「電球メーカーは、買い替え需要を作るためにわざと切れやすく作っている」
まことしやかに囁かれるこの噂は、単なる都市伝説ではない。かつて歴史の裏側で実際に結ばれた「闇の協定」が存在したからだ。
しかし、技術が進歩した現代においても「一生切れない電球」が店頭に並ぶことはない。
それはメーカーの悪意なのか、それとも科学の限界なのか。
本稿は、120年以上光り続ける実在の電球と、現代のLED技術が直面している新たな寿命の壁について、歴史と科学の両面から解き明かすレポートである。
第一章:歴史的真実──世界規模の陰謀「ポイボス・カルテル」
まず、多くの人が抱く「わざと寿命を短くしているのではないか」という疑念について検証する。結論から言えば、それはかつて事実であった。

- 1000時間の呪縛
- 1920年代、ゼネラル・エレクトリック(GE)やフィリップスといった世界の主要電球メーカーが秘密裏に会合を開き、「ポイボス・カルテル」と呼ばれる協定を結んだ。
- 当時の技術ではすでに「2500時間」程度の寿命を持つ電球が製造可能だった。しかし、長持ちしすぎると電球が売れなくなることを恐れた彼らは、意図的に寿命を「1000時間」に制限するよう設計規格を改悪したのである。
- この協定は徹底されており、寿命が1000時間を超える製品を作ったメーカーには罰金が科せられるほどであった。
- 計画的陳腐化の起源
- これは、製品の寿命を意図的に短くして消費サイクルを早める「計画的陳腐化(Planned Obsolescence)」というビジネスモデルの代表的な事例として、経済史に刻まれている。

「ええーっ!わざと壊れやすくしてたなんてひどいブー!100年前からそんな商売をしてたなんて、まさに闇の組織だブー!」
第二章:物理的真実──120年切れない電球の「代償」
では、カルテルがなければ「永久に切れない電球」は作れるのか。
答えはYESである。その証拠がアメリカ・カリフォルニア州のリバモア消防署に実在する。

- 120年光り続ける「百年電球」
- この消防署には、1901年から現在に至るまで、120年以上も一度も切れずに光り続けている「百年電球(Centennial Light)」が吊るされている。
- なぜ切れないのか?
- 理由は極めてシンプルで、「フィラメント(発光部)を極太にし、極めて低い電力で点灯させている」からである。負荷を極限まで減らすことで、断線を防いでいるのだ。
- なぜ普及しないのか?
- ここに物理的なジレンマが存在する。この電球は「極端に暗く、消費電力のほとんどが光ではなく『熱』として捨てられている」のだ。
- 明るく省エネな電球を作ろうとすれば、フィラメントを細くし、高温にする必要がある。そうすれば寿命は短くなる。「切れない電球」は技術的に可能だが、それは「暗くて電気代が高い、実用性のない暖房器具」と同義になってしまうのである。

「なるほどだブー…。切れないけど暗いんじゃ意味がないブー。明るさと寿命はトレードオフ(交換条件)だったんだブーね。」
第三章:現代の真実──LEDはなぜ「10年」で消えるのか
21世紀に入り、白熱電球の約40倍、4万時間(約10年)という長寿命を誇るLED電球が登場した。フィラメントを持たないLEDは、理論上「半永久的」に光ることができる。
それなのに、なぜパッケージには「寿命10年」と書かれているのか。

- 壊れるのは「光」ではなく「回路」
- LEDが点灯しなくなる原因の多くは、発光チップそのものではない。
- 家庭用の100V電流をLED用に変換するための「電子回路(特に電解コンデンサ)」が熱で劣化し、故障することが最大の要因である。
- 新たな寿命の壁
- 現代の技術課題は、「光る部分を長持ちさせること」から、「基盤や回路を熱からどう守るか」へとシフトした。
- LED自体は生きていても、それを動かす心臓部(電源回路)が先に寿命を迎えてしまう。これが現代における「電球切れ」の正体である。
終章:明るさと寿命のトレードオフ
結論として、「絶対に切れない電球」を作ることは可能だが、それを実用的な明るさとコストで販売することは、物理法則と経済合理性の観点から不可能に近い。
かつての「ポイボス・カルテル」のような意図的な寿命短縮は、現代の競争市場では考えにくい。しかし、我々が「より明るく、より安く、よりコンパクトな」電球を求める限り、熱と回路の劣化という物理的な壁が、製品寿命の限界を決定づけ続けるだろう。
120年光り続けるあの薄暗い電球は、我々にこう問いかけているようだ。
「永遠の寿命」と「明るい生活」、あなたはどちらを選びますか、と。


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