焼肉の発祥は韓国って本当?──「肉を焼く」普遍性と日本の“焼肉”が独自進化した、歴史の真実

教養
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ジュージューと網の上で音を立てる肉、甘辛いタレの香り、そして白いご飯。
日本の国民食としてすっかり定着している「焼肉」だが、そのルーツについて「韓国発祥だ」と思い込んでいる人は少なくない。

しかし、この認識には「料理の起源」と「外食スタイル(料理名)の起源」を混同しているという大きな落とし穴が存在する。

結論から言えば、「肉を焼く文化」は人類共通のものであり、現在我々が親しんでいる「網で薄切り肉を焼き、タレにつけて食べる」スタイルは、戦後の日本で独自に進化し完成したものである。

本稿は、なぜ日本で「焼肉=韓国」というイメージが定着したのか、その背景にある在日コリアンの歴史と、日本独自の「焼肉文化」の誕生秘話を解き明かすレポートである。


第一章:「肉を焼く」という人類共通の行為

冷静に考えれば、「火で肉を焼いて食べる」という行為自体は、人類が火を使い始めた太古の昔から世界中で行われてきた。

  • 世界中の“焼肉”
    • アメリカの「バーベキュー」、アルゼンチンの「アサード」、ブラジルの「シュラスコ」、中東の「ケバブ」、モンゴルの炭火焼きなど、肉を直火で焼く料理はどの国にも存在する。
      したがって、「焼いた肉」そのものを特定の国(韓国など)が発明したわけではない。
  • 朝鮮半島におけるルーツ
    • 一方で、韓国・朝鮮半島には古くから「肉をタレに漬け込んで焼く」独自の食肉文化が存在していた。約1700年前の高句麗時代に食べられていた「貊炙(メクチョク)」という料理が、現代の「プルコギ(漬け込み肉の焼き物)」などの原型になったとされている。

第二章:戦後日本の闇市で生まれた「ホルモン焼き」

日本の「焼肉」という独自のスタイルが誕生したのは、明治の肉食解禁からずっと後、第二次世界大戦後の混乱期であった。

  • 「放るもん」から始まった屋台
    • 終戦直後の食糧難の時代、日本では牛や豚の内臓は「捨てるもの(放るもん)」として肥料などにされていた。この内臓肉を在日コリアンの人々が安く譲り受け、直火で焼いて屋台で提供し始めたのが「ホルモン焼き」である。
  • 「焼肉店」の誕生
    • 安くて栄養価の高いホルモン焼きは労働者たちの胃袋を掴み、大人気となった。やがて屋台は店舗を構えるようになり、内臓だけでなくロースやカルビ(あばら肉)などの精肉もメニューに加わるようになる。1946年頃にオープンした「明月館」(東京)や「食道園」(大阪)が、日本初の焼肉店の先駆けと言われている。
ブクブー
ブクブー

「ええっ!捨てるはずだったお肉を美味しく焼いて売ったのが始まりだったんだブー!?ピンチをチャンスに変える逞しい商売だブー!」


第三章:なぜ「韓国」のイメージが強いのか?

では、なぜ日本の焼肉は「韓国料理」のイメージと結びついているのか。それは、この産業を牽引した人々と、時代背景によるものである。

  • 在日コリアンによるルーツと名称の変遷
    • 焼肉店の基礎を築いたのは在日コリアンの人々であり、当初これらの店は「朝鮮料理屋」と呼ばれていた。しかし、朝鮮戦争の勃発(1950年)などにより、南側にルーツを持つ人々は「韓国料理屋」、北側にルーツを持つ人々はプルコギなどを日本語訳して「焼肉屋」と名乗るようになったという説がある。
  • 韓国語メニューの定着
    • 「カルビ(あばら)」「ナムル」「キムチ」「クッパ」など、現在も日本の焼肉店で使われるメニューの多くは韓国語由来である。こうした言葉の定着が「焼肉=韓国」というイメージを強固なものにした。
  • 2002年ワールドカップの影響
    • さらに、2002年の日韓共催ワールドカップの際、メディアが韓国文化を紹介する中で「焼肉」を大きく取り上げたことで、このイメージが全国的に決定づけられたとも指摘されている。
ブクブー
ブクブー

「お店の名前やメニューが韓国語だから、自然と『韓国の料理なんだ』って思い込んでたんだブーね!」


第四章:日本と韓国、それぞれの「独自進化」

現在、日本の「焼肉」と韓国の「焼肉」は、似て非なるものへと別々に進化を遂げている。

  • 日本のスタイル(後づけタレと網焼き)
    • 日本の焼肉の最大の特徴は、「味のついていない(または軽く下味をつけた)薄切り肉を客自身が網で焼き、焼いた後にタレをつけて食べる」点にある。この「後づけタレ」のスタイルは、1968年にエバラ食品から『焼肉のたれ』が発売されたことで家庭にも一気に浸透した。また、霜降り肉の重視や、無煙ロースターの普及も日本独自の発展である。
  • 韓国のスタイル(漬け込みと豚肉)
    • 一方、韓国の焼肉は「プルコギ」のように事前にタレに漬け込んでから鉄板で焼くスタイルや、「サムギョプサル」のように豚肉をメインとし、サンチュなどの葉野菜で包んで、大量のパンチャン(おかず)と共に食べるスタイルが主流である。

終章:ハイブリッドな食文化の結晶

結論として、私たちが「焼肉」と呼んでいる料理は、朝鮮半島の豊かな肉食文化と味付け(DNA)をルーツに持ちながら、戦後の日本という環境の中で、日本人の味覚や技術(無煙ロースターなど)に合わせて独自に進化・洗練された「ハイブリッドな食文化」である。

「どちらが発祥か」と白黒をつけるのではなく、国境を越えた人々の知恵と逞しさが、この極上のエンターテインメント食を完成させたという歴史的背景にこそ、焼肉の本当の味わいがあると言えるだろう。

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