持久走やマラソン、あるいはシャトルラン。息を切らして走っていると、突然、肋骨の下あたりに鋭い痛みが走る。
呼吸するたびにズキッと響き、脚にはまだ余力があるのに、その痛みに耐えきれずに歩いてしまった経験がある人も多いだろう。
この厄介な現象は一般に「差し込み」と呼ばれ、スポーツ科学では「運動関連一過性腹痛(ETAP)」という正式名称が付けられている。
昔から「ご飯を食べてすぐ走るからだ」「息継ぎが下手だからだ」などと言われてきたが、あの激痛の正体は一体何なのか。内臓に穴でも開いてしまったのだろうか。
本稿は、ランナーを突如襲う脇腹の痛みのメカニズムと、なぜシャトルランで起こりやすいと感じるのかを解き明かすレポートである。
第一章:「横隔膜の酸欠」か、「腹膜の刺激」か
意外かもしれないが、この多くの人が経験する痛みのメカニズムは、現代医学においても「完全な解明」には至っていない。複数の仮説があり、特に次の2説がよく知られている。

- 横隔膜の酸欠・痙攣説
- 走るという行為は、脚の筋肉に大量の血液を要求する。同時に激しい呼吸を行うため、呼吸をつかさどる筋肉である「横隔膜」も酷使される。
その結果、横隔膜への血流や酸素が不足し、痙攣に似た状態が痛みを引き起こすという説だ。ただし、呼吸への負担が比較的小さい乗馬などでも同様の痛みが起こるため、この説だけでは説明できないと考えられている。
- 走るという行為は、脚の筋肉に大量の血液を要求する。同時に激しい呼吸を行うため、呼吸をつかさどる筋肉である「横隔膜」も酷使される。
- 腹膜(ふくまく)の刺激説
- 現在、より有力とされているのがこちらだ。腹部の内側や内臓は「腹膜」という薄い膜で覆われている。走るたびに胃や肝臓などが上下に揺れ、同時に呼吸で横隔膜も上下する。
この2つの動きが重なることで、腹膜や内臓を支える組織が引っ張られたり刺激されたりして、鋭い痛みが生じるという説である。右側が痛くなりやすい理由については、右側に大きくて重い臓器「肝臓」があることが関係するという見方もあるが、確定した説明ではない。
- 現在、より有力とされているのがこちらだ。腹部の内側や内臓は「腹膜」という薄い膜で覆われている。走るたびに胃や肝臓などが上下に揺れ、同時に呼吸で横隔膜も上下する。

「ええーっ!あんなにみんな痛がってるのに、お医者さんでもハッキリとした原因がわかってないんだブー!?人体の不思議だブー!」
第二章:「食後に走ると痛い」は迷信ではなかった
体育の先生によく言われた「昼休みのご飯直後に走るな」という注意。食後や大量の飲食後に差し込みが起こりやすいことから、一定の合理性があるアドバイスだった。

- 「膨らんだ胃」が刺激を強める
- 食事や大量の水分を摂った直後は、胃が大きく膨らんでいる。この「重くて大きい袋(胃)」を抱えたまま走れば、腹部の中での揺れも大きくなりやすい。
周囲の腹膜や内臓を支える組織にかかる力が増えるため、差し込みが起こりやすくなると考えられている。
- 食事や大量の水分を摂った直後は、胃が大きく膨らんでいる。この「重くて大きい袋(胃)」を抱えたまま走れば、腹部の中での揺れも大きくなりやすい。
- 糖分の濃い飲み物も注意
- 果汁ジュースなど糖分の濃い飲料も、差し込みとの関連が指摘されている。高浸透圧の飲料が胃内容物の排出や腹膜周辺の水分環境に影響する可能性が考えられているが、詳しい仕組みまでは確定していない。

「お腹の中に重たい水風船を入れて走ってるようなもんだブーね。そりゃあ揺れたら周りの膜が引っ張られて痛くなるブー!」
第三章:なぜ「シャトルラン」で起こりやすいのか
一定のペースで走るマラソンに比べ、体育館などで行う「シャトルラン(20mシャトルラン)」では、脇腹の痛みを強く意識する人もいる。それには競技特有の条件が関係している可能性がある。

- 「急停止と急発進」が内臓を揺さぶる
- シャトルランは、短い距離で減速、方向転換、再加速を何度も繰り返す。こうした動作は一定のペースで走る場合よりも胴体を揺らしやすく、腹膜や内臓を支える組織への刺激を強める可能性がある。
- 呼吸と体幹の崩れ
- ペースが上がるにつれて呼吸は乱れ、疲労によって姿勢も崩れていく。腹部を支える体幹が安定しにくい状態で折り返しを繰り返すことも、差し込みを誘発する要因になり得る。
ただし、「シャトルランはマラソンより差し込みが多い」と直接示した十分な研究があるわけではない。急停止や方向転換、呼吸の乱れなどが重なるため、痛みを起こしやすい条件がそろうと考えられるのである。
第四章:痛くなった時はどうすればよいのか
差し込みは、多くの場合、運動の強度を落とすことで短時間のうちに治まる一過性の痛みである。

- まず速度を落とす
- 無理に走り続けず、ペースを落とす。痛みが強ければ、いったん歩いて呼吸を整える。
- 痛む場所を軽く押さえる
- 痛い部分を手で軽く圧迫し、少し前屈みになると、痛みが和らぐことがある。
- 息を長く吐き切る
- 浅く速い呼吸を続けず、ゆっくり吸って、さらに長く吐く。特に「吐き切ること」を意識すると、呼吸のリズムを戻しやすい。
- 次回に向けた予防
- 走る直前の満腹や水分の一気飲みを避け、ウォーミングアップから徐々に速度を上げる。姿勢を安定させる体幹づくりも、差し込みを起こしにくくする可能性がある。
なお、運動をやめても痛みが治まらない場合や、胸の痛み、強い息苦しさ、発熱、嘔吐などを伴う場合は、通常の差し込みとは別の原因も考えられるため注意が必要である。
終章:痛みが教える「一時停止のサイン」
結論として、走ると脇腹が痛くなる原因は完全には解明されていないものの、現在は、「激しい上下運動によって、腹膜や内臓を支える組織が引っ張られ、刺激されることで生じる一時的な腹痛」という説が有力である。
横隔膜、胃の膨らみ、呼吸、姿勢なども複合的に関係している可能性があり、単純に一つの臓器だけが原因とは言い切れない。
もし走っていて差し込みが起きたら、無理に根性で走り続ける必要はない。ペースを落として呼吸を整えれば、多くの場合、痛みは次第に治まっていく。
あの鋭い痛みは、「あなたの体力がない」という烙印ではない。腹部にかかる刺激を減らすため、いったん動きと呼吸を整えるべきタイミングを知らせる、一時停止のサインなのである。



コメント