阪神の優勝など、大阪・ミナミが歓喜に包まれるたびに話題となる、道頓堀川への飛び込み。
川から上がって喜ぶ人の姿を見ながら、「あの水に全身を浸して、体は大丈夫なのだろうか」と感じた人もいるだろう。
気になるのは、川の水を飲み込んだり、傷口に水が入ったりした場合の健康への影響である。
道頓堀川では水質改善が進んでいる。しかし、現地の調査を見ると、有機物による汚れの評価と、細菌などの衛生面の評価は分けて考える必要がある。
本稿は、大阪市と地元の教育機関による測定結果から、道頓堀川の水質と、飛び込みに伴う健康リスクを整理するレポートである。
第一章:道頓堀川の水から、何が検出されたのか
道頓堀川の水質を継続して調べているのが、大阪市北区にある日本分析化学専門学校である。
学生による自主調査として、川の水を採取し、細菌や有機物による汚れなどを測定している。

同校が2026年2月16日に採水した調査では、道頓堀川の次の3地点で、以下の結果が出た。
| 採水地点 | 大腸菌群数(MPN/100mL) | 一般細菌数(CFU/mL) |
|---|---|---|
| 日本橋(堺筋) | 460 | 2,660 |
| 道頓堀橋(御堂筋) | 240 | 2,813 |
| 湊町リバープレイス付近 | 2,400 | 4,130 |
MPNは菌数を統計的に推定する単位、CFUは培養でできた菌の集落を数える単位である。異なる検査なので、二つの数値を足すことはできない。
同校は、遊泳プールの水質基準を参考に衛生面を比較し、遊泳目的での使用には向かないと評価している。

「目に見えないバイキンがたくさんいる川なんだブーね…。そんなところに飛び込むのは、まさに命がけのダイブだブー!」
これは2026年2月の特定地点・時刻の結果であり、飛び込み当日の戎橋の水質を測ったものではない。それでも、道頓堀川の水から細菌が実際に検出されているという、現地の具体的な資料である。
第二章:「水質は改善した」と「泳げる」は違う
では、水質が改善しているという説明は、何を指しているのか。
大阪市の2024年度調査では、道頓堀川・大黒橋のBODの年平均値は0.9mg/Lで、BODの環境基準を達成している。

- BODは、有機物による汚れの指標
- 水中の有機物を微生物が分解するときに消費する酸素量を表す。数値が低いほど、一般に分解されやすい有機物が少ないことを示す。
- 細菌の安全性を直接示す数値ではない
- BODが基準を満たしていても、病原体がいないことや、飲み込んで安全なことまで証明するわけではない。
また、学校が比較に使った遊泳プールの基準は、管理されたプールのためのものであり、河川の遊泳適否をそのまま法的に判定する基準ではない。大阪市のプール検査でも、大腸菌の非検出や、一般細菌数200CFU/mL以下などが確認項目となっている。
つまり、川の環境が改善していることと、人が全身を浸す際の衛生上の安全性は、別の確認が必要なのである。

「ええっ!『水質が良くなった』からって、プールみたいに『バイキンがいない』ってわけじゃないんだブーね!勘違いしそうだブー!」
第三章:なぜ、道頓堀川の水質は変動するのか
道頓堀川は、消毒・ろ過された水だけを保つプールではない。
東横堀川と木津川を結ぶ河川であり、水の流入や天候などの影響を受ける。
大阪市は、過去に道頓堀川・東横堀川の汚濁要因として、雨水と汚水を同じ管で集める「合流式下水道」から、強い雨の際に一部の下水が流れ込む問題を説明している。その対策として、雨天時の下水を貯留する施設や、川底の泥の除去、高度に処理した水の活用などを進めてきた。

- 対策が進んでも、常に同じ水質ではない
- 降雨や水の流れ、採水地点などによって測定値は変わる。過去に良い結果が出たことを、その日の安全保証にはできない。
- 水の見た目だけでは判断できない
- 濁りや臭いは気になる手掛かりだが、細菌の有無や数は、見ただけでは分からない。
水質改善の取り組みは重要である。しかし、その成果を「飛び込んでも大丈夫」という判断に直結させることはできない。
第四章:体への入り口は「口」と「傷口」
現地で検出された「大腸菌群」は、大腸菌そのものと同じではなく、性質の似た菌を含む検査上のまとまりである。一般細菌も、検出されたすべてが病原菌という意味ではない。
したがって、測定値だけから「どの病気になるか」「何%の人が発症するか」は計算できない。
一方で、細菌がいる水に飛び込む際には、体への入り方が問題となる。

- 水を飲み込む
- 着水や浮上の際、意図せず口に水が入ることがある。病原体を含む水を飲み込めば、腹痛や下痢などにつながる可能性がある。
- 傷や粘膜に水が触れる
- 汚染された水との接触で感染する病気もある。国内の公的機関も、傷や粘膜から感染する水辺の感染症について説明している。ただし、これは感染経路の説明であり、道頓堀川でその病原体が確認されたという意味ではない。
衛生面とは別に、大阪市は戎橋付近の水深を約3.5メートルとし、船の往来や、過去の飛び込みによる死傷者についても注意を呼びかけている。
入水後に発熱、続く下痢、傷の腫れなどがあれば、医療機関に相談し、道頓堀川に入った日時や、水を飲み込んだかどうかを伝えることが大切だ。
終章:改善した川にも、入水のリスクは残る
道頓堀川の水質は、「昔と変わらず汚い」とだけ説明できるものではない。
大阪市の調査では有機物による汚れの指標が基準を達成する一方、地元の継続調査では細菌が検出され、衛生面から遊泳には向かないと評価されている。
飛び込んだ人が必ず病気になるとは言えない。
しかし、川から無事に上がれたことや、他の人が元気にしていることは、感染しない保証にはならない。
「水質が改善している」と「飛び込んでも安全」は、同じ意味ではない。
道頓堀川の現地データが示しているのは、その区別の必要性である。



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