おもちゃを選ぶなら、トイザらスへ。
棚いっぱいに並ぶ玩具を見ながら、誕生日やクリスマスのプレゼントを探した記憶を持つ人もいるだろう。
その日本トイザらスが、2026年10月1日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は132億2600万円。東京商工リサーチによると、玩具量販店として過去最大の倒産となった。
ただし、店舗が一斉に閉店するという発表ではない。
同社は、ドン・キホーテなどを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)側へ事業を譲渡する契約を結び、移行手続きが完了するまで通常営業を続けるとしている。
ここで気になるのが、国内のおもちゃ市場は縮小していないという点だ。
日本玩具協会によれば、2025年度の市場規模は過去最高を更新している。
おもちゃは売れている。それなのに、なぜ有名な玩具専門店が苦境に陥ったのか。
本稿は、市場全体の成長と、一つの販売店の経営が一致しない理由を、買われる商品と購入先の変化から読み解くレポートである。
第一章:「過去最高」の市場では、何が売れていたのか
日本玩具協会が公表した2025年度の国内玩具市場規模は、1兆1664億円。前年度比6.3%増で、2021年度から5年連続の過去最高となった。
この数字は、メーカー希望小売価格を基準に推計した市場規模であり、店頭で実際に支払われた金額の合計とは異なる。中古品の売買額を足した数字でもない。
重要なのは、成長の中身である。

- 大きな割合を占めるカードゲーム
- 「カードゲーム・トレーディングカード」は3384億円となり、市場全体の約29%を占めた。前年度から359億円増え、市場全体の増加額690億円の半分以上に相当する。
- ぬいぐるみやホビーも拡大
- ぬいぐるみは624億円、プラモデルやフィギュアなどを含むホビーは1960億円となった。キャラクター商品などの好調が、市場を押し上げている。
「おもちゃ市場が伸びた」と聞くと、子ども向けの玩具がどれも均等に売れたように思える。
しかし、実際には商品分野ごとに動きが異なる。子どもへのプレゼントだけでなく、収集や趣味として買われる商品も、この市場に含まれている。
市場全体が大きくなっても、その店が得意とする商品や客層に、同じ割合で需要が増えるとは限らない。
まず、この違いを押さえる必要がある。

「ええっ!おもちゃ市場が絶好調なのは、子供のオモチャじゃなくて、大人のカードゲームやフィギュアのおかげだったんだブー!?」
第二章:おもちゃを買う場所は、専門店だけではなくなった
もう一つの変化は、購入先である。
同じ玩具を、専門店だけでなく、ネット通販や家電量販店、ディスカウントストアでも探せる。
欲しい商品の名前が分かっていれば、価格や在庫を比べ、店へ出かけずに注文することもできる。
帝国データバンクは、日本トイザらスの経営悪化について、ネットの普及による購買行動の変化と、大手家電量販店など他業態との競争激化を挙げている。さらに、市場トレンドへの対応が遅れ、成長分野を十分に獲得できなかったと指摘した。

- 商品を決めてから買う人
- 型番や商品名で検索すれば、複数の店の価格を比較できる。この買い方では、売り場の広さより、価格や配送、在庫の有無が選択の理由になりやすい。
- 別の買い物と一緒に買う人
- 家電量販店や総合的な小売店なら、ほかの用事と合わせて玩具を買える。玩具のためだけに別の店へ行く必要がなくなる場合もある。
もちろん、日本トイザらスもオンライン販売を行っている。
問題は「実店舗かネットか」という二択ではなく、増えた選択肢の中で、どれだけ自社を選んでもらえるかである。
おもちゃへの支出が増えても、その売上が別の店や通販へ向かえば、専門店の経営は厳しくなる。市場の好調と販売店の苦戦は、同時に起こり得るのだ。

「お店で実物を見て、スマホで検索してネットでポチる…。僕もやっちゃうけど、お店からしたらたまったもんじゃないブー…。」
第三章:市場の成長と、店の利益は別のもの
日本トイザらスの売上高は、ピークだった2007年1月期の約1943億円に対し、2025年12月期は約752億円だった。決算期変更もあるため単純な比較には注意が必要だが、帝国データバンクは売上の下降傾向と、最終損益が8期連続の赤字だったことを報告している。
商品が売れることと、利益が残ることも同じではない。

- 売り場を維持する費用がある
- 店舗には家賃や人件費、設備費などがかかる。売上が減っても、こうした費用を同じ割合ですぐ減らせるとは限らない。
- 在庫を持つ負担がある
- 豊富な品ぞろえには、先に商品を仕入れる資金が必要になる。売れ残りや値引きが増えれば、売上があっても利益を圧迫する。
これは小売業に共通する構造である。
市場が伸びているからといって、どの店でも十分な利益を確保できるわけではない。
何が売れるのかを見極め、どこで買う人を取り込み、その売上から費用を払って利益を残せるか。
専門店の経営には、このすべてが関わっている。
今回の破綻も、単に「少子化でおもちゃが売れなくなった」と説明するだけでは、市場の実情を捉えられない。
第四章:ドンキは、トイザらスの何を引き継ぐのか
PPIHが譲り受ける予定なのは、店舗とオンラインで営む玩具・子ども用品などの販売事業である。
同社は、トイザらスが持つ専門性と全国の店舗網、乳幼児から子ども、ファミリー層に広がる顧客基盤を評価している。それらがグループに加わることで、新しい顧客層の獲得や、顧客との長期的な取引の拡大につながると説明した。

- 専門店に蓄積された知識
- 玩具やベビー用品には、年齢や用途に応じて選ぶ商品が多い。商品を比較し、相談しながら買える専門性は、店舗の強みになり得る。
- 家族と接点を持つ売り場
- ベビー用品から玩具へと、子どもの成長に合わせて必要な商品は変わる。PPIHは、こうした幅広い客層との接点を事業の価値として捉えている。
具体的な店舗づくりがどう変わるかは、今後の展開を見ていく必要がある。
一方、専門店が選ばれるには、価格や在庫に加えて、実物を見て選ぶ、相談する、思いがけない商品に出会うといった、来店する理由も重要になるだろう。
市場の成長を取り込むには、商品を並べるだけでなく、買い手がその店を選ぶ理由を作ることが問われる。
コラム:「トイザらス」の「ら」だけ、なぜひらがな?
ところで、店名をよく見ると、「トイザらス」の「ら」だけがひらがなになっている。 これは、本家のロゴにある、逆向きの「R」に合わせた表記だ。

公式の説明によると、Toys“R”Usという名前は「Toys are us」から生まれたもの。子どもに親しみを感じてもらえるよう、子どもが書き間違える逆向きの「R」をロゴに取り入れた。
その遊び心に合わせ、日本名も「ら」だけをひらがなにしたという。
英字の形をそのまま再現するのではなく、日本語では文字の種類を変える。
見慣れた店名にも、子どもに身近な店でありたいという工夫が残っている。
終章:「売れる市場」と「選ばれる店」の違い
おもちゃ市場が過去最高でも、トイザらスが破綻したことは矛盾ではない。
市場の成長が、すべての販売店へ均等に届くわけではないからだ。
売れる商品が変わり、購入先が増えれば、専門店にも対応が求められる。市場の規模だけでなく、何を、誰が、どこで買っているのかを見ることで、今回の出来事は理解しやすくなる。
PPIH側への事業譲渡は、その専門性や顧客基盤を、新しい運営体制につなぐ動きである。
豊富なおもちゃを眺め、手に取り、家族で選ぶ。
そうした店の価値を、今の買い方にどう結びつけていくのか。トイザらスの次の歩みでは、その点が問われることになる。



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