チュッパチャプスのロゴを描いたのはダリ?──世界的画家が菓子に残した、意外な“大衆的名作”

芸術
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ぐにゃりと溶けた時計が並ぶ『記憶の固執』や、燃えるような脚を持つ象。 スペイン出身のサルバドール・ダリは、現実と夢の境界を壊すような作品で知られる、20世紀を代表するシュルレアリスムの巨匠である。彼の作品は世界中の美術館に収蔵され、オークションでは超高額で取引されている。

しかし、そんな世界的画家が残した“作品”の一つを、私たちはコンビニやスーパーで、わずか数十円で気軽に手に取ることができることをご存知だろうか。

棒付きキャンディー「チュッパチャプス(Chupa Chups)」。 その包装紙の頭頂部に描かれている、黄色いデイジー(ヒナギク)をかたどった枠と、その中央に収められた赤い文字。あの原形をデザインしたのが、ほかならぬダリなのである。

なぜ、狂気と紙一重の奇才と呼ばれた前衛芸術家が、子ども向けのキャンディーのロゴを描いたのか。

本稿は、チュッパチャプスの誕生秘話と、ダリが仕掛けた極めて論理的な「商業デザインの魔法」を解き明かすレポートである。


第一章:キャンディーを「フォークで食べる」という発明

チュッパチャプスのロゴの秘密を語る前に、この商品自体がいかに画期的な発明であったかを整理しておく。

  • 手を汚さない革命
    • 1958年のスペイン。菓子職人であり実業家のエンリク・ベルナトは、子どもたちがキャンディーを口から出し入れし、ベタベタになった手で服を汚してしまう光景に頭を悩ませていた。 そこで彼が考案したのが、「丸いキャンディーに棒を付ける」という極めてシンプルな解決策だった。 現在のブランド運営会社(Perfetti Van Melle)が「キャンディーをフォークで食べるようなもの」と表現する通り、これは単なる新しいお菓子ではなく、子どもと親の「不便さ」を解決したイノベーションであった。

第二章:ダリへの依頼と、1時間で生まれたロゴ

1960年代後半、スペイン国内で成功を収めたチュッパチャプス(※当時はGOLなどの別名を経て現在の名前に定着)を世界へ輸出するため、ベルナトは「言葉や文化を超えて認識される強力なロゴ」を求めていた。 そこで彼が頼ったのが、同郷のスペイン人であり世界的スター画家となっていたダリであった。

  • 昼食時のスケッチ
    • 1969年、ベルナトと一緒に昼食をとっていたダリは、その場で新聞紙の端にスケッチを描き始め、1時間もかからずにロゴの原案を完成させたと言われている。
  • 計算された配色
    • 黄色い背景に赤い文字。明るく子どもに親しみやすいうえ、結果としてスペイン国旗にも通じる鮮烈なカラーリングとなった。
ブクブー
ブクブー

「ええっ!ダリ先生、ご飯食べてるついでにサクッと1時間でデザインしちゃったんだブー!?天才の仕事は早すぎるブー!」


第三章:ダリの真の功績──「描く場所」の指定

しかし、ダリの真の天才性は、ロゴの「デザイン(絵)」そのものよりも、それを「どこに配置するか」を指定した点にある。

  • 側面に印刷してはいけない
    • ダリは、ロゴを包装紙の「側面」ではなく、キャンディーの「頭頂部(てっぺん)」に配置するよう強く提案したとされる。 丸いキャンディーの側面にロゴを配置すると、包装紙のシワやねじれによって文字が歪み、読み取れなくなってしまう。
  • 立体としてのブランド設計
    • 頭頂部であれば、花形の輪郭と文字が崩れることなく一体として見える。さらに、店頭の専用ツリー(陳列什器)に立てて並べた際、上から見下ろす子どもや客の視線に、ロゴが真っ直ぐ飛び込んでくるのだ。 ダリは平面のキャンバスではなく、消費者の手に渡るまでの「立体的な商品設計」としてデザインを行っていたのである。
ブクブー
ブクブー

「なるほどだブー!ただ絵を描いただけじゃなくて、『一番目立つ場所に置け』って指示まで出してたんだブーね。完全なプロデューサーだブー!」


第四章:商業美術を愛したシュルレアリスト

「偉大な画家がなぜお菓子のロゴを?」と不思議に思うかもしれないが、ダリは純粋芸術(ファインアート)の世界に閉じこもるタイプの芸術家ではなかった。

広告、雑誌、舞台美術、さらには自身の奇抜なキャラクターまで、彼は大衆の目に触れるあらゆるメディアを「作品」として利用した。 誰もが手にする日用品のパッケージに自分のデザインを忍び込ませ、世界中にバラ撒くという行為は、人々の日常に非日常(アート)を侵入させる、極めてシュルレアリストらしい仕事であったと言える。

(※なお、現在使用されているロゴは、ダリの原案をベースに1988年頃にフォントなどに微調整が加えられたものであり、「ダリが描いたままの姿」ではない。しかし、黄色の花形に赤い文字という核となる骨格は完全に守り継がれている)


終章:世界で最も消費される名作

現在、チュッパチャプスは世界160カ国以上で販売されている。 言葉の通じない異国であっても、あの「黄色い花形のロゴ」を見れば、誰もがそれがチュッパチャプスだと認識できる。

美術館に行かなければ見られない絵画とは違い、ダリが残したこの作品は、世界中のスーパーやコンビニのレジ横に並んでいる。 数十円で買われ、舐め終われば包装紙はゴミ箱へ捨てられる。しかし翌日にはまた、世界中の工場で数百万個の「黄色い花」が印刷され、出荷されていく。

チュッパチャプスのロゴは、一人の天才画家が残した、世界で最も広く複製され、消費されてきた作品の一つであり、半世紀以上も愛され続ける“大衆的名作”なのである。

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