お酒を飲めば“内側から消毒”できる?──同じアルコールでも手指消毒と飲酒で働きが違う理由

健康
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「風邪気味だから、アルコールで体内から消毒しておこう」
居酒屋の席などで、お酒好きが嬉しそうに語るこのセリフ。耳にしたことがある人もいるだろう。

単なる冗談として流されがちだが、理屈の上ではあながち間違っていないようにも思える。なぜなら、私たちが飲む「お酒」に含まれるアルコールと、病院などで手指の消毒に使われるアルコールの一つは、どちらも「エタノール」という同じ化学物質だからだ。

ならば、度数の高いお酒を飲めば、食道や胃にいる細菌やウイルスを死滅させることができるのではないか。

結論から言えば、飲酒による体内消毒や感染予防は期待できない。

本稿は、「同じアルコールなのになぜ効かないのか」という素朴な疑問に対し、消毒に必要な条件と、人体への影響を解き明かすレポートである。


第一章:「濃度」と「時間」が足りない

エタノールには、細菌のタンパク質を変性させたり、一部のウイルスの脂質の膜を壊したりする作用がある。しかし、これを「体内の消毒」として利用するには、大きなハードルが存在する。

  • 殺菌に適した濃度は「60〜90%」
    • 米国疾病対策センター(CDC)によれば、一般にアルコールが殺菌力を発揮するのに適した濃度は60〜90%の範囲である。50%を下回ると、その作用は大きく低下する。ただし、対象となる微生物や使用条件によっても効果は変わる。
    • 一方、私たちが普段口にするお酒の度数は、ビールで約5%、ワインで約12%、一般的なウイスキーで約40%程度である。
    • さらに、口に含んだお酒は「唾液」と混ざり、胃に届けば「胃液」や「食べたおつまみ」によって薄まる。薄まり方は胃の内容物などで異なるが、消毒に適した濃度を保てるとは限らない。
  • 短時間で通り過ぎる液体
    • 消毒液が効果を発揮するには、対象に「必要な時間触れ続けていること」が重要だ。しかし、お酒が食道を通過する時間は短く、胃の中でも濃度や接触の条件は一定ではない。アルコールが一度通ったからといって、消毒できたことにはならない。
ブクブー
ブクブー

「ええーっ!ビールやワインじゃ全然薄すぎるし、しかもサッと通り過ぎるだけだから、バイキンには効かないんだブーね!」


第二章:高濃度なら、人体の粘膜にも負担がかかる

「それなら、度数90%を超えるスピリタスのようなお酒を飲めばいいのではないか」と思うかもしれない。しかし、ここに大きな落とし穴がある。

  • アルコールは微生物だけに作用しない
    • エタノールは、細菌やウイルスだけを選んで作用するわけではない。高濃度のアルコールは、人間の口や食道、胃を覆っている「粘膜」も刺激・損傷する可能性がある。
    • 度数の高いお酒を飲んでも、体内で消毒に適した条件を安全に維持できるわけではない。度数や飲む量を増やすことは、感染予防ではなく、人体への負担につながる。
  • 呼吸器の感染部位には届かない
    • 風邪やインフルエンザ、新型コロナなどは、鼻や気道の粘膜で感染・増殖する。お酒を胃へ流し込んでも、呼吸器の感染部位を消毒することはできない。世界保健機関(WHO)も、飲酒は口や喉を消毒せず、新型コロナへの感染を防がないと説明している。
ブクブー
ブクブー

「バイキンと一緒に自分の粘膜もダメージを受けちゃうんだブー!?自爆攻撃みたいなもんだブー…。」


第三章:「血中アルコール」でも全身消毒にはならない

では、胃や腸で吸収されたアルコールが血液に乗り、「血中アルコール」として全身を巡ることで消毒効果を得ることはできないのか。

  • 消毒濃度より先に、中毒が問題になる
    • 飲酒後の血中アルコール濃度は、消毒液として使うアルコールの濃度とは桁が違う。血液にアルコールが入ったことをもって、全身が消毒されるわけではない。
    • 高い血中アルコール濃度は昏睡や呼吸抑制を招き、死亡する危険がある。ただし、症状には個人差があり、特定の濃度を超えた瞬間に必ず呼吸が止まるというものではない。消毒に用いる濃度へ近づくはるか前に、深刻な急性アルコール中毒が問題になるのである。

終章:同じ成分でも、使う条件が違う

結論として、お酒を体内の消毒に使えないのは、「濃度」「接触時間」「人体への影響」という条件を、安全かつ有効な形で満たせないためである。

エタノールは、手指や適用できる器具の表面に、適切な濃度と方法で使えば消毒に役立つ。
しかし、飲み込めば唾液や胃の内容物で薄まり、吸収後は全身へ運ばれる。手指や器具の消毒と同じ条件を、体内にそのまま当てはめることはできない。

「今夜もアルコール消毒だ」というジョークは、お酒を楽しむための愛嬌のある言い訳として受け取るところまでだ。
お酒を飲むことと、アルコールで消毒することは、同じ成分を使っていても別の行為なのである。

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