「Get up, Get up, Get up, Get up, Burning love」
力強いリズムとともに歌い上げられる、中森明菜の代表曲『DESIRE -情熱-』。1986年のレコード大賞を受賞したこの名曲には、日本中の誰もが知る“あるお約束”が存在する。
曲の合間、明菜が「なーんてね」と歌い終えた直後に湧き上がる、「はー、どっこい!」という掛け声だ。
洗練された都会的なポップスに、なぜ盆踊りのような泥臭い掛け声が定着したのか。
当然これは、レコードには一切収録されていない、ファンが後から勝手に付け足したもの(非公式の合いの手)であった。
本稿は、この奇妙なミスマッチがいかにして生まれ、そして歌姫本人に「公認」されるに至ったのか、その歴史的背景を解き明かすレポートである。
第一章:視覚と聴覚が引き起こした「和」の錯覚
なぜファンは、数ある掛け声の中から「はー、どっこい!」という和風のフレーズを選んだのか。そこには、明菜自身がプロデュースした「斬新なビジュアルとサウンド」が深く関係している。

- 着物アレンジという視覚的インパクト
- この曲を歌う際、明菜は「ボブのウィッグ」に「着物を洋風にアレンジした衣装」という、当時としては極めて前衛的(アバンギャルド)なスタイルで登場した。
- この「着物」という視覚的要素が、日本人のDNAに深く根付く「お祭り(盆踊り)」のイメージを無意識に呼び起こしたのだ。
- お囃子(おはやし)のようなリズム
- さらに『DESIRE』は、それまでの歌謡曲に比べてお腹に響く重低音と、力強いビートが強調されていた。
- サビ前の「なーんてね」の後に訪れる絶妙な“間(ブレイク)”とリズムが、日本の伝統的なお囃子のテンポと見事に合致し、ファンの間で自然発生的に「はー、どっこい!」という言葉が嵌まり込んでしまったのである。

「ええーっ!あの着物風の衣装のせいで、みんなの頭の中が『お祭りモード』になっちゃったんだブー!?視覚のパワーってすごいブー!」
第二章:「モノマネ」による全国への拡散
ライブ会場などで局地的に生まれたこの遊び心が、日本全国のお茶の間やカラオケボックスにまで浸透したのには、1990年代のテレビ文化が影響している。

- モノマネ番組による定着
- 有力な説の一つとして、当時絶大な人気を誇っていた『モノマネ王座決定戦』などの番組で、モノマネタレントが、明菜の真似をする際にこの掛け声をデフォルメして取り入れたことが挙げられる。
- テレビを通じてこの「合いの手」の面白さが全国に拡散し、「カラオケで『DESIRE』を歌う時は『はー、どっこい!』と言うものだ」という共通認識(ミーム)が完成したのである。

「モノマネ番組の影響だったんだブーね!昔のテレビの影響力はハンパないブー!」
第三章:1995年、ついに「公式」となる
本来であれば、アーティストの世界観を壊しかねないこのノイズを、本人はどう思っていたのか。
その答えは、1995年11月に放送されたNHKの音楽番組『POP JAM』で明確に示された。

- 森口博子による引き出しと「公認」
- 司会の森口博子が「中森明菜さんの『DESIRE』といえば…」と話を振り、なんと明菜自身がアカペラで「なーんてね」と歌い、観客が「はー、どっこい!」と大合唱するという歴史的瞬間が放送された。
- 明菜はこのノリに大喜びし、「カラオケとか行ってもみんなやってくれると嬉しい。自分が歌ってない時でも一緒に言ったりする」と笑顔で語った。
- さらに別番組でも「私が唄う限り、ずっとかけ声はかけ続けてほしい」と発言。ここで完全に、「ファンが作った悪ふざけ」が「歌姫公認の演出」へと昇華したのである。
終章:ミスマッチが生んだ永遠の輝き
結論として、『DESIRE』における「はー、どっこい!」は、「明菜の和洋折衷なパフォーマンス」と「90年代のテレビ文化」、そして「ファンの遊び心」が奇跡的なバランスで融合した産物であった。
孤高で近寄りがたいイメージのあった歌姫が、泥臭い掛け声によって観客と一体化する。そのギャップこそが、この曲を単なるヒット曲から「誰もが参加できる国民的エンターテインメント」へと押し上げた最大の要因である。
「はー、どっこい!」
この掛け声が響き続ける限り、中森明菜というアーティストの情熱(DESIRE)は、色褪せることなく日本の音楽史に刻まれ続けるだろう。


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