選挙のたびに掲げられる華々しい公約(マニフェスト)。「税金を下げます」「手当を増やします」といった甘い言葉に期待して一票を投じたものの、当選後にそれが反故にされたとき、有権者が抱くのは「裏切られた」という怒りである。
一般社会において、嘘をついて利益を得れば「詐欺」と呼ばれる。では、政治家が当選という利益を得るために守れない約束をした場合、それは犯罪にはならないのだろうか。
結論から言えば、公約違反は「詐欺罪」には問われない。
本稿は、なぜ政治家の嘘が法的に許容されてしまうのか、そのカラクリと、有権者がとるべき対抗策について解説するレポートである。
第一章:刑法の壁──「一票」は財産ではない
なぜ公約違反で警察は動かないのか。その理由は、刑法が定める「詐欺」の定義にある。

- 刑法第246条(詐欺罪)の要件
- 刑法において詐欺罪が成立するには、「人を欺いて財物を交付させる」ことが条件となる。
- つまり、「嘘をつく(欺罔)」ことによって、相手から「金品や財産(財物)」を奪うという構造が必要不可欠だ。
- 「一票」は金品か?
- 選挙において、政治家が嘘の公約で手に入れるのは有権者の「一票」である。
- しかし、法律上、「投票行動(一票)」は金銭的価値のある財物とはみなされない。
- 当選後に政治家が受け取る歳費(給料)は国や自治体から支払われるものであり、有権者が直接財布から支払ったものではないため、ここでも「有権者から財物を騙し取った」という構成要件は満たされないのである。

「ええーっ!僕たちの一票には、お金と同じ価値はないってことかブー!?『清き一票』なんて言うけど、法律から見たらただの紙切れ扱いだなんてショックだブー…。」
- ルール: 詐欺罪が成立するには、「人を欺いて財物(金品や財産)を交付させる」ことが条件となる。
- 選挙の場合: 政治家が嘘の公約で手に入れるのは、有権者の「一票」である。
- 結論: 法律上、「投票行動(一票)」は金銭的価値のある財物とはみなされない。
第二章:契約の壁──公約は「努力目標」に過ぎない
では、民事上の「契約違反」にはならないのか。
企業が広告通りの商品を提供しなければ問題になるように、政治家も責任を負うべきではないかという議論がある。

- 政治的宣言に過ぎない
- 法的解釈において、選挙公約は有権者個々人との「法的な契約」ではなく、あくまで「政治的な目標(努力目標)の宣言」とみなされる。
- 政治には、経済情勢の変化や災害、他党との交渉など、不確定要素が多すぎるため、「必ず実現する」という法的拘束力を持たせることが困難だからだ。
- そのため、「やろうとしたが、状況が変わってできなかった」という言い訳が、法的には通用してしまう構造になっている。

「『今年はダイエットする!』っていう正月の誓いと同じレベルだったんだブー…。『努力目標』なんて言葉、会社で言ったら怒られるブー!」
第三章:政治家へのペナルティ──リコールと「落選」
法的に罪に問えない以上、嘘をついた政治家は無傷なのか。決してそうではない。法律の代わりに「政治的責任」というペナルティが存在する。

- リコール(解職請求)
- 知事や市町村長などの「首長」、および地方議員に対しては、住民の署名によって「リコール(解職請求)」を行う制度がある。公約違反が目に余る場合、任期途中でもクビにすることが可能だ。
- ※ただし、国会議員にはリコール制度がなく、任期中の解職は極めて困難である。
- 最大の罰は「次の選挙」
- 民主主義において、公約違反に対する最も重い刑罰は、「次回の選挙で落選させること」である。
- 「票を騙し取った」という事実は、政治家としての信用(政治生命)を著しく毀損する。次の選挙で議席を失うことは、政治家にとって死活問題であり、これが一定の抑止力となっている。
終章:見抜く力こそが防波堤
結論として、選挙公約を守らなくても、政治家が手錠をかけられることはない。
「一票は財物ではない」という法律のロジックが、彼らを守っているからだ。
しかし、だからといって有権者が無力なわけではない。
「甘い公約(エサ)」だけで判断せず、「その約束に財源はあるか」「実現可能なプロセスか」、そして何より「その候補者は約束を守る誠実な人間か」を見抜くこと。
法が裁かない以上、その審判を下せるのは、我々有権者の「厳しい目」だけなのである。


コメント