作家の村上龍さんが2026年10月17日、自宅で亡くなった。74歳だった。幻冬舎が同月23日に公表した。葬儀は家族葬で執り行われた。
訃報に触れ、テレビ東京の経済番組『カンブリア宮殿』で、経営者たちと対話する姿を思い浮かべた人もいるだろう。
あるいは、学校の図書室で『13歳のハローワーク』のページをめくった記憶を持つ人もいるはずだ。
一方、小説を読んだことのない人には、薬物や性、暴力などを描いた作品で文壇に登場した作家だということは、意外に感じられるかもしれない。
小説を書くこと。若者に職業を紹介すること。企業の経営者に話を聞くこと。 村上さんの活動は、異なる分野に広がっていた。それぞれの仕事をたどると、テレビで見ていた姿だけでは分からなかった歩みが見えてくる。
本稿は、村上龍さんが活動した三つの場を振り返り、小説と『13歳のハローワーク』、そして『カンブリア宮殿』に残した仕事を紹介するレポートである。
第一章:文学──若者たちの日々を描いたデビュー作
村上さんの作家としての出発点は、1976年の『限りなく透明に近いブルー』だった。

- 24歳でのデビュー
- 武蔵野美術大学在学中に書いた同作で、群像新人文学賞と芥川賞を受賞した。当時24歳。大学在学中の受賞によって、作家として広く知られるようになった。
- 衝撃的な題材と、その描き方
- 同作に登場するのは、薬物や性、暴力に囲まれた若者たちである。努力して夢をかなえる青春とは異なる日々を描いた。講談社の作品紹介も、衝撃的に見える青春の奥にある亀裂を、冷静な感性と詩的なイメージで表現した作品としている。
その後も『コインロッカー・ベイビーズ』『愛と幻想のファシズム』『五分後の世界』『イン ザ・ミソスープ』などを発表した。
テレビで経営者の話を聞いていた村上さんには、それ以前から続く小説家としての仕事があった。
題材や舞台を変えながら創作を重ね、文学の分野で活動を続けたのである。

「ええーっ!僕の中では『カンブリア宮殿の穏やかなおじさん』ってイメージだったから、そんなにハードで過激な小説を書いてデビューしたなんてビックリだブー!」
第二章:『13歳のハローワーク』──興味から仕事を知るために
小説とは異なる読者に届いたのが、2003年11月に刊行された『13歳のハローワーク』である。公式サイトによれば、130万部を売り上げ、8,000校以上の小・中・高校で採用された。

- 「好きなこと」を入口にする
- 特徴は、職業名から調べるだけでなく、「料理が好き」「生き物が好き」といった、子ども自身の興味から仕事を知る入口を設けたことだ。公式サイトにも、「好き」で職業を調べる仕組みがある。
- まだ知らない仕事を、選択肢に加える
- 子どもが知っている仕事は、身近な大人や、テレビなどで見かける職業に偏りやすい。しかし、社会には、それまで名前も知らなかった仕事が数多くある。 自分の関心が、どのような技術や職業につながるのか。それを知ることで、将来について考える材料を増やせる。
好きなことが、そのまま仕事になるとは限らない。早く一つの職業を決めればよい、というわけでもない。
働くことを考える前に、どのような仕事があるのかを知る。
『13歳のハローワーク』は、若い読者が職業の世界へ目を向けるための本となった。

「図書室に絶対置いてあったブー!『ゲームが好き』から色んな仕事に繋がっていくのを見て、ワクワクしたのを覚えてるブー!」
第三章:『カンブリア宮殿』──経営者の判断を聞く20年
テレビを通じて村上さんを知った人にとって、身近だったのが『カンブリア宮殿』である。
番組は2006年4月に始まり、村上さんは小池栄子さんとともに約20年にわたって出演した。2026年3月26日の卒業スペシャルが、二人にとって最後の出演となった。

- 商品やサービスの裏側にある判断
- 私たちが普段目にするのは、店頭の商品やサービス、企業の名前である。その裏では、何を作り、誰に届け、どのように事業を続けるかという判断が重ねられている。 番組は現場の取材とスタジオでの対話を通じて、そうした経営の過程を伝えてきた。
- 視聴者が企業を知るための対話
- 村上さんは、経営者の話を聞き、問いを投げかける役割を担った。小池さんとのやり取りも交えながら、視聴者が企業の取り組みや、その背景を知る時間をつくった。
最後の卒業スペシャルも、過去に登場した経営者の歩みと現在の挑戦を取材し、日本企業の20年を振り返る内容だった。
小説を読んだことのない人も、この番組を通じて村上さんの言葉や視点に触れていた。
テレビは、書籍とは別の形で、多くの人と接する場になっていたのである。

「社長さんたちの苦労話を、村上さんが優しく引き出してくれるのが好きだったブー。小池栄子さんとのコンビも最高だったブー…。」
終章:知っていた姿から、まだ知らない仕事へ
小説、『13歳のハローワーク』、経済番組。 村上龍さんの仕事は、題材も、表現の方法も、届く相手も異なっていた。
小説でその名前を知った人もいれば、学校で職業を調べるときに出会った人もいる。『カンブリア宮殿』で毎週見ていた人にとっては、経営者と話す姿が最も身近だったかもしれない。
どれか一つを知っていても、ほかの仕事には触れたことがない。それだけ、村上さんの活動には幅があった。
テレビで親しんだ人なら、書名だけ知っていた小説のあらすじを読んでみる。子どもの頃に『13歳のハローワーク』を開いた人なら、働く大人になった今、もう一度ページをめくってみる。
知っていた一つの姿から、まだ知らなかった仕事へ目を向けられる。
村上さんが残した本や番組は、これまで親しんできた人にも、これから初めて触れる人にも、その歩みを知る入口として残されている。




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