんと丸まって浮いている」程度の存在だったのである。
    • 70年以上にわたりこの小さな天体が太陽系の主要メンバーとして君臨していたこと、それ自体がある種の歴史的な奇跡だったと言えるだろう。
ブクブー
ブクブー

「ええーっ!?冥王星ってロシアと同じくらいの大きさしかないんだブーか!?月よりも小さいなんて…!ずっともっと大きい星だと思ってたんだブー!なんだか騙されてた気分だブー!」

POINT

冥王星の意外な“実力”

  • 直径: 約2,370km(地球の約5分の1、月の約3分の2)
  • 表面積: 約1,770万平方km ≒ ロシア連邦の国土面積(約1,710万平方km)

第二章:運命の2006年──致命的だった「お掃除能力」の欠如

しかしその小さなサイズは降格の決定打ではなかった。2006年8月24日、チェコのプラハで開かれた国際天文学連合(IAU)の総会で採択された新しい「惑星の定義」。そのたった一つの項目が、彼への事実上の死刑宣告となった。

  • 惑星であるための三つの条件
    • その日定められた惑星の定義は以下の三つである。
      1. 太陽の周りを回っていること。(冥王星:合格)
      2. 自らの重力によってほぼ球形をしていること。(冥王星:合格)
      3. その軌道の周辺から他の天体を一掃していること。(冥王星:不合格)
  • 軌道を“独占”する力
    • 地球や木星といった8つの惑星は、その圧倒的な重力によって自らの公転軌道上にある他の小さな天体を吸収したり弾き飛ばしたりして、その軌道をほぼ“独占”している。
    • しかし冥王星は、その軌道が存在する「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる無数の氷の小天体がひしめく領域を、綺麗に“掃除”することができていない。
    • 天文学者たちは冷酷にもこう結論付けたのだ。「自らの軌道さえもクリアにできない者は、もはや惑星とは呼べない」と。

第三章:真犯人の名は「エリス」──惑星インフレの恐怖

なぜ天文学者たちは2006年というタイミングで、これほどまでに厳格なルールを設ける必要があったのか。その直接的な引き金を引いたのは、2005年に発見された一体の新しい天体の存在だった。
その名は「エリス」

  • 冥王星よりも“重い”同期の出現
    • カリフォルニア工科大学のマイケル・ブラウン博士らによって発見されたこのエリスは、大きさこそ冥王星とほぼ同じであったが、その質量は冥王星を約27%も上回ることが判明した。
    • 天文学界はパニックに陥った。「冥王星を惑星と認めるならば、それよりも重いエリスも当然第10惑星としなければならない」。
  • 教科書を守るための苦渋の“線引き”
    • 問題はエリスだけではなかった。観測技術の飛躍的な向上により、今後冥王星やエリスと同程度の大きさを持つ天体が、カイパーベルトから何十個、何百個と見つかる可能性が極めて高まっていた。
    • もし明確な基準を設けなければ、将来の子供たちの教科書は「水金地火木土天海冥…」の後に、延々と100個以上の天体名を羅列しなければならなくなるかもしれない。
    • つまり冥王星は、「際限のない惑星インフレ」を食い止めるための防波堤として、そして太陽系の新たな秩序を作るための“生贄”として、惑星のファミリーから締め出される運命となったのである。
ブクブー
ブクブー

「うわーっ!冥王星より強いライバルが現れちゃったんだブーか!しかもそんなのがこれからどんどん見つかるかもしれないって…。惑星が100個とかになったら、もう覚えられないんだブー!冥王星には悪いけど、しょうがなかったんだブーね。」


終章:辺境の王としての再出発

こうして冥王星は惑星の座を追われ、「準惑星(ドワーフ・プラネット)」という新しいカテゴリーの筆頭となった。
しかしこれを単なる「敗北」や「降格」と捉える必要はないのかもしれない。

彼は「太陽系の出来損ないの末っ子」という不名誉な立場から、「カイパーベルトという未開のフロンティアを支配する王」へと、その役割を変えたのだ。

ロシアほどの面積しかない小さな体で、マイナス220度という極寒の暗闇の中、今も淡々と太陽の周りを回り続ける冥王星。
我々が勝手に貼り付けた「惑星」というラベルが剥がれ落ちても、その氷の表面の下に隠された地下の海や窒素の氷河が放つ神秘的な輝きは、何一つ変わってはいない。

ラベルに惑わされそしてカテゴリー分けに固執するのは、いつだって我々人間の方なのだから。

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