手書きの文章の途中で、ペンが止まる。
言葉の意味も読み方も分かっているのに、漢字の形だけが思い出せない。スマートフォンやパソコンで文字を入力する機会が多い今、そんな経験をした人もいるのではないだろうか。
日本語なら、とりあえず「ひらがな」や「カタカナ」で書けば、その先へ進める。「薔薇」が書けなくても、「バラ」と書けば自然に通じる。
では、普段の文章を主に漢字で書く中国語では、どうするのだろうか。
実は、中国語にも、発音を文字で記して一時的にしのぐ方法がある。ただし、日本語のひらがなと同じように使えるわけではない。
本稿は、中国語で漢字を思い出せなくなったときの対処法と、日本語とは異なる文字の使い方をひもとくレポートである。
第一章:中国にもある「読めるのに、書けない」
漢字を日常的に使っているからといって、いつでも正確に書けるとは限らない。
中国語には、書こうとしたときに字を思い出せなくなる現象を指す、「提笔忘字(提筆忘字)」という表現がある。「筆を取ったら、字を忘れる」という意味だ。

- 言葉を忘れたわけではない
- 意味も発音も分かっている。印刷された文字を見れば読める。それでも、自分で書こうとすると、部品の配置や細かな線が出てこないことがある。
- 入力することと、手で書くことは違う
- 発音を入力して候補から漢字を選ぶ操作では、一画ずつ字形を再現する必要がない。中国でも、デジタル機器の普及と手書きの機会の減少に関連して、この現象が話題になっている。
読めることと、何も見ずに書けることは、同じ能力ではない。
日本人が漢字を思い出せずに困る場面は、中国語を使う人にもあるのだ。

「ええっ!漢字のプロである中国の人たちも、度忘れで困ってたんだブー!?ちょっと親近感が湧くブー!」
第二章:発音が分かれば、「ピンイン」で仮置きできる
では、実際に字が出てこなくなったら、どうするのか。
中国本土で普通話を学んだ人にとって、対処法の一つになるのが「漢語拼音」、いわゆる「ピンイン」である。

- 発音をアルファベットで表す仕組み
- ピンインは、普通話の発音をアルファベットと声調を示す記号などで表すもの。例えば「你好」は「nǐ hǎo」と表記する。漢字の学習や発音の確認、文字入力などに使われる。
- 思い出せない漢字の代わりに書く
- 字形を忘れても、発音が分かれば、ピンインで記して先へ進める。中国の新聞でも、手書き中に漢字を思い出せず、ピンインで代用するという人の声が紹介されている。
つまり、「漢字が書けなければ、何も書き残せない」というわけではない。
ただし、中国語を使う地域や、学んできた発音表記の仕組みは一様ではない。ここでは、中国本土の普通話とピンインを中心に考えたい。

「なるほどだブー!アルファベットを使って一時しのぎをするんだブーね。ローマ字入力みたいなもんだブー!」
第三章:それでも、ひらがなと同じではない理由
ピンインで代用できるなら、日本人がひらがなで書くのと同じではないか。そう思うかもしれない。
しかし、二つの表記は、普段の文章の中で担っている役割が異なる。

- ひらがなは、日本語の文章を構成する文字
- 日本語では、漢字とひらがな、カタカナを日常的に組み合わせる。漢字をかなに替えても、そのまま自然な表記として使える場合が多い。
- ピンインは、通常の漢字表記を補助するもの
- 中国本土の一般的な文章では、日本語のかな交じり文のように、漢字とピンインを常に混ぜて書くわけではない。中国教育部も、ピンインを漢字の学習などを助ける重要な道具とし、漢字に取って代わるものとは位置づけていない。
そのため、個人のメモでピンインを仮置きすることと、提出する文書をそのまま完成させることは別になる。漢字表記が求められる場面では、調べて書き直す必要がある。
日本語では自然な完成形になるかな書きが、中国語では一時的な書き留め方になることがある。
ここに、「逃げ道」の使いやすさの違いがある。
第四章:スマホで調べる、別の言葉に言い換える
もちろん、ピンインで書く以外にも対処はできる。状況に合わせて、字を確認したり、文章の表現を変えたりすればよい。

- スマートフォンで漢字を表示させる
- ピンイン入力を使い、出てきた候補から目的の漢字を選んで書き写す。字を自力で再現できなくても、表示された候補を見分けられれば、手書きへ戻れる。
- 書ける言葉に言い換える
- 同じ意味を伝えられる別の単語や、簡単な説明へ置き換える。これは、日本語で難しい漢字を避けて文章を書き直すのと共通する方法だ。
- 仮置きして、後で確かめる
- 自分用のメモなら、ピンインや空欄を使って作業を続け、後から字を確認することもできる。
中国でも、書こうとした漢字の構造が曖昧になり、インターネットで調べるという例が報告されている。
「書けない」と気づいたその場で、すべてを思い出す必要はない。発音や意味など、覚えている情報を使って、目的の字へたどり着くのである。
終章:日本語には、書けなくても完成できる表記がある
中国語で漢字をど忘れしたときには、ピンインで発音を書き留める、スマートフォンで調べる、別の言葉へ言い換えるといった方法がある。
ただし、ピンインは、日本語のひらがなと同じ位置づけではない。どちらも発音を表せるが、普通の文章でどう使うかには違いがある。
日本語なら、「薔薇」の形を思い出せなくても、そもそも書き方を覚えていなくても、「バラ」と書いて文章を完成させられる。
漢字を忘れたとき、別の文字に替えても自然に通じる。
普段は当たり前に使っているひらがなやカタカナには、そんな便利さもある。
漢字を使う言語同士でも、書けなくなったときの切り抜け方は、少し違うのである。



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