新聞の端はなぜ「ギザギザ」なのか?──時速50キロの暴走を制し、めくりやすさを生む物理学

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朝、ポストに届いた新聞を広げる。
そのページの上部や下部の断面を指でなぞってみると、ハサミやカッターで切り落としたような真っ直ぐな直線ではなく、ノコギリの刃のように不規則に「ギザギザ」していることに気づくはずだ。

なぜ、日本の新聞はきれいに裁断されていないのか。

一見すると製造工程の手抜きや、単なる紙の仕様のように思えるこのギザギザ。しかし、その正体はデザインでも偶然でもない。

これは、昨晩起きた最新のニュースを今朝の食卓へ一刻も早く届けるための「極限のスピード」と、読者の「利便性」を両立させるために編み出された、極めて合理的な技術の結晶である。

本稿は、新聞の断面に隠された「切断のメカニズム」を解き明かすレポートである。


第一章:時速50キロの紙を「切る」という難題

ギザギザの理由を知るためには、まず新聞が工場でどのように印刷されているかを知る必要がある。

  • 巨大なトイレットペーパー
    • 新聞は最初から1枚ずつ分かれているわけではない。重さが1トン近くもある「巻取紙(まきとりがみ)」と呼ばれる巨大なロール紙に印刷される。
  • 「輪転機」の圧倒的スピード
    • このロール紙は、ビル数階分の高さがある「輪転機(りんてんき)」という巨大な機械を通って印刷される。その際、紙が機械の中を流れるスピードは、なんと時速40キロから50キロ。原付バイクが走るのと同じ猛スピードで、インクが乗った紙が次々と送り出されているのだ。
ブクブー
ブクブー

「ええーっ!原付バイクと同じスピードで紙が飛んでるんだブー!?そんな一瞬で綺麗に切るなんて、神業だブー!」


第二章:「直線」では紙が破れる──ギザギザ刃の物理学

この猛スピードで暴走する紙を、最終的に私たちが手にする「1枚の新聞のサイズ」に切り離さなければならない。ここに最大の技術的ハードルが存在する。

  • 直線のカッターが抱える欠点
    • もし、普通のカッターのような「真っ直ぐな刃」を時速50キロで流れる紙に当てたらどうなるか。紙がツルンと滑ってしまい上手く切れないばかりか、無理に力をかければ抵抗が大きくなり、紙がクシャクシャに破れ、機械の中で大惨事(紙詰まり)を引き起こしてしまう
  • 「ノコギリの刃」による瞬間切断
    • そこで採用されたのが、ノコギリのようにギザギザになった刃(のこ刃)である。
      ギザギザの刃を紙に押し当てると、尖った部分が瞬時に紙にグサッと食い込む。これにより、紙が滑るのを防ぎ、抵抗を最小限に抑えながら、猛スピードの紙を一瞬で確実に切り分けることができるのだ。
      つまり、あのギザギザは「超高速で紙を裁断した証(刃の跡)」なのである。
ブクブー
ブクブー

「なるほどだブー!真っ直ぐな刃だとツルッと滑っちゃうから、剣山みたいに突き刺して無理やり引きちぎってたんだブーね!」


第三章:偶然が生んだ「究極のユーザビリティ」

印刷効率を極限まで高めるために採用されたギザギザの断面だが、実はこれが、新聞を受け取った読者に対しても思わぬメリット(副産物)をもたらしている。

  • ページが密着しない
    • 紙の断面が真っ直ぐに切り揃えられていると、薄い新聞紙同士がピタッと密着してしまい、ページをめくるのが非常に困難になる。本や雑誌のページが乾燥した指でめくりにくいのと同じ原理だ。
  • 指に引っかかる「めくりやすさ」
    • しかし、端がギザギザになっていることで、紙の間にわずかな隙間と摩擦のムラが生まれる。この不規則な断面が適度に指に引っかかるため、「滑りやすい薄い紙でも、サクサクと快適にページをめくることができる」という、見事なユーザビリティ(使い勝手)を実現しているのである。

終章:情報伝達のスピードを支える“アナログの知恵”

結論として、新聞の端がギザギザしているのは、「最新のニュースを時速50キロで印刷するための物理的解決策」であり、同時に「読者がページをスムーズにめくるための機能美」であった。

スマートフォンを開けば、音もなく一瞬でニュースが更新される現代。
しかし、紙という物理的なメディアで毎日数百万部という情報を届ける裏側には、カッターの刃の形状ひとつにまで及ぶ、先人たちの泥臭くも精緻な「アナログの知恵」が詰まっている。

明日、新聞を手にした時。
その不揃いな断面の感触に、夜を徹して巨大な輪転機を回し続けた印刷工場の熱気とスピードを感じ取ってみてはいかがだろうか。

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