不祥事起こした芸能人、なぜ〇〇メンバー?──容疑者でも“さん”でもない、忖度と報道のジレンマ

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芸能人の不祥事が報じられる際、テレビやニュース記事で突如として使われ始める奇妙な呼称がある。
「〇〇メンバー」「〇〇司会者」といった表現だ。

普段のニュースで「〇〇メンバーが新曲を出しました」などと言うことは絶対にない。それまで「〇〇さん」と親しまれていた人物が、事件が発覚した途端に、所属や職業を示す言葉を無理やり敬称の代わりに付けられて呼ばれるようになる。

「なぜ普通に『容疑者』と呼ばないのか?」「芸能事務所への忖度(そんたく)ではないか?」

視聴者が抱くこの強い違和感と不満には、もっともな理由がある。しかし、メディア側にも「容疑者と呼ぶには重すぎ、さん付けでは軽すぎ、かといって呼び捨てもできない」という、行き場のないジレンマが存在していた。

本稿は、この極めて不自然な日本語がなぜ生まれ、どのように定着してしまったのか、刑事手続きのルールと報道現場の苦悩から解き明かすレポートである。


第一章:「書類送検」=「容疑者」とは限らない

この問題を理解する上で、まず日本の刑事手続きにおける言葉の定義を整理する必要がある。

  • 法的な「被疑者」と、報道の「容疑者」
    • 法律上、犯罪の疑いがある人物は逮捕されていても、されていなくてもすべて「被疑者」と呼ばれる。
    • 一方、「容疑者」という言葉は法律用語ではなく、報道機関が一般向けに作ったマスコミ用語である。
  • 「書類送検」というステータスの曖昧さ
    • 「書類送検」とは、警察が犯人を逮捕せず(身柄を拘束せず)、捜査書類だけを検察に送る手続きのことである。これは「有罪」が決まったわけでも、起訴されたわけでもない、非常に初期のグレーな段階だ。
    • 報道機関は、この段階の人物を「容疑者」と呼ぶこともできる。しかし、逮捕されていない人物に「容疑者」とつけると、世間からは「すでに犯罪者として確定した」という強烈なレッテル(推定有罪)として受け取られかねないというリスクがある。
ブクブー
ブクブー

「ええっ!『容疑者』って法律の言葉じゃなかったんだブー!?テレビ局が勝手に作った言葉だったなんてビックリだブー!」


第二章:「メンバー」は消去法から生まれた

では、書類送検された(あるいは捜査中の)芸能人をメディアはどう呼べばいいのか。ここで各社は絶望的な選択を迫られる。

  1. 「〇〇容疑者」: 重すぎる。逮捕されておらず、示談などで不起訴になる可能性もある段階では、名誉毀損や人権侵害のリスクがある。
  2. 「〇〇さん」: 軽すぎる。被害者がいる事件において「さん」付けで報じることは、犯罪を擁護しているように見え、視聴者の反感を買う。
  3. 「〇〇(呼び捨て)」: 断罪的すぎる。裁判も始まっていないのに、メディアが勝手に犯罪者扱いしたと批判される。

この「どれを選んでも問題が起きる」という絶望的な状況下で、報道機関が苦肉の策として選び取ったのが、「〇〇メンバー」や「〇〇司会者」という肩書を敬称の代用品にするという、日本語として歪なアクロバットだったのだ。

ブクブー
ブクブー

「なるほどだブー!『さん』だと怒られるし、『容疑者』だと訴えられるかもしれないから、苦し紛れに『メンバー』って逃げ道を作ったんだブーね!」


第三章:一般人との圧倒的な「非対称性」

この呼称が視聴者の強い反感を買う理由は、「日本語としての不自然さ」だけではない。そこには、一般人と有名人の間に存在する「呼称の逃げ道の多さ(非対称性)」に対する不公平感がある。

  • 一般人が書類送検された場合、報道で使える肩書は「会社員」や「無職」くらいしかない。そのため、結果的に「容疑者」か「書類送検された男(女)」と無機質に呼ばれることが多い。
  • しかし芸能人の場合、「メンバー」「俳優」「タレント」「司会者」など、名前の後ろにくっつけることのできる“便利なクッション(肩書)”が豊富に用意されている。

これが視聴者には、「メディアが有名人(あるいは大手芸能事務所)を特別扱いし、容疑者という言葉から守ろうとしている(忖度している)」と映り、強い嫌悪感を引き起こすのである。


終章:「呼称の空白」を埋めた不自然な言葉

結論として、「〇〇メンバー」という呼称は、芸能事務所の圧力だけで生まれたものではない。

それは、「事件を報じなければならないが、裁判前に犯人扱いしてはいけない」という報道倫理と、「被害者への配慮」との間で生じた“呼称の空白”を埋めるために、無理やり発明された言葉であった。

しかし皮肉なことに、無難さを求めて生み出されたその言葉は、通常の「容疑者」よりも遥かに不自然であり、特定の芸能人と事件を紐付けて人々の記憶に永遠に刻み込む、最も強烈なパワーワードとなってしまった。

報道機関の苦悩から生まれた「〇〇メンバー」。
この歪な日本語がニュースから消える日は、メディアが「推定無罪」と「報道の自由」の完璧なバランスを見つけ出した時にしか訪れないのかもしれない。

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