海の中に堂々とそびえ立つ朱色の巨大なゲート。
世界文化遺産であり、日本三景の一つにも数えられる広島県・宮島の「厳島神社」。そのシンボルである大鳥居は、満潮時にはまるで海に浮かんでいるかのような神秘的な姿を見せる。
これほど巨大な建造物であれば、激しい波や台風に耐えるため、海底深くの岩盤まで杭が打ち込まれている(埋まっている)と誰もが想像するだろう。
しかし、この大鳥居は「地中に埋まっていない」。
信じがたいことだが、基礎杭の上に「ただ置いてあるだけ」なのだ。
なぜ、そんな不安定に思える方法を選んだのか。そして、なぜ「置いてあるだけ」で何百年もの間、あの荒波の中で立ち続けることができるのか。
本稿は、厳島神社の鳥居に隠された宗教的な配慮と、現代建築も驚く物理学的な知恵を解き明かすレポートである。
第一章:なぜ海の中に建てたのか?──神の体を傷つけないため
そもそも、なぜ神社の入り口である鳥居を、陸地ではなくわざわざ海の中に建てたのか。そこには、古代からの日本人の深い信仰心が関係している。

- 島全体が「ご神体」
- 古来より、宮島(厳島)は背後にそびえる霊峰・弥山(みせん)をはじめ、島そのものが「神様(ご神体)」として崇められていた。
- 当時の人々は、神様の体にクワを入れたり、木を伐採して建物を建てたりすることは「神を傷つける恐れ多い行為」であると考えた。そのため、島(陸地)ではなく、潮の満ち引きがある海岸の波打ち際に社殿や鳥居を造るという、世界でも類を見ない特異な様式が生まれたのである。
- 海からの正式参拝
- かつての人々は、陸を歩いて参拝するのではなく、小舟に乗って海側から鳥居をくぐり、神域へと入っていくのが正式なスタイルであった。大鳥居は、まさに「海の玄関口」としての役割を果たしていたのだ。

「ええっ!島全体が神様だから、傷つけないように遠慮して海に建てたんだブー!?昔の人の信仰心の深さに感動するブー!」
第二章:「置いてあるだけ」で倒れない3つの理由
海底に深く埋めることを避けた結果、先人たちは「自然の重みだけで自立させる」という究極の工法にたどり着いた。

- 鳥居の屋根に「7トンの石」が詰まっている
- 大鳥居の一番上の横柱(笠木の下の「島木」と呼ばれる部分)は、実は空洞の箱状になっている。
- その中には、ソフトボール大の石が約7トン分も敷き詰められている。この上部からの巨大な重さが「重石(おもし)」となり、鳥居全体を下へギュッと押し付けて安定させている。
- 6本の足(袖柱)の踏ん張り
- 2本の太い主柱のほかに、前後に「袖柱(そでばしら)」と呼ばれる4本の補助の柱が配置されている。この計6本の足で支える「両部鳥居(りょうぶとりい)」という構造により、前後左右から打ち付ける波の力を分散して受け止めている。
- しなって力を逃がす「柔構造」
- 鳥居は完全にガチガチに固定されているわけではなく、接合部にわずかな「遊び(隙間)」が設けられている。
- 波や強風を受けた際、あえてわずかに揺れることで衝撃を逃がし、一点に負荷が集中して折れるのを防ぐ。これは現代の高層ビルや五重塔にも通じる「免震構造」の考え方そのものである。

「屋根の中に7トンも石が入ってたんだブー!?『頭を重くして踏ん張る』なんて、シーソーやダルマ落としみたいな物理の力だブー!」
終章:自然と調和する建築の極致
結論として、厳島神社の大鳥居は「神の島を傷つけないという宗教的な優しさと、自然の力を利用して物理的に自立させるという、先人たちの天才的な建築技術の結晶」であった。
「置いてあるだけ」という言葉は、一見すると脆そうに聞こえる。
しかしそれは、自然に抗って海底をくり抜くのではなく、自然の重さと揺れに身を委ね、波と風をいなすという、最高に日本的な「調和」の姿なのだ。
次に宮島を訪れ、潮が引いた大鳥居の足元に立つ機会があれば、上を見上げてほしい。
あの屋根の中には7トンの石が詰まっており、何百年もの間、自らの重さだけで踏ん張り続けているという事実に、きっと深い畏敬の念を抱くはずだ。



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