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ハロウィンの提灯は、なぜカボチャ?──本家アイルランドでは「カブ」だった、移民が変えた祭りの姿

教養
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10月31日の夜、街の店先にオレンジ色のカボチャの提灯が並ぶ。目と口をくり抜いた「ジャック・オー・ランタン」は、ハロウィンの顔である。

だが、普段スーパーで買うカボチャは緑色のはずだ。

なぜ提灯のカボチャは、あんなに鮮やかなオレンジ色をしているのか。そして、そもそもなぜカボチャなのか。

本稿は、ハロウィンの提灯が「カブ」から「カボチャ」へ姿を変えた経緯と、日本のカボチャとの違いを解き明かすレポートである。

第一章:提灯にまつわる「さまよう男」の物語

ジャック・オー・ランタンには、アイルランドに伝わる民話がある。

  • ケチなジャックの末路
    • 酒好きで嘘つきのジャックは、悪魔を何度も騙して「自分の魂は取らない」と約束させる。しかし死後、生前の行いの悪さで天国には入れず、約束があるため地獄にも入れなかった。
  • カブのランタン
    • 行き場を失ったジャックに、悪魔は情けで燃える炭をひとつ渡す。ジャックは近くにあったカブをくり抜いてランタンにし、その明かりを頼りに今も暗闇をさまよっている、という話である。
  • 魔除けの灯り
    • このランタンはやがて、死者の魂が行き交うハロウィンの夜に、悪霊を遠ざける目印として家の戸口に置かれるようになった。

つまり、あの提灯の「怖い顔」は飾りではない。さまよう魂と悪霊に向けた、追い払いの顔だったのである。

ブクブー
ブクブー

「顔が怖いのには、ちゃんと仕事があったブー!」


第二章:本家ではカブを彫っていた

祭りの発祥地であるアイルランドやスコットランドでは、提灯は長くカブで作られてきた。

  • 素材は身近な根菜
    • 当時のアイルランドにカボチャは存在しなかった。カボチャはアメリカ大陸原産の作物で、ヨーロッパに広まるのは大航海時代以降である。手に入る根菜といえば、カブやルタバガ(スウェーデンカブ)だった。
  • 小さくて硬い
    • カブのランタンは手のひらほどの大きさで、身は硬く、彫るのは骨の折れる作業だった。それでも人々は顔を彫り、火を灯し続けた。
  • 今も残る本家の姿
    • スコットランドでは現在もカブ(ルタバガ)のランタンが作られている。カボチャの提灯こそ、実は「移住先の姿」なのである。
ブクブー
ブクブー

「カブを彫るの、手が疲れそうブー……」


第三章:移民がアメリカで素材を変えた

転機は19世紀、アイルランドを襲った大飢饉だった。

  • ジャガイモ飢饉と大移動
    • 1840年代、主食のジャガイモが凶作となり、百万人を超えるアイルランド人がアメリカへ渡った。人々は新天地にも、故郷のハロウィンの風習を持ち込んだ。
  • カボチャとの出会い
    • アメリカはカボチャの原産地であり、秋には大きな実が豊富に収穫されていた。移民たちはランタンの素材を、カブからカボチャへ切り替えた。
  • 彫るための完璧な条件
    • カボチャは大きい、中は空洞に近くてくり抜きやすい、実が柔らかく顔が彫りやすい。ランタンに求められる条件が、カブとは段違いだった。ここから「オレンジ色のカボチャの提灯」がハロウィンの標準になった。

素材の交代は、伝統の断絶ではない。伝統を続けるために起きた、必然の変化だったのである。


第四章:日本の「カボチャ」とは別物だった

では、なぜ日本のカボチャは緑色なのか。答えは「種類が違う」である。

  • カボチャは3種類の総称
    • 日本で流通するカボチャは、日本カボチャ・西洋カボチャ・ペポカボチャの3つに分かれる。スーパーで一般的な緑色の皮のものは西洋カボチャで、市場の大半を占める。
  • 提灯用はペポカボチャ
    • ハロウィンのオレンジ色のカボチャの多くはペポカボチャの品種である。直径30〜50cm、皮は滑らかで彫りやすく、果肉は薄く中が空洞に近い。観賞用に作られており、食べても甘みが少なく美味しくはない。
  • 名前まで旅をしている
    • そもそも「カボチャ」という言葉自体、1541年にポルトガル船がカンボジア産の実を豊後の大友宗麟に献上したことが由来とされる(諸説あり)。ポルトガル語の「カンボジャ」が転じた名前である。
  • 英語でも別物
    • 英語で「パンプキン」といえばオレンジ色の提灯用を指し、日本人が食べている緑色のカボチャは「スクワッシュ」と呼ばれる。

同じ「カボチャ」という言葉の陰で、食べる実と飾る実は、静かに分かれていたのである。


終章:提灯は、その土地の秋を映す

結論である。ハロウィンの提灯がカボチャなのは、カボチャでなければならない理由があったからではない。

本家では手に入るカブを彫り、移住先のアメリカでは豊かに実るカボチャを彫った。提灯の素材はつねに、その土地で手に入る「秋の実り」だった。オレンジ色は、移民の新しい故郷の色なのである。

ハロウィンの夜。日本の店先に並ぶオレンジ色の提灯を見かけたら、思い出してほしい。その丸い実の向こうには、カブを彫ったアイルランドの夜と、海を渡った人々の新しい秋がある。

ブクブー
ブクブー

「今年の提灯は、ちょっと違って見えるブー!」

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