華やかなリングの上で、勝者が勝ち名乗りを受ける。
しかし、その笑顔の裏側で、選手の体は悲鳴を上げていることがほとんどです。
「総合格闘技(MMA)の試合後、選手はどれくらい怪我をしているのか?」
この問いに対する答えを一言で表すならば、「1試合で交通事故に遭ったレベルの衝撃を全身に受けている」と言えます。
統計によると、試合の約60〜70%で何らかの負傷が発生しており、見た目が派手な流血だけでなく、歩行困難になるほどの筋断裂や、脳への深刻なダメージなど、その内容は多岐にわたります。
本稿は、MMAという競技が抱える「怪我のリアル」と、選手の命を守るための「厳格な医療ルール」について解説するレポートです。
第一章:視覚的な衝撃──「顔面」のカットと骨折
試合直後、最も目につくのが顔面の怪我です。MMAはボクシングに比べてグローブが薄く、さらに鋭利な「ヒジ打ち(エルボー)」が認められているため、顔へのダメージは凄惨になりがちです。

- 日常茶飯事の「縫合」
- 試合の約30〜50%で、皮膚の縫合が必要なレベルの切り傷(カット)が発生します。特に眉の上や頬は切れやすく、試合後は控室でドクターが針と糸を持って待機しているのが日常風景です。
- 骨へのダメージ
- 鼻骨骨折はもちろん、パンチの衝撃による「眼窩底(がんかてい)骨折」も頻発します。目が塞がるほど腫れ上がるのは、内部で出血や骨折が起きているサインです。

「ええーっ!試合が終わった瞬間に手術室行きみたいなもんだブー!控室で針と糸が待ってるなんて、想像しただけで痛いブー…。」
第二章:歩行困難と機能不全──「手足」の破壊
顔の傷は治りやすい一方、選手生命を脅かすのが手足の関節や筋肉へのダメージです。

- カーフキックによる「歩行不能」
- 近年多用される、ふくらはぎを狙った「カーフキック」。これを受けると筋肉が断裂し、酷い内出血を起こします。試合中はアドレナリンで立っていても、試合後は自力で歩けず、松葉杖や車椅子で会場を後にする選手が後を絶ちません。
- 靭帯断裂の恐怖
- 関節技(サブミッション)は、降参(タップ)が遅れると即座に重傷に繋がります。膝の靭帯(ACL等)断裂や肘の脱臼は、手術と半年以上のリハビリを要する大怪我となります。
- 殴った方の「拳」も折れる
- MMAのグローブは薄いため、頭部などの硬い部位を全力で殴った際、攻撃側の拳が折れる「ボクサーズフラクチャー」も頻繁に発生します。

「勝った選手も車椅子で帰ることがあるんだブー!?蹴られた足が使い物にならなくなるなんて、まさに交通事故だブー…。」
第三章:見えない時限爆弾──「脳」へのダメージ
最も深刻かつ警戒されているのが、脳震盪(のうしんとう)です。

- ダウン後の追撃
- ボクシングと違い、MMAにはダウン後のカウントアウト(休憩)がありません。倒れた相手に追撃のパウンド(鉄槌)が許されているため、レフェリーが止めるまでの数秒間で、脳へのダメージが蓄積しやすい構造にあります。
- めまい、記憶の混乱、頭痛などは、見た目には分からなくとも深刻な後遺症を残すリスクがあります。
第四章:なぜ彼らは戦えるのか?──「メディカルサスペンション」という守り
これほど過酷な競技であるため、MMAには他のスポーツ以上に厳格な「強制的な休養ルール」が設けられています。それが「メディカルサスペンション(医療的出場停止期間)」です。

- 強制的に試合を禁じる
- 試合後のドクターチェックに基づき、選手には一定期間の試合禁止命令が下されます。
- KO負け・脳震盪: 最低60日〜90日の出場停止。
- 骨折の疑い: 精密検査でクリアになるまで、最長180日(半年)の出場停止。
プロ選手が年に数試合しか行わない(行えない)のは、興行的な理由だけでなく、この「体が壊れるレベルのダメージ」から回復し、脳を守るために必要な措置なのです。
終章:アドレナリンが切れた後
試合直後のマイクパフォーマンスで元気に喋っている選手も、それは極度の興奮状態(アドレナリン)が痛みを麻痺させているに過ぎません。
翌朝には全身が動かないほどの激痛に襲われ、顔は腫れ上がり、数週間は練習すらできない──それが総合格闘家のリアルな日常です。
華やかな勝利の裏には、交通事故並みの衝撃に耐え、長い回復期間を経て再びリングに上がる、超人たちの覚悟が存在しているのです。


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