オリンピックなどの国際大会で卓球の中継を見ていると、現在の卓球台は鮮やかな「青色(ブルー)」であることに気づく。
しかし、昭和から平成初期にかけて青春時代を過ごした世代にとって、学校や公民館に置かれていた卓球台といえば、間違いなく「濃い緑色」だったはずだ。
なぜ、いつの間にか卓球台の色は変わってしまったのか。
実はその背景には、テレビ中継における「見やすさ」という科学的な理由と、日本中を巻き込んだ「ある大物タレントの発言」、そして卓球のイメージを根底から変えようとした日本メーカーの執念が存在していた。
本稿は、緑から青へのカラーチェンジに隠された、卓球界の知られざる歴史と改革の軌跡を解き明かすレポートである。
第一章:そもそも、なぜ昔は「緑」だったのか?
卓球台の青色化について語る前に、なぜ元々「緑色」だったのかを確認しておく必要がある。

- 「室内テニス」のルーツ
- 卓球は、19世紀のイギリスにおいて「テニスを室内で手軽に楽しもう」として誕生したスポーツである。そのため、テニスコートの「芝生」の色をイメージして、卓球台も緑色に塗られたという説が有力である。
- ルールの誤訳説
- さらに興味深いのは、当時の国際ルールには卓球台の色について「dark colour(濃い色)」と指定されていたことだ。これを日本の関係者が「暗い色」と直訳(あるいは拡大解釈)し、黒板のような極めて濃く暗い緑色が定着してしまったという歴史的背景も指摘されている。
第二章:「卓球=根暗」発言の衝撃と、改革の加速
この「暗い緑色」は、やがて競技そのもののイメージに影を落とすことになる。その象徴的な出来事が、あの大物タレントによる発言であった。

- 1988年『笑っていいとも!』事件
- 国民的番組『笑っていいとも!』のコーナー「テレフォンショッキング」にて、ゲストの織田哲郎が学生時代に卓球部だったと語った際、司会のタモリが「卓球って根暗(ネクラ)だよね」と返した。
- 当時のテレビの影響力は絶大であり、この発言を機に「卓球=暗いスポーツ」というイメージが社会に定着。翌年には卓球部員の数が激減するほどの打撃を与えたと言われている。
- タモリが青くしたのか?
- このエピソードから、「タモリの発言に危機感を抱いた日本卓球株式会社(ニッタク)の沼田一十三氏が、台を青に変更した」という都市伝説が広く語り継がれている。
- しかし、歴史的事実としては「半分正解で、半分誤り」である。卓球界のイメージ刷新プロジェクト自体は1980年代半ばから既にスタートしており、1987年には青い台が試験的に披露されていた。
- つまり、「タモリが原因で青くなった」のではなく、「タモリの発言が決定打となり、青色化という改革のスピードが一気に加速した」というのが正確な史実である。

「ええっ!タモリさんのあの一言が、卓球界全体を動かしてルールまで変えちゃったんだブー!?テレビの影響力恐るべしだブー!」
第三章:なぜ「青色」が選ばれたのか?──科学的・機能的理由
イメージ刷新という目的以外にも、「青色」が選ばれたのには極めて合理的かつ科学的な理由があった。

- テレビ中継での「コントラスト(視認性)」
- これが最大の理由である。卓球のボールは白やオレンジ色をしており、当時のブラウン管テレビでは、暗い緑色の台の上を高速で動くボールを捉えるのが難しかった。
- そこで、白やオレンジの「補色(反対色)」に近い青色を採用することで、ボールの輪郭がくっきりと浮かび上がり、視聴者も選手も圧倒的にボールを追いやすくなったのである。
- 照明反射の抑制と「映え」
- 現在の青い卓球台には、アリーナの強い照明の反射を抑える特殊な塗料が使われている。これにより、選手のプレーしやすさが向上するとともに、赤い床マットとの組み合わせによって、テレビ画面越しに「クールで洗練されたスポーツ」としての“写真映え・テレビ映え”を生み出すことに成功した。

「なるほどだブー!緑色だとボールが保護色みたいになっちゃうから、青色の方が見やすいんだブーね!機能的にも大正解だったんだブー!」
終章:日本の熱意が作った「世界標準」
結論として、卓球台が緑から青へ変わったのは、「テレビ時代の視認性向上」という科学的要請と、「根暗というレッテルを覆したい」という日本卓球界の熱意が融合した結果であった。
この「青い卓球台」は、日本のメーカーが世界に提案し、1991年の世界選手権(千葉)や1992年のバルセロナオリンピックで採用されたことで、現在のグローバルスタンダード(世界標準)となった。
ルール上は今でも緑色の台を使うことは可能だが、国際大会ではほぼ100%青色が使用されている。
「根暗」という屈辱的な言葉をバネにし、自らの手で競技の風景を鮮やかに塗り替えた卓球界。
次にオリンピックの熱戦を見る時は、選手たちの超絶ラリーだけでなく、彼らのプレーを引き立てている「あの美しいブルー」に込められた、日本の技術と意地に少しだけ思いを馳せてみてはいかがだろうか。


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