動物園やSNSで一度は見かけたことがあるでしょう。小さなレッサーパンダが、両前足を高く上げて相手を威嚇する姿──。
「きゃわ…」
「戦う気あるの?」
「むしろお願いだから戦わないで!」
そんな反応がネット中に溢れるこのポーズ、実は彼らの“本気の防衛手段”なのです。
でも、なぜ威嚇なのにこんなにも愛らしいのでしょうか?
この記事では、その生態学的な理由と人間側の心理的作用を合わせて深掘りしていきます。
なぜ手を上げる?レッサーパンダの防衛戦略
レッサーパンダ(Ailurus fulgens)は、インド北部からヒマラヤにかけて生息する草食性の哺乳類。主に竹などを食べる温厚な性格で、体長は約60cm、体重は3〜6kgほど。実はジャイアントパンダとは分類が異なり、イタチやアライグマに近い動物とされています。
そんな彼らが「手を上げるポーズ」をとる理由は──
自分を大きく見せるため。
捕食者や敵に遭遇したとき、少しでも「おっ、意外とデカいな」と思わせるために、立ち上がって前足を上げて存在感をアピールするわけです。これは猫やクマ、プレーリードッグなどにも見られる「威嚇ポーズの共通項」でもあります。
しかし、それにしても…
なんでこんなに可愛い!?
この疑問は、次の章で解き明かしていきます。
なぜ“威嚇”が“萌え”になるのか
──人間の脳が感じるギャップ萌え理論
さて、レッサーパンダは本気で威嚇しているのに、人間側はなぜ「可愛い」と感じてしまうのでしょう?
ここには、いくつかの心理的トリガーが存在します。
① ギャップ萌え:攻撃性と幼児性のミスマッチ
動物が威嚇するという行動は、本来「危険」を連想させるもの。ですが、レッサーパンダの場合…
- 小さい
- 丸い
- もふもふ
- 両手をあげるポーズが“幼児的”
といった、“ベビースキーマ”(Konrad Lorenz提唱の「可愛いと感じる特徴」)を完璧に満たしているのです。
つまり、「こわい=大きくて牙むいて唸る」の定義に全く届いておらず、「本気で怒ってるのに全然怖くない」という認知ギャップが、愛おしさや笑いを引き起こします。
人間の脳は、ギャップに“萌え”るのです。
② 動きがゆっくり=安心材料
猫の素早い引っかきやヘビの俊敏な動きは「危険な兆候」として認識されますが、レッサーパンダの動きは総じてのっそり。
- 両手をじわっと上げる
- 微妙に後ずさる
- 立ち上がったまましばらく固まる
この“ゆるやか”な動作は、「攻撃」より「防衛」の意志を感じさせ、見る側に緊張感を与えないのです。
③ 擬人化と共感性
二足で立って手を上げるという姿勢は、人間の「降参ポーズ」や「助けて〜」にも似ています。
つまり、擬人化しやすい。
「わっ!やめてー!」とでも言ってるような表情に見えたら最後、
見る人の脳内ではすでに「キャラ化」され、可愛さが爆発します。
レッサーパンダの威嚇は、威嚇のフリをした“無言の愛嬌”
本人たちに悪気はなく、ただただ「こわいよ…」とがんばってるだけなのです。

「怒ってるんじゃないブー…がんばってるんだブー…」
◆ そもそも、なんでそんなにモフモフ?
じつはこの「モフモフ」こそが、レッサーパンダ最大の武器。
ふわふわの厚い被毛は、ヒマラヤや中国・四川省の冷涼地帯でも生きられるように進化した防寒仕様。
でもそれだけじゃない。
威嚇のときに立ち上がると、このモフモフが“体を大きく見せるサイズ感ブースターになる。
さらに、目の横に入った白い模様が“フェイクアイ”効果を発揮し、
あどけない表情をより強調。相手をたじろがせる。
つまりレッサーパンダは、「かわいい」と「生き残る」を両立させたデザインをまとっているわけだ。

「このモフモフ、ただの癒しじゃなかったブー!自然界の最強バリアだったブー!」
威嚇ポーズが“武器”になる
──レッサーパンダが歩んだ人気者への道
レッサーパンダが“可愛い”でバズることはあっても、まさか“威嚇”でここまでフィーチャーされる日が来るとは──
しかしこの「可愛い威嚇」は、SNS時代と抜群の親和性を発揮しました。
動画バズの火付け役:「熊本市動植物園」のスター
日本では、熊本市動植物園のレッサーパンダが「驚いたときに二足で立ち上がる動画」が話題になり、
「かわいすぎる威嚇!」
「もはやポーズがギャグ漫画のリアクション」
と、一躍ネットスターに。
テレビの動物特集、YouTubeショート動画、XやTikTokなどで拡散され、
「レッサーパンダ=あの可愛いポーズするやつ」として、キャラが定着しました。
“弱さ”こそ魅力になる時代
従来の「強さ=魅力」という価値観とは異なり、現代の動物キャラ人気には以下の傾向があります。
- 強がってるのに弱い
- がんばってるけど空回ってる
- ちょっと間抜けだけど一生懸命
このような“弱さの肯定”が、
レッサーパンダの健気で愛らしい威嚇とドンピシャでハマったのです。
もはや「動物界のチワワ」的立ち位置。
小さくて、震えてて、でも懸命に主張している──
そんな存在を人間は無条件で守りたくなる。
今や、グッズやぬいぐるみ、LINEスタンプなどでも「威嚇ポーズレッサー」が展開されるほど。
実際の威嚇は野生動物としての当然の行動ですが、
それを“逆に萌え”として受け取ってしまう人間の心理構造が、人気の背景にあるのです。
まとめ:威嚇は本気。でも、見た目はあまりにも平和。
- 本人たちは命がけ。だけど、どうしても笑っちゃう。
- 脳は本能的に「怖さ」を察知しようとするが、“可愛さ”が完全に上回ってしまう。
- だから私たちは今日もこうつぶやくのです。
「怒ってるのに、かわいい…」

「ほんとは怖がってるだけなんだブー…でも、そこがまたたまらないんだブー!」
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