「日本で最も島が多い都道府県はどこか」
そう問われた際、多くの人は、石垣島や宮古島を抱える「沖縄県」を思い浮かべるだろう。あるいは、伊豆諸島から小笠原諸島まで広大な海域を持つ「東京都」と答えるかもしれない。
しかし、そのどちらも正解ではない。
日本で最も多くの島を持つ都道府県は、「長崎県」である。国土地理院が2023年に公表した集計による、島数上位5道県を見てみよう。
- 長崎県:1,479島
- 北海道:1,473島
- 鹿児島県:1,256島
- 岩手県:861島
- 沖縄県:691島
長崎県は、広大な面積を持つ北海道をわずか6島差で抑え、堂々の全国1位。島のイメージが強い沖縄県と比べると、その数は実に2倍以上だ。
なぜ、九州本土にも県域を持つ長崎県に、これほどまで多くの島が集中しているのか。そして、なぜ近年になってその数が「急増」したのか。
本稿は、長崎の沿岸に無数の島を生んだ地形形成の仕組みと、測量技術の進歩がもたらした驚きの事実、さらに「島の数日本一」という称号が突きつける、行政とインフラの過酷な現実を解き明かすレポートである。
第一章:海に沈んだ山々──1,479島を生んだ複雑な地形
長崎の島といえば、対馬、壱岐、五島列島などを思い浮かべるが、それだけで1,400を超える数には到底届かない。残りの島々は、いったいどこにあるのか。
その答えは、佐世保市周辺の「九十九島」に代表されるように、海岸線に沿って水面へばらまかれたように点在する、無数の小島や岩礁である。
なぜ、長崎の海岸にはこれほど小島が多いのか。その大きな理由の一つが、「沈水海岸(リアス海岸)」に代表される複雑な海岸地形である。

- 氷河期後の海面上昇
- 現在より海面が低かった氷河期、長崎県西部には起伏に富んだ山や谷が広がっていた。
- その後、氷河期が終わって海面が上昇すると、低い谷へ海水が入り込み、陸地の高い部分が海上に島として残された。
- 九十九島のような多島海では、こうして生まれた複雑な地形が、数多くの小島と入り江を作り出した。
長崎県内の島々が、すべて同じ過程で生まれたわけではない。地域によって火山活動や地殻変動、波による浸食なども関係している。
それでも、陸と海の境界が激しく入り組んでいることが、長崎県の島数を押し上げる大きな要因であることは確かだ。長崎県の海岸線の総延長は約4,183kmに達し、北海道に次いで全国2位を誇る。県の面積は決して大きくないにもかかわらず、海岸線がこれほど長いのは、半島、岬、入り江、小島が複雑に連続しているためである。

「九十九島なのに208島もあるブー!? 名前より倍以上も多いなんて、長崎の島は数え始める前から予想を裏切ってくるブー!」
第二章:突如「508の島」が誕生したカラクリ
しかし、長崎県の島が1,479島だと認定されたのは、ごく最近のことである。
長年使われてきた統計では、長崎県の島数は「971島」とされていた。それが2023年の発表で一気に508島も増え、1,479島となったのだ。
もちろん、海底火山が爆発して、短期間に新しい島が500以上も隆起したわけではない。変わったのは島ではなく、「数え方」と「測量技術」であった。

- アナログからデジタルへの移行
- 従来広く使われてきた島数は、1987年に海上保安庁が紙の海図などを基に集計したものだった。
- 対して新たな調査では、国土地理院が「電子国土基本図」を用い、地図上の陸地をコンピューターで抽出した。
- 明確化されたカウント基準
- 離島振興法や有人国境離島法などに基づく島に加え、電子国土基本図に描かれた陸地のうち、「周囲の長さが100m以上」「自然に形成された陸地」と判断できるものを数えた。
- 湖や沼の中にある陸地は対象から除外された。
- より精密なデジタル地図で数え直した結果、従来の集計では拾い切れなかった小島や岩礁が、新たに計数されたのである。
- この数え直しによって、日本全体の島数も6,852島から14,125島へと2倍以上に増えた。
つまり、長崎に一夜で508の島が誕生したのではない。
小さな島々は以前からそこに存在していたが、測量技術と地図の精度が進歩したことで、人間がようやく正確に数えられるようになったのだ。

「島が増えたんじゃなくて、人間がようやく見つけられるようになったんだブーね。小島たちはずっと『ここにもいるブー!』って待っていたのかもしれないブー!」
第三章:「多島海」が突きつけるシビアな現実
1,479島という数字は、豊かな漁場や美しい景観を誇る観光資源として、間違いなく長崎県の勲章である。しかし、この数字の裏には、行政と住民が直面する重い課題が隠されている。
長崎県の島々のうち、離島振興対策実施地域に指定された有人島は51島あり、約11万人が暮らしている。無人島が大多数とはいえ、海で隔てられた多くの地域社会を維持する負担は小さくない。

- 生命線としてのインフラ維持
- 本土から離れた島々において、船や飛行機は観光用の乗り物ではなく、通勤、通学、通院、生鮮食品や燃料の輸送を支える生命線である。
- 人口減少や高齢化によって利用者が減る一方、燃料費や船舶の維持費はかかり続ける。
- 荒天で船が欠航すれば、食品や郵便物の到着が遅れ、島外への通院や患者搬送にも影響が及ぶ。
- 海で隔てられた生活基盤
- 島ごとの人口や地理的条件に応じて、港、航路、医療、教育、上下水道などの生活基盤を維持する必要がある。
- 利用者が少ないからといって簡単に廃止すれば、そこで暮らす人々の生活そのものが成り立たなくなる。
- 「島の数日本一」ということは、それだけ海で隔てられた地域の暮らしを、航路や公共サービスで支え続けなければならないということでもある。
美しい島々を観光資源として活用しながら、人口が減少する中で生活インフラをどう維持するのか。
長崎県にとって1,479という数字は、誇らしい記録であると同時に、将来へ突きつけられた重い課題なのである。
終章:美しき「山の頂」と人々の営み
結論として、長崎県が日本一の島数を誇る理由は、巨大な離島が次々と連なっているからではない。
沈水地形に代表される複雑な海岸線に、無数の小島や岩礁が点在し、それらが精密なデジタル地図によって改めて数え直された結果なのである。
沖縄県が「島の県」として広く知られている一方、長崎県は、無数の小島が複雑な海岸線を縁取る「隠れた多島県」といえる。
美しい多島海に浮かぶ島々を見たとき、そこには太古の地形形成が生み出した自然の造形だけでなく、海を越えて航路、医療、教育、物流をつなぎ続ける人々の営みも存在する。
長崎県の1,479島は、海と大地が作り上げた景観であると同時に、そこで暮らす人々の生活を支え続ける努力によって結ばれた島々でもある。
「島の数日本一」という称号は、長崎の美しさを示す観光上の勲章である。
同時にそれは、海によって隔てられた人々の暮らしを、現代社会がどのようにつなぎ、守り続けていくのかを問いかける数字でもあるのだ。


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