2025年9月2日、俳優・吉行和子さんが90歳の生涯を閉じました。
亡くなる10日前まで、病室で原稿を綴り、演じることと書くことを最後まで貫いたその姿勢は、
まさに“舞台の上で生ききった女優”の人生でした。
母は、NHK連続テレビ小説『あぐり』のモデルにもなった吉行あぐりさん。
明治生まれの彼女は、日本初期の美容師として、
時代に先駆けて“働く女性”の道を切り拓いた先駆者でした。
そして娘・和子さんは、戦後から平成、令和に至るまで、
舞台・映画・テレビの第一線で活躍し続けた“表現者”。
親子二代にわたり、それぞれの時代を生き抜いた二人の姿は、
日本の女性史そのものを内包する“生きた物語”でもあります。
本特集では、吉行和子さんの生涯と、その母・あぐりさんの軌跡を辿りながら、
「女性が生きること」「表現すること」「働くこと」の意味を問い直します。
これは、ただの追悼ではありません。
時代をまたぎ、“生きる姿”を遺した母と娘に、改めて拍手を贈る記事です。
第1章:和子さん、安らかに──“女優”を貫いた最期の10日間
2025年9月2日。
俳優・吉行和子さんが肺炎のため、都内の病院で亡くなられました。90歳でした。
直前まで、病室でエッセイの原稿を書き続けていたという吉行さん。
2月には映画『あなたの息子ひき出します!』の撮影にも参加し、“女優”として人生のラストまで立ち続けた姿勢に、称賛と驚きが広がりました。
親友・冨士眞奈美さんとの往復書簡が、彼女の“最後の仕事”となったのは、何とも粋な幕引き。

「“最後まで女優、最後まで文筆家”…人生って、ここまで美しく貫けるんだブー…!」
第2章:文学と演劇の申し子──“吉行家”という文化の血脈
吉行和子さんは、まさに“表現の家系”に生まれました。
- 父:吉行エイスケ(作家)
- 兄:吉行淳之介(芥川賞作家)
- 妹:吉行理恵(詩人・芥川賞受賞)
そして自身は俳優として、そしてエッセイストとして、この家系に新たな“舞台の表現”を加えました。
劇団民藝からスタートし、1957年の『アンネの日記』で本格デビュー。
その後、映画『愛の亡霊』(大島渚監督)での体当たりの演技は世界的にも話題に。
晩年も山田洋次監督作品『東京家族』『家族はつらいよ』などで、母親役・祖母役を内面からにじむ存在感で演じ切りました。
第3章:「金八先生」の保護者、「ごちそうさん」の祖母──“昭和と平成の母”を演じた人
テレビドラマでは、『3年B組金八先生』での保護者役、
NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』では主人公の祖母役として出演。
特に朝ドラでは、その温かさと厳しさを併せ持つ演技が、多くの視聴者の記憶に残りました。
彼女の演じる“おばあちゃん像”には、
“時代の変化を知っている”人だけが持つ、優しさと達観がありました。
役として“年齢を重ねた人物”を演じるのではなく、
“生きてきた時間ごと演じている”──それが吉行和子の演技だった。
第4章:母・吉行あぐり──“働く女性の原点”を生きた人
吉行和子さんの母・あぐりさんは、明治生まれの美容師。
作家・吉行エイスケと結婚後、美容師として独立し、戦後は未亡人女性に美容技術を教えるなど、女性の自立を支えた先駆者でした。
98歳まで現役で美容師を続けた生き方は、
1997年のNHK連続テレビ小説『あぐり』のモデルにもなりました。
- 時代:明治 → 大正 → 昭和 → 平成
- モデルとなった人物(吉行あぐりさん)の“実の娘”である吉行和子さんが、そのモデルをもとにした朝ドラ『あぐり』に“別役(客役)”で出演していたという事実
この出演は、物語の主軸とは直接関係ない「美容院の客」というワンシーンではありますが、
母の半生を描いた作品に娘が“客”として出演するというのは、
別の意味で感慨深い「静かなカメオ出演」とも言えるでしょう。

「“母の人生を描いた朝ドラに、娘がさりげなく出演してた”って…これはまさに、人生というドラマのカメオ出演だブー…!」
第5章:「あぐり」と「和子」──母娘が交差した日本の女性史
あぐりさんが美容師として生きた時代は、女性が表に出て働くこと自体が少数派だった時代。
戦争、戦後の混乱、女性の社会的役割の変遷…。
その娘である和子さんが、舞台・映画・ドラマで活躍したのは、高度経済成長と共に女性の自己表現が広がっていく時代。
2人はまさに、“異なる時代の女性たちの肖像”を体現していました。
- 母・あぐり:職業人として、生活者として、戦う女性
- 娘・和子:芸術家として、表現者として、魅せる女性
この母娘の軌跡は、まさに「働く女性の日本史」でもありました。
第6章:表現者として、書き手として──「晩年」すら舞台だった
吉行和子さんは、エッセイストとしても高く評価されていました。
『どこまで演れば気がすむの』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。
その筆致は、繊細で、ユーモラスで、芯のある語り口。
最後の最後まで“原稿”を書き、
“映画”を撮り、
“友と語らう”。
そのすべてが舞台であり、作品だった。
まるで彼女の人生自体が、一本の脚本に従っているような、見事な終幕でした。
終章:母が切り拓き、娘が照らした“女性の生き方”という道標
吉行あぐりさんは、女性が外で働くことの意義を世に示した。
吉行和子さんは、女性が表現者として生きる姿を体現した。
二人の人生は、時代を超えて交差し、
いま、“静かな大団円”を迎えたように思えます。
吉行和子さん、90年のご生涯、
本当にお疲れさまでした。
そして、ありがとうございました。



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