なぜラーメンとアイスの「スーパーカップ」は共存できるのか?──商標法の知られざる仕組み

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「スーパーカップ」と聞いて、
あなたはラーメンを思い浮かべただろうか。
それとも、バニラアイスだろうか。

スーパーマーケットやコンビニエンスストアの棚には、長年にわたり一つの不思議な光景が広がっている。

麺類のコーナーにはエースコックの「スーパーカップ1.5倍」がそのボリュームを誇示し、アイスクリームのケースには明治の「エッセル スーパーカップ」が定番の味として鎮座している。

同じ「スーパーカップ」という名を冠する二つのメガヒット商品。

通常、企業は自社のブランド名という重要な資産を守るため、商標権を盾に他社の類似した名称の使用を決して許さない。

なぜこの両者は同じ名前でありながら、泥沼の訴訟合戦に発展することなく長年にわたり平和的に共存し続けているのだろうか。

その背景には、知的財産管理における「区分」という巧妙な法の壁と、両社のしたたかなブランド戦略が存在した。


第一章:法的根拠──「同じクラス」でも「住所」が違う、商標登録の“魔術”

まず結論から言えば、この二つの「スーパーカップ」の共存は商標法上、何ら問題はない。その鍵を握るのは、商標登録における「指定商品・役務(えきむ)の区分」と、さらにその中を細分化する「類似群コード」という概念である。

  • 同じ「第30類」だがジャンルが全く異なる
    • 商標は、その商品やサービスが属するジャンルによって第1類から第45類までに分類される。興味深いことにカップ麺もアイスクリームも、同じ「第30類(コーヒー、茶、菓子、パン、氷など)」に属している。
    • しかし特許庁は、この第30類の中をさらに細かいグループへと分類している。
      • エースコックの「スーパーカップ」は、主に「中華そばの麺」などが含まれるグループ(類似群コード:30A01)で登録されている。
      • 一方、明治の「エッセル スーパーカップ」は、「アイスクリーム類」などが含まれるグループ(類似群コード:30C01)で登録されている。
  • 商標法の根本精神:「消費者の混同を防ぐ」
    • 商標法の最も根底にある精神は、「商品の出所について消費者が混同することを防ぐ」という点にある。
    • 法的な解釈として「カップラーメンを買おうとした消費者が、間違えてアイスクリームを買ってしまうことは通常あり得ない」と判断される。
    • つまり二つの商品はたとえ同じ「スーパーカップ」という名称を共有していても、その中身と販売される状況があまりにも違うため、消費者が混同する恐れはないと見なされ、それぞれが独立した商標として認められているのだ。
ブクブー
ブクブー

「なるほどだブー!ラーメンとアイスを間違える人はいないから、同じ名前でもセーフだったんだブーね!法律って意外と常識的で面白いんだブー!」

POINT

二つの「スーパーカップ」が共存できる法的な理由

  • 商標法の根本精神: 「商品の出所について消費者が混同するのを防ぐ」こと。
  • 法の判断: カップラーメンとアイスクリームはジャンルが違うため「消費者が混同する恐れはない」
  • 結論: 同じ「第30類」という大きな分類に属してはいるが、さらに細かいグループ(類似群コード)が異なるため、それぞれが独立した商標として認められている。

第二章:言葉の“弱さ”──なぜ「スーパーカップ」は独占できないのか

法的根拠に加え、もう一つ重要な要素がある。それは「スーパーカップ」という言葉そのものが持つ、商標としての「識別力の弱さ」だ。

  • 「識別力(Distinctiveness)」という概念
    • 商標として強力な保護を受けるためには、その名称が他の商品と明確に区別できる「識別力」を持っている必要がある。「ソニー」や「トヨタ」のような完全にユニークな造語は、極めて強い識別力を持つ。
    • しかし「スーパー(凄い、大きい)」「カップ(容器)」といった言葉は、商品の品質や形状を直接的に説明するあまりにも一般的でありふれた単語である。
    • このような記述的な言葉は特定の一社が独占するにはなじまないと判断されやすく、商標としての力が比較的弱いのだ。
  • 明治の巧みな回避策:「エッセル」という冠
    • 実は明治のアイスクリームの正式な商品名は、単なる「スーパーカップ」ではない。「明治 エッセル スーパーカップ」である。
    • カップ麺の「スーパーカップ」(1988年発売)に対し、アイスの「スーパーカップ」(1994年発売)は後発であった。そこで明治は“Excellent(エクセレント=非常に優れた)”“Essential(エッセンシャル=絶対不可欠な)”という二つの英単語を掛け合わせた独自の造語「エッセル」をブランド名の冒頭に冠した。
    • この「エッセル」というユニークな言葉が商標としての強力な識別力を生み出し、先行するエースコックの権利領域との直接的な衝突を巧みに回避しているのである。
ブクブー
ブクブー

「へぇー!『エッセル』ってそういう深い意味があったんだブーか!ただの飾りじゃなくて、法律の問題をクリアするためのすごい発明だったんだブーね!」


第三章:暗黙の“共犯関係”?──ラーメンが「バニラ味」になった日

通常これほど似た名前が市場に存在すれば企業間には緊張が走るものだ。しかしこの二つの企業の間には訴訟どころか、むしろ互いの存在を逆手に取ったかのような驚くべき「遊び心」が見え隠れする。

  • 2018年、エースコックの“確信犯的”な記念商品
    • 2018年、エースコックはスーパーカップ発売30周年を記念し「スーパーカップ1.5倍 バニラ風味のクリーミーシーフード味ラーメン」という衝撃的な商品を発売した。
    • そのパッケージにはソフトクリームのイラストが描かれ、多くの消費者が「これは明治のエッセルスーパーカップとの公式コラボ商品ではないか?」と色めき立った。
  • 公式は「無関係」を貫く
    • しかし驚くべきことに、この商品に明治の監修は一切入っていなかった。
    • 当時のメディア取材に対しエースコック側は、「明治のスーパーカップは意識していない」という趣旨の回答をしている。あくまで「シーフードとバニラの意外な相性」を追求した結果だというのだ。
    • 真相はどうあれ、消費者が勝手に「アイスのスーパーカップ」を連想しSNSなどで話題にしてくれることは計算済みであったはずだ。これは商標権を侵害しないギリギリの範囲で、ライバル(?)のブランドイメージを自社のプロモーションに最大限活用した、極めて高度なブランド戦略の一例と言えるだろう。

終章:名前の共存を許容する、成熟した市場

「スーパーカップ」という二つの巨人の平和的な共存は、日本の消費市場の成熟度を示している。

我々消費者は同じ名前のラーメンとアイスクリームを見てもその出所を混同することなく、それぞれのブランドが持つ独自の価値(「ガッツリ食べたい麺」と「たっぷり食べたいアイス」)を正確に認識している。

「独占」することだけがブランド戦略ではない。
カテゴリーが全く違うのであれば、むしろ同じ名前の巨人が存在した方が、相乗効果で「スーパーカップ=大容量で満足度が高い」という共通のブランドイメージを市場全体で強化できる。

両社の間にはそんな暗黙の、そしてしたたかな合意が存在するのかもしれない。

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