2025年、日本のエンターテインメントシーン、とりわけSNSのタイムラインは一つの甘くて少し風変わりな「愛の告白」に席巻された。
「ルビィちゃん、何が好き?」「チョコミントよりも、あ・な・た♡」
この一度聴いたら耳から離れないフレーズは、TikTokを中心に国境を越え爆発的に拡散。K-POPアイドルから海外のインフルエンサーまでがこぞって模倣する、世界的なミーム(社会現象)となった。
この現象の震源地は『ラブライブ!シリーズ』から突如として生まれた、作品の垣根を越えた「越境ユニット」、AiScReam(アイスクリーム)。
このユニットがいかにして結成され、そしてなぜそのデビュー曲「愛♡スクリ〜ム!」がこれほどの熱狂を生み出したのか。
本稿は、その緻密に計算されたメディア戦略と音楽的構造の全貌を解き明かすレポートである。
第一章:ユニット結成の背景──ラジオが生んだ“奇跡の化学反応”
AiScReamの成功は決して偶然の産物ではない。それは長年蓄積されてきたシリーズの資産を、「ラジオ」という媒体を通じて再構成した高度なメディア戦略の成果であった。

- 「越境」への高まる需要
- 『ラブライブ!シリーズ』は長らく各作品が独立した世界観を維持してきた。しかし2020年代に入りシリーズ合同イベントの開催などを経て、異なるグループのメンバーが交流する「越境(クロスオーバー)」への需要がファンの間で高まっていた。
- 母体となった『オールナイトニッポンGOLD』
- AiScReam結成の直接的な母体となったのは、ニッポン放送のラジオ番組『ラブライブ!シリーズのオールナイトニッポンGOLD』である。
- この番組で特にリスナーから熱狂的な支持を受けたのが、降幡愛(Aqours/黒澤ルビィ役)、大西亜玖璃(虹ヶ咲/上原歩夢役)、大熊和奏(Liella!/若菜四季役)という三人の組み合わせだった。所属グループも世代もキャラクターも全く異なるこの三人が、ラジオというトーク主体の媒体で見せた予期せぬ化学反応こそがユニット化への決定打となったのだ。
第二章:三者三様の“フレーバー”──メンバーの役割分析
AiScReamの魅力の源泉は、全く異なる背景を持つ3人のキャラクター(およびキャスト)が「アイスクリーム」という共通項の下で融合した点にある。

| 担当フレーバー | メンバー名(CV) | キャラクターの役割 |
|---|---|---|
| チョコミント | 黒澤ルビィ(降幡愛) | 可愛さのアンカー。甘さと刺激の二面性を象徴。 |
| ストロベリー | 上原歩夢(大西亜玖璃) | 王道のセンター。純真さとひたむきな愛情を表現。 |
| クッキー&クリーム | 若菜四季(大熊和奏) | クールなスパイス。理知的な外見と熱い内面のギャップ。 |

「なるほどだブー!ルビィちゃんの、とろけるように甘い声から始まって、歩夢ちゃんの、真っ直ぐで可愛い王道の声が真ん中にいて、そして最後に四季ちゃんのちょっとビターでクールな低音ボイスが全体を引き締める…。この三つの味が混ざり合うから何度でも聴きたくなっちゃうんだブーね!まさに最強のフレーバーなんだブー!」
第三章:楽曲分析──なぜ「チョコミントよりも、あなた」はバズったのか
2025年1月22日にリリースされたデビューシングル「愛♡スクリ〜ム!」は、その音楽的な中毒性と歌詞の秀逸さで異例の評価を獲得した。

- 音楽ジャンル:UKガラージとドラムンベース
- この楽曲は典型的なアイドルポップスではなく、UKガラージやドラムンベースといったクラブミュージックの要素を大胆に取り入れている。高速のブレイクビーツと浮遊感のあるシンセサイザーが、アイスクリームの「冷たさ」と恋心の「高揚感」を聴覚的に表現している。
- 歌詞の構造と「チョコミント」の修辞学
- SNSでミーム化した核心部分は、メンバー同士がインタビュー形式で好みを尋ね合う掛け合いのパートである。
- Call: 「ルビィちゃん!(はーい!)何が好き?」
- Response: 「チョコミント よりも あ・な・た」
- このフレーズがなぜこれほどまでに流行したのか。
- 比較による強調: 単に「一番好き」と言うのではなく「特定の好物(しかも賛否両論あるチョコミント)」を超える存在として「あなた」を提示することで、具体的でリアリティのある愛情表現となっている。
- リズムとTikTokとの親和性: 「あ・な・た」と一音ずつ区切って発音するスタッカート唱法は、ショート動画の「指さしダンス」と極めて相性が良かった。
- SNSでミーム化した核心部分は、メンバー同士がインタビュー形式で好みを尋ね合う掛け合いのパートである。
この計算され尽くした音楽的、言語的なフックこそが、国境を越えたバイラルヒットの最大の要因であった。
第四章:SNSからリアルへ──ユニットの活動展開
AiScReamの活動はSNSでのバーチャルな流行を、リアルなライブイベントへと還元することで商業的な成功を決定づけた。

- 2025年9月:1stライブの成功
- パシフィコ横浜で開催された初の主催ライブ「TOPPING LIVE」では、AiScReamを「ベース」とし他シリーズの人気ユニットを「トッピング」として招くという巧みな構成で、シリーズ全体のファンを動員することに成功した。
- メディア展開と社会的評価
- NHK『Venue101』や日本テレビ『年間ミュージックアワード』といった、地上波の音楽番組への出演も果たした。
- そしてこのブームは2025年の世相を反映する『ネット流行語大賞』で銀賞を受賞、『アニメ流行語大賞』では銅賞、そして本家『新語・流行語大賞』でもノミネートされるなど、社会的な現象として広く認知されるに至った。
終章:AiScReamが示した、新たな“可能性”
結論としてAiScReamというユニットは、単なる偶発的なヒットではなかった。
それは、
- 過去のシリーズ作品のキャラクター資産を「越境」させることで新たな価値を生み出し、
- TikTokなど現代のSNS文化に最適化された「音のミーム」を戦略的に設計し、
- そしてラジオという古典的なメディアを新たな物語の「発火点」として再定義した。
という極めて高度なメディア戦略の成功事例であった。
AiScReamは「期間限定」という枠組みを超え、2020年代後半のスクールアイドルコンテンツの新たな可能性を示す、重要なモデルとなったと言えるだろう。



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